熊本県の温泉といえば黒川をはじめとする阿蘇エリアや歴史ある山鹿、あるいは小京都・人吉がよく知られているだろうか。だが今回の遠征のためにいろいろ調べてみると、県南の海寄りに大変結構なぬる湯があるとの情報をキャッチした。
その名も湯浦温泉「亀井荘」。観光・宴会旅館のポジションに振り切ってはいない。地元の方が通う地域の浴場、保養のために滞在する湯治場、それらの要素の方が強いくらいの居心地の良い宿だ。
ぬる湯好きにとってこの上ない温泉を味わえるだけでなく、不知火海の新鮮なお魚も味わえるんだから、たまりません。
途中で日奈久温泉・旅館幸ヶ丘に立ち寄り入浴したりして、湯浦に着いた頃には16時をずいぶん回っていた。秘境ではないが雑然とした市街地でもない、ローカル色豊かな風景の中で夕日に照らされたホームは、14歳の武田鉄矢がレールの響きを聞きながら遥かな旅路を夢見てそうな趣がある。
駅を出たら前の道路を八代方面に向かって進む。亀井荘までは徒歩10分だからそんなに遠くない。この点も宿選びの決め手の一つであった。
途中で道が二叉に分かれるところに来たら、道なりに踏切を渡る左側を行こう。すると湯浦川に出合う。橋があっても渡る必要はないけど、川を撮影するために橋の真ん中まで行ってみた。
写真の右に亀井荘が見えてますね。
案内された部屋は1階の4.5畳和室。予約時に人数と先着順で部屋はおまかせだったからな。まあ一人なら狭いことはないけど、この広さでソファー風の座椅子が置いてあるのは珍しいかも。なお布団敷きは自分でやる。
部屋は清潔・新しめで十分快適。洗面台やシャワートイレは専用のスペースを取って設置してあるから居住空間としてはスペック以上に広く感じる。金庫はなくて空の冷蔵庫あり。
照明はリモコンで調光できるやつだった。自分ちよりはるかに先進的だぞ。一般のWiFiはなく、くまもとフリーWiFiというのを利用する。ブラウザからユーザー登録するとか面倒だったので使わず、スマホのテザリングでカバーした。
泊まった部屋は川側にあり、川沿いの道路がすぐ目の前。木の柵で視界を遮られていることもあって景色云々を求めてはいけない。川の水音や車の騒音は全然意識に上ることなく、一切気にならなかった。
夕方から夜にかけては奥左側が男湯だった。脱衣所も浴室もまだ新しくてきれいな感じ。鄙びた湯治の風呂場をイメージしていたら全然違った。えらくモダンじゃないの。しかし各所に木の存在感があって、無味乾燥ではない風情はある。
洗い場は4名分。シャンプーやボディソープに馬油が使われているのは結構なり。浴槽は5名サイズで旅館の規模に見合っているが、おそらくはご近所さんが足繁く通って来ているものと思われ、わりと混んでいる。人気あるんだなあ。
湯口からの投入量はチョロチョロなんてケチなもんじゃなくて、しっかりと注がれるから、オーバーフローして出ていく量もそれなりに多い。大したもんだ。匂いを嗅いでもピンとこなかったのは鼻が慣れてしまったからだろう。客観的に考えて無臭ってことはあり得ない。
1時間でも浸かっていられそうだったけど、夕食時間が迫っていたし、自重して40分くらいにしておいた。でも本気出せばまだまだいけた。
当館には貸切風呂があって宿泊客は夜23時までに1組につき1回・1時間利用できる。チェックインしたときにはすでに18時か22時しか空いてなくて後者の枠を押さえていた。
基本的な特徴は夕方の男湯と同じ。浴室に入った際に感じた温泉臭が強めだったのと、シャワーから出てくるのも温泉だったのが印象深い(きちんと把握してないだけで実は大浴場のシャワーも温泉かもしれない)。
そして貸切風呂の最大のインパクトは、出た後にやたらと体がポカポカする! そういう泉質だと説明書きはあったにせよ、想定外の驚異的な温まり方だ。過去のぬる湯体験でもこれほどのレベルはなかった気が。
あまりに温まったので、寝る際は真冬にもかかわらずエアコンを切って布団から腕を出したままの姿勢でよかったくらい。あれは一体なんだったのか。
洗い場は3名分。脱衣所に「こちらのシャワーは温泉ではありません」と注意書きがある。浴室の雰囲気は前日の2箇所に比べるとややレトロで素朴な感じがある。でも全然きれいですけどね。
浴槽は3名サイズ。洗い場に人が座っているところを真横からのぞき込むような位置関係にあたる部分には仕切りが設けられている…ちょっと説明が難しい。
注目すべきはお湯の投入量。ライオンさんの口からドバァァァーッと、やけくそのように源泉が噴き出している。当然ながら浴槽の縁からあふれたお湯の量も多くて床の上が川のようになっていた。
大量のお湯が排水溝へ抜けていくときの、家庭風呂でお湯を抜くときに出る音を何倍も豪快にした感じの音もすごい。ズゴゴゴゴ…。闘気をまとったラオウ様のお出ましかよ。いや、正確には、ズゴゴゴゴボボボモ゛モ゛モ゛…かな。
泡付きはすこぶる良いし、他より一段ぬるい印象もあったし、朝6時台と朝食後に入ってずっと独占だったし、広い方の浴場や貸切風呂にも負けない存在感を放っている。
夕食のスターティングメンバーがこれ。不知火海の実力派をキャスティング、こいつは海の紅白歌合戦や~。
しかし申し訳ないことに聞いた説明をあらかた忘れてしまった。サワラ・モンゴウイカという単語だけは覚えている。でも本当やばいっす。全部がうますぎる。イカは通常薄切りにするところを分厚く切ってあり、イカへの認識を改めるくらい美味だった。白身魚の南蛮(?)みたいなのも最強の酒のつまみであった。
さらに天ぷら・煮物も魚天国。最高じゃん、と調子に乗って米焼酎「湯浦」1合を注文。地元の米と湯浦の温泉水を使っているそうな。これは飲まないと。
どうにか部屋に戻ったものの、酔いと膨満感で動けない。この状態で風呂に入ったら絶対にまずい。という理性だけは働いて、22時の貸切風呂までは座椅子で休憩することに専念した。予想外に座椅子が大活躍。
温泉めぐりの旅で入湯機会をつぶすなんて、自分がまいた種とはいえ、痛恨の極み。ああなんてことだ。座椅子に身を沈めてぐったりしながら、わが脳内に潜むコウメ太夫が爆発した。
チックショー!!!!
そういえば玄関の近くに休憩コーナーがあり、朝食後にはセルフサービスでコーヒーを飲めるようになってたと思う。自分は飲みそびれてしまった。頭の中がコウメ太夫だったから、うっかりしてたわ。
あらためて思い返すと亀井荘には恐れ入る。それぞれに味わいのある大小2つの浴場と貸切風呂を体験することができ、そこに待つ温泉は極上のぬる湯。そしてお魚パラダイスと言いたくなるような食事。十分にきれいで快適な部屋。これで酒・税込みで1万円とちょっと。お得すぎる。
熊本県。思えば遠くへ来たもんだが、県下で初めて泊まった温泉宿が湯浦温泉・亀井荘で本当に良かったと思える。世の中まだまだ捨てたもんじゃないね。
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その名も湯浦温泉「亀井荘」。観光・宴会旅館のポジションに振り切ってはいない。地元の方が通う地域の浴場、保養のために滞在する湯治場、それらの要素の方が強いくらいの居心地の良い宿だ。
ぬる湯好きにとってこの上ない温泉を味わえるだけでなく、不知火海の新鮮なお魚も味わえるんだから、たまりません。
湯浦温泉「亀井荘」へのアクセス
湯浦温泉の最寄り駅は肥薩おれんじ鉄道の湯浦。わかりやすい。九州新幹線から乗り換えるなら、北は新八代・南は新水俣が接続駅となる。自分は熊本駅からJRの在来線で八代まで行って肥薩おれんじ鉄道に乗った。途中で日奈久温泉・旅館幸ヶ丘に立ち寄り入浴したりして、湯浦に着いた頃には16時をずいぶん回っていた。秘境ではないが雑然とした市街地でもない、ローカル色豊かな風景の中で夕日に照らされたホームは、14歳の武田鉄矢がレールの響きを聞きながら遥かな旅路を夢見てそうな趣がある。
駅を出たら前の道路を八代方面に向かって進む。亀井荘までは徒歩10分だからそんなに遠くない。この点も宿選びの決め手の一つであった。
途中で道が二叉に分かれるところに来たら、道なりに踏切を渡る左側を行こう。すると湯浦川に出合う。橋があっても渡る必要はないけど、川を撮影するために橋の真ん中まで行ってみた。
写真の右に亀井荘が見えてますね。
湯治場風ながら新しさを感じさせる部屋
玄関をあがって受付が無人だったら内線で呼び出すみたいだ。試すと奥から女将さんが出てきた。少なくともこの日は女将さん一人ですべての客対応をこなしていたように見える。浴衣のサイズ変更など細かな気遣いを感じさせるエピソードもあり、まさしく大車輪の活躍。案内された部屋は1階の4.5畳和室。予約時に人数と先着順で部屋はおまかせだったからな。まあ一人なら狭いことはないけど、この広さでソファー風の座椅子が置いてあるのは珍しいかも。なお布団敷きは自分でやる。
部屋は清潔・新しめで十分快適。洗面台やシャワートイレは専用のスペースを取って設置してあるから居住空間としてはスペック以上に広く感じる。金庫はなくて空の冷蔵庫あり。
照明はリモコンで調光できるやつだった。自分ちよりはるかに先進的だぞ。一般のWiFiはなく、くまもとフリーWiFiというのを利用する。ブラウザからユーザー登録するとか面倒だったので使わず、スマホのテザリングでカバーした。
泊まった部屋は川側にあり、川沿いの道路がすぐ目の前。木の柵で視界を遮られていることもあって景色云々を求めてはいけない。川の水音や車の騒音は全然意識に上ることなく、一切気にならなかった。
すばらしいぬる湯を贅沢にかけ流すお風呂
人気のモダンな大浴場
亀井荘は九州八十八湯めぐりなる企画の対象施設に選ばれている。もうそれだけで素晴らしいお湯であろうことは想像に難くない。期待とともに1階の浴場へ。分析書は浴場近くの廊下に貼ってあった…「単純温泉、低張性、弱アルカリ性、温泉」。もちろん源泉かけ流し。夕方から夜にかけては奥左側が男湯だった。脱衣所も浴室もまだ新しくてきれいな感じ。鄙びた湯治の風呂場をイメージしていたら全然違った。えらくモダンじゃないの。しかし各所に木の存在感があって、無味乾燥ではない風情はある。
洗い場は4名分。シャンプーやボディソープに馬油が使われているのは結構なり。浴槽は5名サイズで旅館の規模に見合っているが、おそらくはご近所さんが足繁く通って来ているものと思われ、わりと混んでいる。人気あるんだなあ。
泡付きする絶妙のぬる湯
人気の理由はお湯に浸かってみればすぐわかる。体温よりわずかに高いくらいの絶妙なぬる湯なのだ。ゆったりリラックスして長湯できますな。しかも無色透明のお湯の中に微細な泡がたくさん漂い、どんどん肌に付いてくる。お湯が新鮮な証拠だ。湯口からの投入量はチョロチョロなんてケチなもんじゃなくて、しっかりと注がれるから、オーバーフローして出ていく量もそれなりに多い。大したもんだ。匂いを嗅いでもピンとこなかったのは鼻が慣れてしまったからだろう。客観的に考えて無臭ってことはあり得ない。
1時間でも浸かっていられそうだったけど、夕食時間が迫っていたし、自重して40分くらいにしておいた。でも本気出せばまだまだいけた。
シャワーにも温泉が使われる貸切風呂
好きなぬる湯だから本来は夕食後に2回入るはずだった。しかし後述のアクシデントにより、夕食後は3時間近い休憩を取るはめになり、22時からの1回しか入れなかった。あーちくしょー。当館には貸切風呂があって宿泊客は夜23時までに1組につき1回・1時間利用できる。チェックインしたときにはすでに18時か22時しか空いてなくて後者の枠を押さえていた。
基本的な特徴は夕方の男湯と同じ。浴室に入った際に感じた温泉臭が強めだったのと、シャワーから出てくるのも温泉だったのが印象深い(きちんと把握してないだけで実は大浴場のシャワーも温泉かもしれない)。
出た後のポカポカがとんでもないレベル
洗い場は1名分で浴槽は3名サイズ。室内に時計がないから、ときどき脱衣所をのぞいて時間を確認しつつ、一人で55分くらい粘らせてもらった。そして貸切風呂の最大のインパクトは、出た後にやたらと体がポカポカする! そういう泉質だと説明書きはあったにせよ、想定外の驚異的な温まり方だ。過去のぬる湯体験でもこれほどのレベルはなかった気が。
あまりに温まったので、寝る際は真冬にもかかわらずエアコンを切って布団から腕を出したままの姿勢でよかったくらい。あれは一体なんだったのか。
お湯の投入量がものすごい小浴場
翌朝の風呂にも驚かされた。男女入れ替わって手前右側の浴場へ行くと、浴室に入るなりプーンと温泉臭が漂ってきた。匂いの強さはここが一番だと思う。洗い場は3名分。脱衣所に「こちらのシャワーは温泉ではありません」と注意書きがある。浴室の雰囲気は前日の2箇所に比べるとややレトロで素朴な感じがある。でも全然きれいですけどね。
浴槽は3名サイズ。洗い場に人が座っているところを真横からのぞき込むような位置関係にあたる部分には仕切りが設けられている…ちょっと説明が難しい。
注目すべきはお湯の投入量。ライオンさんの口からドバァァァーッと、やけくそのように源泉が噴き出している。当然ながら浴槽の縁からあふれたお湯の量も多くて床の上が川のようになっていた。
小さな巨人とでもいうべき風呂
さらに上記の仕切りの下部に穴があいていて、そこから洗い場側へお湯を逃がしているのだが、これまたとんでもない勢い。洗面器でお湯を受けると、あっという間に一杯にたまる。カランいらねー。大量のお湯が排水溝へ抜けていくときの、家庭風呂でお湯を抜くときに出る音を何倍も豪快にした感じの音もすごい。ズゴゴゴゴ…。闘気をまとったラオウ様のお出ましかよ。いや、正確には、ズゴゴゴゴボボボモ゛モ゛モ゛…かな。
泡付きはすこぶる良いし、他より一段ぬるい印象もあったし、朝6時台と朝食後に入ってずっと独占だったし、広い方の浴場や貸切風呂にも負けない存在感を放っている。
不知火海を味わい尽くす食事
夢のお魚天国となった夕食
亀井層の食事は朝夕とも別室で。大広間ではない。他の組と一緒にならないですむ独立した一室に案内された。ぼっちなのにわざわざすいませんね。夕食のスターティングメンバーがこれ。不知火海の実力派をキャスティング、こいつは海の紅白歌合戦や~。
しかし申し訳ないことに聞いた説明をあらかた忘れてしまった。サワラ・モンゴウイカという単語だけは覚えている。でも本当やばいっす。全部がうますぎる。イカは通常薄切りにするところを分厚く切ってあり、イカへの認識を改めるくらい美味だった。白身魚の南蛮(?)みたいなのも最強の酒のつまみであった。
さらに天ぷら・煮物も魚天国。最高じゃん、と調子に乗って米焼酎「湯浦」1合を注文。地元の米と湯浦の温泉水を使っているそうな。これは飲まないと。
痛恨! 酒の飲み方で失敗する奴
ここでやらかしてしまった。かなり薄めてちびちび飲んでたら、ご飯・デザートまで終わった時点で大量に焼酎が余ってしまったのである。1合って結構多いのね。最後に急ピッチで飲むことになってしまった。しかも安全策のつもりでどんどん薄めながら飲んだから、水分を大量に摂取することになって一気にお腹が膨れた。やべ、苦しいー。どうにか部屋に戻ったものの、酔いと膨満感で動けない。この状態で風呂に入ったら絶対にまずい。という理性だけは働いて、22時の貸切風呂までは座椅子で休憩することに専念した。予想外に座椅子が大活躍。
温泉めぐりの旅で入湯機会をつぶすなんて、自分がまいた種とはいえ、痛恨の極み。ああなんてことだ。座椅子に身を沈めてぐったりしながら、わが脳内に潜むコウメ太夫が爆発した。
チックショー!!!!
オーソドックスな朝食
朝食はこのような感じ。前夜イレギュラーな酒の飲み方をしたわりには悪酔いもせず、すっきりとした目覚めで万全の体調。おいしくいただきました。そういえば玄関の近くに休憩コーナーがあり、朝食後にはセルフサービスでコーヒーを飲めるようになってたと思う。自分は飲みそびれてしまった。頭の中がコウメ太夫だったから、うっかりしてたわ。
あらためて思い返すと亀井荘には恐れ入る。それぞれに味わいのある大小2つの浴場と貸切風呂を体験することができ、そこに待つ温泉は極上のぬる湯。そしてお魚パラダイスと言いたくなるような食事。十分にきれいで快適な部屋。これで酒・税込みで1万円とちょっと。お得すぎる。
熊本県。思えば遠くへ来たもんだが、県下で初めて泊まった温泉宿が湯浦温泉・亀井荘で本当に良かったと思える。世の中まだまだ捨てたもんじゃないね。
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