千葉県の温泉地は冷鉱泉を含めれば決して少なくはない。今夏のグループ旅行で房総半島へ行くことになったので調べてみると、養老渓谷温泉郷が目に留まった。夏の渓谷はいかにも涼しげだし、滝めぐりの遊歩道もあるし、いいかもね。実際は梅雨前線の大活躍によりそれどころじゃなかったのだが…。
泊まったお宿は「川の家」。名前の通り、川のすぐそばに立っている。静かな環境に囲まれた実質的な一軒宿であり、大勢で乗り込んで飲めや歌えやするよりは、少人数で隠れ家的に使うのに向いている。
お湯は南関東でしばしば見られる黒湯だ。冷鉱泉とはいえ浴感はなかなかのもので、ちゃんと効いてる感じがする。風呂上がりのポカポカもかなり長く持続する。これはいいね。
養老渓谷温泉郷「川の家」へのアクセス
房総半島の内陸へ
東京方面から養老渓谷へ鉄道で行こうとすると、JR内房線で五井へ向かい、小湊鐵道に乗り換えて70分ほどで養老渓谷駅で下車。駅からバスはあるが本数は少ない。徒歩なら30分くらい。天気が良ければ適度な散歩がてらになるかも。
車の場合は出発地によって京葉道路経由か東京湾アクアライン経由かの違いはあるが、とにかく木更津JCTで圏央道に入り木更津東ICを出る。あとは国道410号→県道160号→県道32号→県道81号をリレーして現地へ至る。
実際の我々は車で鋸南町の保田へ寄り道した。小学校を改装した道の駅や人気の漁協直営食堂「ばんや」を目当てに多くの観光客が訪れるところだ。そこから何も考えずカーナビの言うがままに養老渓谷へ向かった。たしかロマン渓谷という場所を通ったり、久留里線と並走したり、亀山湖を見たりしたな。車1台分の幅しかないトンネルなど、一部区間は道が狭いので運転慣れしてないと神経を使う。
2階建てトンネルの向こう
で、とにかく川の家の看板が出ているところで県道を外れて脇道へ入ると、すぐに車1台分の幅しかないのに出口がはっきり見通せない、ドライバー泣かせのトンネルが現れた。素掘り風の箇所がある素朴なトンネルだなあと当初はそう思うだけだったが、実は共栄・向山トンネル=通称「2階建てトンネル」という有名スポットだった。たとえば廃道探索サイト「山さ行がねが」の中に隧道レポートがある。
途中で明るい光が差すところがあるなあと感じたのは、ちょうど2階建ての出口が見える位置だったわけだ(車の中からだと2階建てとは気づかなかった)。のちに若者グループが徒歩でトンネルへ出入りする光景が見られたのは、聖地巡礼的な行動だったわけだ。なるほど。
トンネルを出てすぐ左手に川の家がある。
昔ながらの風情漂う旅館
本当に川のそば
川の家の駐車場はよくわかりません。トンネル出口の右手の空き地が駐車場にも見えるし、旅館の前のスペースに止めればいいようにも見える。当時は女将さんに訊いたら旅館前に置いちゃって下さいとのことだった。その後、数組の客の車が同じように旅館前に止めたら結構びっちり。一番奥に止めた車を翌朝最初に出すのは(特にバックで出なきゃいけない時)難しい場合があるかもしれない。
当館が川のそばに立つというのは下の写真のような状況である。養老川の本当にぎりぎりのところ。撮影場所となった赤い橋を渡った先は、弘文洞跡なるスポットや奥養老バンガロー村へ通じている。
ではチェックイン。館内は昔ながらの温泉旅館といった趣。館内を探検することはなかったが、あとで自販機を探しに行ったメンバーによると、ソフトドリンクは売ってたけどお酒はなかったそうだ。館内で調達するならフロントに電話して部屋へ持ってきてもらう方式になる。
2間続きの広い客室
案内された部屋は2階の6畳+6畳和室。我らには十分な広さ、なんだか得した気分。それなりに年季は入っているものの取り立てて不都合はない。
シャワートイレ・洗面台あり。金庫なし。冷蔵庫なし、なのでソフトドリンクは自販機、お酒はフロントへどうぞ。電波の受信を山に邪魔されてしまうせいか、あるいは雨雲のせいか、テレビの映りはいまいち。さっきまで絶好調だったのに突然映像が乱れ始めたら、その局はしばらく視聴不能になってた。WiFiはフリースポットあり。
川が近いし季節柄の羽虫が出るかと思ったけどそんなことはなかった。窓からの景色はこんな感じ。当初は増水した川の濁流がおそろしいほどの勢いだった。翌朝になって水が引いて濁りが薄れてきた時に撮ってみたのがこれ。好天ならもっと清流ぽく見えるんだろう。
不思議と気持ちの良いお風呂
黒湯がこんにちは
さっそく浴衣に着替えて風呂へ行く。2階の奥の階段を下りると1階に男女別の入口があった。男湯の脱衣所はそれほど広くない。幸い誰もいなかったものの、他グループとかち合ってたら相当窮屈だっただろう。お互いにあうんの呼吸で融通しあって時間をずらのが吉。
貼ってあった分析書には「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物冷鉱泉」とあった。湧出温度16℃を41℃まで加温して提供しているようだ。あと循環・消毒あり。
浴室は新しくもなく古くもなくの中庸。それほど広くなくて3人まで、頑張って4人までじゃないかな。カランは3台ある。奥に3名サイズのタイル浴槽があって黒湯で満たされていた。深さの半分程度までは見えるが底は見えない。
最初は熱いが慣れると良好
お湯をすくってかけ湯してみた。あちい。もしや結構なあつ湯なのでは…ぬる湯が好きで熱いの苦手なので覚悟して浸かってみた。うおー熱い熱いあつ、あ? アツクナーイ! 熱かったのは最初の一瞬だけですぐに慣れた。なんだかわからないが客観的には適温といえよう。
むしろ慣れてきたら気持ちのいい温度だぞ。不思議だなあ。湯口には4本のパイプが突き出ており、特に両端からたくさんのお湯が注ぎ込まれていた。一方が熱めで他方が常温。このバランスで湯温を調整しているのだろうか。合わせると相当な量で、浴槽のサイズを考慮すると十二分なかけ流しの雰囲気になる。
実際にお湯が鈍ってる感じは全然しなくて、なかなかいいじゃないかと思った。温度に慣れてしまえばしばらく浸かっていられる。お湯をすくって鼻を近づけると弱めながらも黒湯系の匂いがするし、ヌメりのある肌触りも結構結構。
開いた窓からチラチラと養老川を鑑賞しつつ入れば気分も良い。すでに満員御礼の場に突っ込んでいってしまうというKYさえ回避できるなら、ゆっくり浸かって「あーいいお湯だった」と満足して終われるだろう。
これが名物「洞窟風呂」だ
翌朝には男女が入れ替わっており、変更後の男湯は当館名物の洞窟風呂だった。浴室に入ってみると、壁から天井にかけてアーチ型になっていて、洞窟というよりは地下道というか歩行者専用のトンネルみたい。もちろん窓はついてない。でも熱気がこもって苦しいということはない。
手前にカランが2台あって奥に4名サイズの浴槽。湯口はパイプでなく洞窟から湧き出してる風。朝早かったおかげか、うれしいことにまだぬるかった。時間が経つにつれてどんどん熱くなっていく可能性が高いから、今のうちにと楽しんでおいた。
温泉は熱いものだと考える同行メンバーは「なんだ、ぬるいなあ」とすぐに出てしまったけど、自分にとってはまたとない僥倖。先に部屋へ戻ってもらって居残って粘った。洞窟よりはぬる湯の印象が強い朝風呂であった。ぬるいのはきっと、たまたまだったにせよ。
2つの風呂のどちらも、出た後の温まりの持続が半端ない。冷鉱泉なのに、いつまでも汗が引かずポカポカしていたのは、夏だからで片付けられるとは思えない。やっぱり温泉の効能じゃないかな。
渓谷の宿として申し分ない食事
うなぎが登場する夕食
川の家の食事は朝夕とも宴会場を仕切った別室で。グループごとに個室が割り当てられる。夕食は18時からで固定されており、準備ができたら部屋まで知らせに来てくれる。
我々が予約したのは基本コースだった。もう量を求める面子じゃないんで多すぎないコースにしたもんね。と油断して昼に保田でガッツリ食べてしまったのが後に胃袋を苦しめることとなる。それはそれとしてスターティングメンバーがこちら。
お造り3点のうちのひとつは生湯葉、もうひとつは鱒だと思う。いい意味で素朴な里の料理ぽくて結構ですな、量もちょうどいいし。と、お酒とともに食べ進んでいくと、途中でスッと大物トリオが投入されたのである。なんだとお。
鮎塩焼き、天ぷら盛り合わせ、そしてうなぎ。こりゃ基本の域をすっかり越えてますぜ。少なめなどというチンケな予想は完全に粉砕された…昼飯との合わせ技でかなり胃が苦しくなってしまった。まあ完食しましたけど。鮎とかうなぎとか、ご飯が欲しくなるのがまたにくいね。
本当は米もしっかり食べておきたい朝食
朝食も同じ別室で。時間は8時固定。前日に食べ過ぎたからこれくらいでもう十分。
残念だったのは後々への警戒心が働いて、ご飯の量をかなりセーブしてしまったことだ。千葉には多古米とか長狭米とかの高名なブランド米があるし、実は侮れない米どころなのである。ここで出される米もうまいに違いないのだ。しかしおそるおそる少量を口にして終わらせてしまった。あーもったいない。
この体たらく、寄る年波には勝てぬで説明がつけばいいけど…。コロナ自粛中の枯れた食生活が影響して少食に体が順応してしまった気もする。旅の「食」を楽しむためにも何とか改善したい。
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曜日を考慮に入れても、旅館規模と駐車台数から判断して、なかなかの繁盛ぶりとみた。コロナのことを思えば健闘してるんじゃないか。しかも我々以外のグループは常連ぽい振る舞いだった。隠れ宿の湯というサブタイトルを冠するくらいだから、そういう雰囲気が好きな人には刺さるんだろう。
コスパを強調するつもりはないが、基本コースでもうなぎが出てくるってのは大胆なサービス。そして不思議と気持ちの良い黒湯。結構ですな。今度は渓谷美を楽しめる季節・天候の時に来てみたい。
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