山梨県には優れたぬるい温泉がいっぱいある。その中のひとつが南部町にある佐野川温泉だ。過去に行ったことのある人に体験談を聞くと、大変良いお湯だったと高い評価を与えていたので、自分もいつか行ってみるべしと狙っていた。
そしてこのたび「山梨ぬる湯めぐり」の名目で立ち寄る機会が訪れた。厳しい残暑が続いていたから季節的にもちょうどいい。と思ったら急に涼しくなっちゃったのはご愛嬌。
たしかに大変良いお湯だった。ぬる湯慣れしていないと面食らうかもしれない、冷たく感じる温度だが、受け入れることができるなら当湯の価値がわかるはずだ。しかも浸かる場所によってはクオリティがさらに跳ね上がる。ベストの場所では奇跡のような現象を目にすることになるだろう。
佐野川温泉へのアクセス
佐野川温泉まで鉄道で行こうとするとJR身延線・十島駅が最寄りになる。甲府から南下するよりも静岡県の富士や富士宮からアプローチする方が近い位置関係。下車したら徒歩35分の道のり。バス便はないと思う。駅前にタクシーが待機しているとも思えない。頑張って歩きましょう。
今回は車利用のグループ旅行なのでアクセスにまつわる悩みはない。新東名の新清水ICから国道52号を北上し、十島駅の手前で富士川を渡る。少しだけ身延線と並走したら富士川の支流・佐野川に沿ってどんどん遡る。どんどん道が狭くなってもどんどん進む。道が狭くなってから1キロ弱で現地に到着。
もし高速道路を極力活用したいなら、新清水ICで下りずに新清水JCTから中部横断道に入り、富沢ICを出て少し南下するルートも可。東京方面からだと若干遠回りになるが。
また北回りで中央道・双葉JCT→中部横断道・下部温泉早川IC→国道52号南下のルートもある。予定では2021年夏頃に双葉JCTから富沢ICまで直行できるようになって、さらに便利に。
タマゴ臭と泡付きのある温泉
人気の高さが垣間見える
平日午前だというのに駐車場はもう半分くらい埋まっていた。すげー人気だな。日帰り入浴は朝8時半からやってるみたいだが、地元の常連さんや評判を聞きつけた湯めぐり客がひっきりなしに訪れるものと見受けられる。
入館して受付で1時間券650円か2時間券1000円を買う。今回は1時間券。ロビーの一角にお土産品が陳列されており、山梨だからほうとうもあるね。
左手に男湯女湯の入口があって、上部にはでかでかと泉質の説明が書かれてあった。脱衣所にも分析書の掲示はあったはずで、どちらにせよ「単純硫黄泉、アルカリ性、低張性、低温泉」とのこと。豊富な湯量の源泉かけ流しである。
熱めに感じる加温内湯
脱衣所では縦長タイプのロッカーを使う。100円いらずの鍵付きだから安心ね。数は十分ながら意識して空きを探すくらいには埋まってた。
浴室はまったく古びたところがなく、枯れた秘湯というイメージは当てはまらない。芋洗いまではいかないにしても客数はそこそこいて出入りも多いから、どちらかといえば活気がある方ではないかな。洗い場は6名分くらいあったはず。
奥には2つの内湯浴槽があった。左手には向かい合わせに6名+6名まで入れそうな加温浴槽。お湯は微濁りのように見えて、浸かってみると最初だけ熱めに感じる適温。男湯の中では一番温度が高くて40℃以上ありそう。お湯の匂いをかぐとはっきりとタマゴ臭がする。ぬる湯好きにとっては他の浴槽で冷えを感じた時にひと息入れる役割となるだろう。
非加温内湯は泡付きあり
右手はひと回り小さくて向かい合わせになれないので6名までが入れそうな非加温の浴槽。男湯の中では2番めにぬるい。34℃ってところか。タマゴ臭は相変わらずで明らかな泡付きがあった。さっきの加温浴槽では泡が付かなかったから、加温することで泡が飛んでしまってるんじゃないだろうか。こういう特徴を重んじる人には大変良い湯質である。
ぬるいからいつまでも入っていられる、と言いたいところだけど、この日の涼しさだと簡単にブルブルっと震えてきてしまうから、隣の加温浴槽と行ったり来たりして冷温交互浴にすると幸せになれる。実際そのように行き来する客もちらほら。
自分も交互浴したかといえば、しなかった。ぬる湯好きにはたまらない34℃級にもかかわらず長く浸かることさえしなかった。露天風呂のクオリティがあまりに抜けていたからである。では露天エリアへ出てみよう。
特徴が突出している驚異の露天風呂
気持ち良い温度の加温露天風呂
露天エリアへ出るとすぐ目の前に6名サイズの加温露天風呂がある。加温といっても体温と同じくらいで36~37℃とみた。男湯の中では3番目だけどぬる湯といっていい部類。これはこれで気持ちの良い温度なのでわりと人がやって来る。
内湯ではわかりにくかったが、露天の岩風呂に張られたお湯はクリアな薄緑色を呈しており、明らかに無色透明ではない。タマゴ臭とあわせて温泉気分を盛り上げてくれる特徴だ。しかし残念ながら加温のためか泡付きはほとんど見られなかった。
ここは体温に近い温度による気持ち良さがセールスポイント。これくらいの温度なら長時間浸かっていられる。周囲を観察すると浸かりながらウトウトしている客の姿もあった。なお、露天エリアは目隠しの塀にぐるっと取り囲まれて眺望はない。
非加温露天風呂は冷たいくらいのぬる湯
加温露天風呂の隣に真打ちが控える。12名までいけそうな大きな非加温の岩風呂だ。一番奥に湯口があって高い位置からジョボジョボと源泉が落とされている。飲泉できるそうな。過去の体験談によればペットボトルに汲み取る人もいたとか(この日はいなかった)。
ここは真打ちだけあってお湯の特徴が他よりも際立っている。薄緑色がはっきりしているし、タマゴ臭も強め。温度は男湯の中で一番低い。32℃、いやもっと低いかもしれない。真夏の炎天下ならいざ知らず、秋らしい涼しさの中ではぬる湯好きにとってもちと冷たい。浸かりながらしばしば体に震えが走る。
そして泡付きが他と段違いにすごい。湯口付近は人が多かったので最初は湯尻近くに陣取っていたが、そこでも十分に泡が付く。へー、すごいなー、と感心していると、やがて湯口の隣を占めていた同行メンバーが「こっちに来てみなよ」と場所を譲ってくれた。
移動してみてびっくり。泡付きのレベルが全然違う。炭酸泉かと思うくらいに全身びっしり。なんじゃこりゃあ。お湯の中に泡が大量に漂っていて、そのせいでお湯が白っぽく濁って見えるほどだった。
奇跡のベスト場所
不思議なことに自分のいる場所だけが飛び抜けていて、そこから人ひとり分離れるともう泡付きがガクンと落ちる(それでも十分に多いけど)。泡格差が半端ない。不思議だなあ。湯口から落ちる源泉の落下地点が一番ではない。落下地点からある方向に少しずれた位置でないとだめなのだ。反対側にずれてもだめ。不思議だなあ。
当然ながらそのベストの場所を狙う客はひとりやふたりじゃない。だいたいつねに誰かが占めているし、去ればすぐ別の誰かが後釜に入る。ベストそばの「次善の場所」で虎視眈々と次の座を狙う待ち人も。ベスト場所は長らく占有しないで適度に譲り合うのが吉だし、次善・次々善の場所だって十分にすごい。
たまに内湯で気分転換しつつ非加温露天風呂を中心に、あわよくば泡良いベスト場所を占めさせてもらいつつ、あっという間の1時間だった。
* * *
佐野川温泉、脱帽です。もっと暑い日だったらさらにハマっただろう。32℃級から40℃オーバーまで、4つの浴槽それぞれの温度が少しずつ違うので、移動を繰り返すと飽きが来ないし本当にいつまでも楽しめてしまう。
このクオリティを人々が放っておくはずもなく、おそらく休日は結構混むんじゃないかと思われる。ベスト場所の争奪戦もすごそう。ゆっくり楽しむなら平日狙いかな。旅館も営業しているから泊まりで行けば好きな時に好きなだけ入れる。同行メンバーとはいずれ宿泊再訪の話も出ているが、さてどうなるやら。
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