隠し露天風呂を擁する良モール泉の宿 - 東鳴子温泉 旅館大沼

東鳴子温泉 旅館大沼
秋深し鳴子旅行の2泊目は東鳴子の旅館大沼。わざわざ五七五七七で書いてしまうくらい、古き良き和風旅館の雰囲気が残る。ここの特徴は貸切風呂の多さ。狭義の風呂でないのも含むとはいえ、1泊だとひと通り試すだけでもなかなか大変じゃないかな。

加えて車で連れて行ってもらう庭園露天風呂もある。ちょうど紅葉がいい具合の時に独占で楽しませてもらえたのは大収穫。

今回の湯めぐりのご多分にもれず結構なあつ湯だったのは、ぬる湯好きメンバー一同にとって慣れないところではあったが、お湯そのものは芳しいモール泉でいい感じ。大浴場で、貸切風呂で、露天風呂で、いろんなスタイルで堪能してみてほしい。

東鳴子温泉「旅館大沼」へのアクセス

旅館大沼は広いエリアにまたがる鳴子温泉郷の中で東鳴子温泉に分類され、最寄り駅はJR陸羽東線・鳴子御殿湯駅になる。駅からは徒歩5分程度と近い。国道から1本入った、さまざまな旅館が立ち並ぶ東鳴子のメインストリート沿いだから迷うことはない。

我々の場合はレンタカー。朝、鳴子温泉のホテル吉祥をチェックアウトしてから潟沼やこけし館を見学したり、鳴子観光ホテルへ立ち寄り湯したりしたものの、雨だしもう回るべきところもない。時間だいぶ余っちゃったかな。

と思ったら大沼は14時からチェックイン可能だった。ラッキー。じゃあさっさとチェックインして温泉三昧といきますか。

先に書いた通り場所はわかりやすいし、鳴子中心部からの車移動だとあっという間に着いてしまった。駐車場がどこかわからないので尋ねてみると、道路を挟んだ向かいのスペースに止めてくれとのことだった。


湯治宿の風情を残すアットホームな館内

本館と湯治館の合体でそこそこ大きい

旅館の写真を撮ろうとして「日本秘湯を守る会」の提灯に気づいた。へー、秘湯会の会員宿だったのか。それならお湯に間違いはなかろう。高まる期待とともに“駅近の秘湯”へと足を踏み入れた。

フロントの前にはちょっとしたお土産コーナー、その奥に1~2組の客が集えるくらいのロビーがあって、両者の間から大浴場その他のお風呂につながる廊下がのびている。
旅館大沼 ロビー
外観からわかるように当館は2つの建物からなる。フロントや大浴場のある2階建て木造和風の本館と、貸切風呂のある4階建て鉄筋ビル風の湯治館だ。小ぢんまりしたアットホームな風情を醸しつつ、見て回った感じだとトータルの収容力はあなどれないものを秘めていそうだ。

ノスタルジーを感じさせる部屋

我々が案内されたのは本館2階の6畳和室。奥にタオル掛けや洗面台の板の間スペースがある。トイレはない。2階と1階にある共同トイレを使う。ちなみに料金は違ってくるがトイレ付きの客室も選択可能。
旅館大沼 本館客室
部屋はきれいに管理されていて文句なし。エアコンあるから夏でも冬でも大丈夫そう。金庫あり。冷蔵庫はない。風呂上がりにビールをご所望なら1階へどうぞ。自販機があります。あとはWiFiあり。

窓の外は隣の建物ぽいのが見える。またJRの線路が近いため、時々ガタンゴトンと列車の通過する音が聞こえてくる。運行本数を考えても音質・音量を考えても気になるようなものではないと思う。鉄マニアだったらむしろ喜んでしまうのではないか。

補足としては、ウエルカムお菓子のくるみゆべしがやけに大きかったことと、部屋の鍵をかけるのにコツがいる。器用なメンバーは一発で成功させたけど、自分は初見で1分くらい格闘した。


本格的な純重曹泉、そして熱い

ミニマムサイズの陰の湯

混みだす前に行っとこうということで、さっそく湯治館の貸切風呂へ。本館2階→1階→湯治館2階→3階→4階の移動になり、上り下り含めてそこそこ歩かされる。これで利用中だったらショックでかいな(※予約制ではなく空いていれば自由に使ってよい方式)。いま空いてるかどうか事前にわかるシステムがあるといいが。

4階に着くと「陽の湯」「陰の湯」の2つの貸切内湯風呂があり、幸い陰の湯が空いていた。裏を返せば14時きっかりチェックインしたのにもう1箇所埋まってるんだからすげーな。入口前に掲示された分析書によれば「ナトリウム-炭酸水素塩泉、低張性、中性、高温泉」。純重曹泉を称するレベルとのこと。正確な定義はわからんが何だかありがたみがある。

陰の湯を2名以上で利用するとなると脱衣所が結構狭い。浴室は洗い場が1名分あって、浴槽はゆったりではないけど2名が横並びで入れるサイズ。

モール臭が強い茶色の湯

お湯は熱い。チョロチョロと源泉を投入する湯口パイプが壁から伸びていて、「施設全体に影響するから湯量をいじらないでください。温度調整はスタッフまで」と注意書きしてある。そして壁から伸びているもう1本の加水の蛇口。翌朝チェックアウト直前に入った際にぬるかったのは、我々が入る前にこの蛇口から盛大に加水した客がいたんだと思う。ありがとう。

お湯は少量なら透明で、湯船にたまると茶色く見えて底がぎりぎり見えるか見えないかくらいになる。そしてかなりはっきりとモール臭を感じる。個人的には好ましい匂いだ。今回ここまでタマゴ系の硫黄泉が続いたから、気分転換+新鮮味があってよろしい。

立ち上がると窓の外に陸羽東線の線路が見える。タイミングが合えば列車が通るところを見られる(見た)。列車からこっちを見られてる可能性は気にしちゃいけません。少なくとも立ち上がらなければ大丈夫。なお、陰の湯の底には丸石が敷き詰めてあり、それらは薬効&遠赤外線が云々の薬石とのこと。

ひと回り大きい陽の湯

お隣の陽の湯は脱衣所も浴槽も陰の湯よりひと回り大きい。でも2名規模ってとこかな。こちらは備長炭を使用しているのが特徴。洗い場は1名分。

夕食後に陽の湯へ一人で入りに行ってみた。他のメンバーは寝落ちしてたんでね。お湯は陰の湯と同じでやっぱり熱い。陰の湯共々、毛糸ほどの太さの糸くず状の湯の花がいっぱい舞っていた。

どこをどう使おうが個人の勝手だけれども、全体最適の観点では単身利用するなら陰の湯、2~3名なら陽の湯、4名以上が一緒に入りたいなら無理せず大浴場へどうぞってとこかな。

天女が見守る千人風呂

夕食直前と早朝には千人風呂の異名を持つ1階の大浴場へ。一応は混浴で19時30分~21時まで女性専用になる。こちらの泉質は「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、低張性、中性、高温泉」。浴室内に洗い場は6名分で、うちシャワー付きは4名分。

壁にはたくさんの天女の絵が描いてあった。千人風呂というよりは仙人風呂。中央に10名は十分に入れそうな浴槽がドンと構えている。お湯は陰・陽の湯で見た印象よりも透明度が高いようだ。それでも茶色っぽさは残っている。

そしてやっぱり熱い。湯口から離れて湯尻近くに位置してみても熱い。いやまいった。湯尻寄りに直径1メートルを超えるくらいの円形の「腰掛けるのにちょうどいい出っぱり」があって、そこに座って休憩をはさみつつ粘りはしたものの、長湯はできない。

すっかりゆでダコになって天女に見送られながら大浴場を出た。なお、1階の同じ並びには女性専用の小浴場と、貸切の一人専用風呂・足湯・ふかし風呂がある。


浴感がとても良い庭園露天風呂「母里の湯」

さあいよいよ目玉の庭園露天風呂「母里の湯」だ。1組につき1回30分だけ貸し切りで利用できる。希望時刻はチェックイン時に調整する。明るいうちにどうぞということで我々は夕方前の早めの時間をチョイス。5分前にフロントへ行くと車が待っていた。

車で数分走った裏山のような場所に突如、門が現れた。門の向こうの敷地内に露天風呂の湯殿がある。25分後に(次の組を連れて)迎えに来ますから、それまでにあがって待合所にいてくださいと指示を受けて入浴スタート。分析書を確認したら泉質は大浴場と同じだった。

露天風呂は屋根付きで、たしか木の風呂だった記憶。サイズは5名が横並びになれるくらい。大浴場のお湯よりもさらに茶色が後退してほとんど透明に見えた。

外気に触れるせいか、30分ごとに人がやって来るせいか、熱さがだいぶ緩和されていたのはありがたい。品の良いモール臭をようやくじっくり堪能できるぜ。遠くを見渡す景色ではないが池(?)や木々に囲まれた自然環境を眺めながら入浴できる。紅葉の赤や黄色がちょうどばっちり鮮やかだったのも運が良かった。

30分があっという間に過ぎてしまう良いお風呂。聞くところによるとお湯は毎日抜いて入れ直しているとか。浴槽にたまるまで6時間かかるらしい。並々ならぬ努力によって保たれている鳴子の隠し湯であった。


温泉水を使った薬膳鍋をいただけます

夕食は一汁八菜に挑戦

旅館大沼の食事は朝夕とも1階の食事処で。部屋ごとに決まったテーブル席が用意されている。夕食は一汁五菜・七菜とプランがある中で予約したのは一汁八菜。せっかくだからガッツリいきましょう。スターティングメンバーがこちら。
旅館大沼の夕食
やべえ、量が多い。鍋+焼物は前日の吉祥と同じく急に腹にズシーンとくる組み合わせだ。鳴子の温泉水を利用した薬膳鍋は、酢味噌みたいなタレにつけて食べるが、「味が濃い目なので鍋の汁を少し足してみてね」とのこと。焼き物は仙台牛の陶板焼き。あとは前菜のイチジクの甘露煮がちょっと珍しげ。

途中で出てきた銀だらみりん焼きを加えるとかなりのボリューム。完食したものの、せっかくの鳴子産ひとめぼれをほんの数口しかいただけなかった。最近このパターンばっか。米をもうちょっといきたいんだけどね。

食事のお供は地ビール「鳴子の風」。ほかに地酒をいろいろ取り揃えてあるから日本酒好きなら目移りするかもしれない。

胃にやさしげな朝食

朝食はこのような感じ。前夜の分がまだ胃に残ってる気分だから、これくらいの量でいいかな。鍋の中身は温泉水入りの湯豆腐。
旅館大沼の朝食
納豆は地元のくるみ豆を使っているそうだ。へー、初めて見聞きした。普通の納豆よりも粒が大きい。なんだかんだでお米を前夜よりも多く食べられて良かった良かった。昼飯抜きでも大丈夫な程度にはお腹いっぱいになった。

 * * *

自炊客に対応しているように、古き良き湯治宿として利用することもできるし、我々のような一般的な観光旅行(主目的は湯めぐりのつもりだけど)の投宿先としても少人数グループなら十分に機能する旅館大沼。車でも鉄道でもオッケーな場所なのも便利だ。

お湯は熱いが秘湯を守る会加入の湯質は本物。あのモール泉を気に入る者は多いだろう。特に庭園露天風呂はいっそうやさしい感じでじっくり浸かれる。もっと入りたかったくらい。ほかに強いてあげるなら、鉄道ロマンを求める方もどうぞ、ってところかな。