伊豆の踊り子にゆかりの深い湯ヶ島温泉。ここに贅沢な気分で過ごせる古民家風旅館「白壁」がある。伊豆の踊り子と何のゆかりもない面々が、たまには贅沢しましょうということで当館のお世話になった。しかも柄にもなく露天風呂付き客室にしちゃいまして。
…やばい。これはやばい。何かの間違いじゃないかと思ってしまうようなハイスペックな部屋だった。スペックに見合ったスマートな振る舞いができず、いつもの調子でだらだら過ごしてしまったのは、慣れてないからしょうがない。
温泉の面もしっかりしている。源泉かけ流しの風呂に湯ヶ島の里と川の雰囲気を感じながら入ることができる。こういうところへ当たり前のように来られたらいいんだけどな。
湯ヶ島温泉「白壁」へのアクセス
旅の2日目。畑毛温泉・大仙家を出た我ら一行は途中で伊豆温泉村・百笑の湯へ立ち寄った後、国道414号を修善寺の先へと進み、西伊豆・土肥へ向かう国道136号との分岐点まで走ってきた。東京方面から直行する場合も伊豆縦貫道の現在の終点である月ヶ瀬ICを出れば同じ分岐点に達する。
ここから湯ヶ島は414号をあと少し南下するだけ。車だとすぐ着いちゃう。まだチェックインには早すぎたから、湯ヶ島を通過して浄蓮の滝を見学した。それから湯ヶ島地区へ戻って温泉旅館が集まる川沿いの方へ向かうと「白壁荘」の看板が見えてきて現地に到着。※以前は白壁荘という名前だったようだ。
白壁は冒頭写真に示した本館と、道を挟んだ川沿いの別館(?)に分かれている。しかもそれぞれがさらにいくつかの棟からなっており、結構複雑なつくりをしていた。近くの橋から別館を撮影したのがこちら。赤い屋根&白い壁の建物はすべて当館の一部だと思って間違いない。
この時点でまだチェックインには早すぎたから、スタッフさんの提案で湯道という散策路を歩いてみた。1周30分くらい。半周ほどしたところに本谷川・猫越川が合流して狩野川となるY字形の地点があり、本谷・猫越にかかる2つの橋(男橋・女橋)をあわせて出会い橋という。ロマンチックですな。
古民家風・和モダンな旅館
複雑につながった館内
ではチェックイン。フロントからロビーにかけての雰囲気は古民家風でもあり和モダンでもあり、我らにしてみたら相当ハイソである。
多くの棟が複雑につながった構成となっているため、館内は迷路のようだ。初見だと全体像が把握できないかもしれない。また通路のアップダウンも多いから足腰の弱い方はそこだけ注意。
今回予約したのが「スタンダード料金で露天風呂付き客室にグレードアップ」プラン。贅沢の種を明かせばこういうこと…正規料金じゃ正直無理っすわ。で案内されたのが別館の部屋。別館は外へ出て道路を渡ってもいいけど館内の地下通路でもつながっている。
驚きのハイスペックな部屋
部屋に入って驚いた。まず10畳のメイン部屋がしゃれてる。囲炉裏ぽい上にガラスと板をはめ込んだ低いテーブルと座椅子。奥には「詩は志なり 井上靖」と書かれた額がかけてあった。井上靖先生が帰省の度に愛用した歴史ある部屋だって。泊まっちゃっていいのか。
6畳部屋にはベッドが2台。
さらにテレビのある8畳部屋。ここは最後まで利用せず宝の持ち腐れ状態。3名以上で泊まるとこの部屋に布団を敷くことになると思われる。
言うまでもなく金庫あり、WiFiあり。冷蔵庫には別途精算の瓶ビールが入っていた。さらに独立したスペースに洗面台とシャワートイレがある。そして露天風呂がこちら。詳しくは後ほど。
これほどのハイスペックな部屋にいてもやることは一緒だった。風呂に入るか、スマホでネットか、ちょっと喋るか、寝るか。ガウンを羽織って猫を抱きながら葉巻をくわえつつブランデーグラスを揺らすわけではない。
源泉かけ流しの湯をいろいろな形で楽しむ
別館にある大岩の湯
当館の温泉は客室露天風呂を含めてすべて源泉かけ流しである。まず向かったのは別館側にある大浴場「大岩の湯」。夜18時までと翌朝9時以降はこちらが男湯になる(女湯は後述の本館側大浴場)。脱衣所の入口に分析書が貼ってあって「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。
フェイスタオル・バスタオルは脱衣所に備え付けてあって毎回手ぶらで行ってよし。ハイクラス旅館はこういうところがいいやね。
浴室の手前部分にカランが6台。シャンプーなんかはポーラのやつだったと思う。その奥に内湯の小浴槽。当館の客層に合わせて余裕めにいえば1名サイズ。ここは適温か、少し熱く感じる。季節と好みからパス。
ぬるめでマイルドなのが良し
その奥にゆったり基準で5名サイズの大浴槽。ここが体験した中で一番ぬるくて、40℃を下回る感覚で入りやすかった。お湯の見た目は無色透明で湯の花や泡付きはない。特徴的な匂いもないから万人向けのマイルド系といえる。長く楽しめるからいいのではないだろうか。
背後は普通の壁じゃなくて、なんか岩がせり出している。それで大岩の湯っていうのかな。反対側は全面ガラス張りなので、内湯でありながら明るくて開放感がある。
その奥にはガラス張りのない半露天風呂。ゆったり基準だと3名までかな。温度はややぬるめの適温。内湯もそうだが湯口のまわりや縁のあたりには白い析出物がびっしりこびりついているし、床にあふれ出ていくお湯の量もなかなかだし、結構なお点前なのだ。
お湯に浸かったままだと木々が見えるくらいだけど、立ち上がって歩み寄っていくと川の流れが見えたりする。釣り人も見えたりする。
本館の珍しい巨木風呂
夜18時から翌朝9時までは本館側の大浴場が男湯になる(女湯は上記の大岩の湯)。向かう途中で中庭に沿った廊下を通るのが風流だ。
こちらの浴場は巨木風呂・巨石風呂という2つの露天風呂からなり、入口と脱衣所は2箇所に分かれているけど、中でつながっている。
巨木風呂の方はカランが3台。でもって、超ぶっとくて長い丸太をパッカーンと縦に割って、中をくり抜いて湯船にしたやつがちょっと高い位置に据え付けてある。浸かるには10歩くらい段を上っていく。お湯の特徴は大岩の湯と同じで熱さは平均的。
丸太をくり抜いているから普通の板を組んで作った風呂とは違う肌触りがある。サイズ感は4名程度。あと屋根付き。
こちらも豪快なつくり、巨石風呂
巨石風呂の方はカランが4台。ご想像の通り、超でっかい一枚岩をパッカーンと縦に割って、中をくり抜いて湯船にしたやつが巨木風呂よりも高い位置に据え付けてあった。浸かるには10歩を超える石段を上っていく。お湯は巨木風呂と同様。3~4名サイズ。屋根付き。
本館の屋根と張り合うくらいの高さに位置するので、明るい時に来れば目隠しの塀越しに自然の風景が目に入ってなかなか良い。あとは自分だけに違いない感想として、木の樋の湯口がずいぶん強引な場所から延びてきてるなあと思った。
大浴場はいずれも混雑する場面はなかった。むしろ独占チャンス大。他にも貸切風呂があるようだが、今は工事中むにゃむにゃの会話がどこからともなく聞こえてきたから、2020年中に貸し切りを狙うなら状況を確認してみた方がいいかも。
部屋の露天風呂は湯の花がすごい
客室の露天風呂についても触れておこう。カラン1台の洗い場を通り抜けると先に写真を示した樽風の浴槽がある。1名サイズ。俺がアイツでアイツが俺で、くらいの仲良し関係にあるなら2名でもなんとか。
金属板が湾曲したスタイリッシュな湯口が目を引く。お湯は適温。そして最も印象的だったのが湯の花。他では見られなかったのに、この露天風呂だけ白い糸くずのような湯の花が舞っていた。しかも入るたびに目立ってきて、チェックアウト前の最後の入浴では糸くずの大きさと密度がえらいことになっていた。すげー。
立ち上がると橋や対岸の道路が見える。湯に浸かれば空を見上げて鳥のさえずりを聞くことになる。たくさんの湯の花に囲まれて、いやあ贅沢しちゃったなあ。
天城のわさびが大活躍する食事
わさび鍋が印象深い夕食
白壁の食事は朝夕とも本館の食事処で。部屋ごと決まったテーブル席が割り当てられる。大広間ではあるが、各テーブルは十分な間隔が取られていて、別グループの存在はまったく気にならない。
夕食のスターティングメンバーがこれ。食前酒は自家製梅酒とのこと。肉・魚・野菜のバランスが良さそう。
主役のひとつがわさび鍋だ。水炊き風の鍋が煮えたら天城クレソンと大根おろしを入れ、さらに天城生わさびをすりおろして入れる。鍋にわさびを入れるって発想はなかったな、へー。使われる鶏肉もわさびの葉っぱを食べて育った軍鶏だそうだから万事徹底している。みぞれとわざびでさっぱりといける。
他に天城あまごの杉板焼きが出てきた。最初から最後まで地産地消的なメニューが多くて、ここまで来た甲斐があったと思わせた。今宵はリッチな気分ですな。
わさびご飯の朝食とおしゃれなラウンジ
朝食はこれ。鍋は湯豆腐。食前飲料(?)はすりおろし感たっぷりの野菜ジュース。自分基準だとかなりの品数と量。
なお、朝も天城生わさびとおろし金が登場する。わさびご飯をどうぞという趣向。しかしアジの開きもあるし、納豆もあるし、ご飯をおかわりしまくらないといけなくなってしまう。自分は朝からそんなに食べないので、わさびご飯1杯だけにして、納豆はパス、アジは単体で食べた。バディなきアジには気の毒だったが、やむなし。
食後は別の場所にあるラウンジでおコーヒーをいただく。ここは湯あがり休憩所としても使われ、アイスキャンディーが「ご自由にどうぞ」と置いてある。ただ椅子に腰掛けて休むだけではない、いろいろなオブジェに囲まれた、おしゃれすぎる空間だった。
* * *
たまには贅沢しようと(グレードアッププランだけど)行ってみたら期待を超えるレベルだった白壁。古民家風とスタイリッシュがうまく融合され、リッチな気分で過ごすことができるうえ、我らのように温泉めぐりの旅行者も満足できる風呂がある。
世の中まだまだ知らない世界がいっぱいあるんだなあ。チェックアウトとともに我々は元の世界に戻るが、たまには白い壁の向こうの世界へ顔を出せるようになりたいもんだ。
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