新幹線で直行可。金気臭のにごり湯 - 浦佐温泉 てじまや

浦佐温泉 てじまや
上越新幹線の中では地味な駅の一つと思われる浦佐。隣の越後湯沢や長岡に比べるとどうしても、駅名を聞いてピンとくる顕著な特徴が浮かばない(すいません)。

だが温泉に関しては、はっきりした特徴を持つものがあった。そのお湯を提供する浦佐温泉「てじまや」の存在を知り、旅の途中で立ち寄ってみることにした。

新潟県の中でも湯沢・魚沼エリアの温泉には何度か通っているが、無色透明で癖のない温泉というイメージがあったため(特定少数の場所ばっかり行ってるから偏りがあるのは認める)、てじまやのお湯には意外性を感じた。

浦佐温泉「てじまや」への道

上田からの転進

話の始まりは長野県上田。いい意味で何もない霊泉寺温泉の松屋旅館をチェックアウトしたおじさんはバスで上田駅までやって来た。

旅はまだ序盤にすぎない。さあここから上田エリアを深堀りするのか、あるいは北信や中信地方へ足を延ばすのか?…どちらでもなかった。さっさと上りの北陸新幹線に乗り込んで東京方面へ戻る構えを見せたのである。連合艦隊もびっくりの謎の反転だ。

まさかの旅行中止? なわけはない。当初の計画通りに高崎で下りの上越新幹線に乗り換えた。接続がイマイチ良くなくて新幹線のメリットが半減してしまったけど、在来線じゃ到底カバーできない行程だから仕方がない。

上田は前夜の雨があがって回復しつつある天気。高崎はすっかり晴れ。でも国境の長いトンネルを抜けて着いた越後湯沢は案の定どんよりと曇っていた。もう少しで降り出しそうなところをギリギリ耐えている。太平洋側から日本海側へ来たんだなあと思い知らされる。

そして浦佐ではついに雨雲の攻勢に耐えきれず、降り出していた。ああだめか。折りたたみ傘を広げると後の始末が面倒だし、できれば使わずにすませたいんだがな。

雨との戦いを超えて

コインロッカーに大きな荷物をしまってから駅西口を出ると、運良く小雨になっていた。雲の流れが異様に速い。空の一部は雲が切れて青空がのぞいている。
浦佐駅西口
これはもう強行突破するしかないでしょう。傘なしで足早にてじまやを目指す。いったん西進して県道71号にぶつかったら南下。

するとまた黒い雲が張り出して雨が強まってきた。変化早すぎィ。田んぼ越しに見る東の方角はすっかり雲に覆われ、越後三山なんか影も形も見えやしない。だめだこりゃ。
越後三山は見えず
こうして浦佐駅から約10分でてじまやに着いた。最後の方は結構降られたけど傘なしのまま逃げ切った。大勝利。


含鉄泉のような濁り湯&ラッキーぬる湯

フライングしてしまいました

浦佐温泉は典型的な温泉街を形成していない。営業している旅館は「てじまや」とお隣の「たもん荘」の2軒だけのようだ。それらが県道に面して立っているのみで、他に温泉地らしい光景は見られない。

てじまやの敷地内には足湯コーナーがあった。
てじまや足湯コーナー
では入館…あれ? 誰もいない。フロントにもどこにも人の気配がない。あらためて玄関前を確認すると「日帰り入浴は14時から」との立て札が。自分はそれより早い時間に着いてしまったのだ。12時からというネット情報を見て油断してたわ。

どうしよう。14時まで待っていては旅のスケジュールが狂ってしまう。とりあえず「ごめんください」と呼んでみると、奥から旅館の人が出てきたので、今から入浴できるか尋ねたらOKだった。よっしゃあ。600円。

ぬるめの状態がむしろ好都合

大浴場は階段を上がった2階にある。フライングだったせいか誰もいない。電気もついてないけどスイッチとかわからないし、下手にあれこれ触ってやらかすとまずいし、まあいいや。

男湯の脱衣所はお隣の駐車場側がガラス窓で丸見えのようにも思われるが気にしてはいけない。掲示された分析書には「ナトリウム・カルシウム-塩化物硫酸塩泉、低張性、中性、高温泉」とあった。

浴室内はとくに古びたようなところもなく気持ちよく利用できるだろう。カランは9つ。

内湯は10名いけそうな大きさ。旅館の規模はわからないけど、それに見合うだけのサイズはあるんじゃないかな。高温泉だから熱いに違いないと温度計の盤面を見たら38℃だった。えぇ本当に?

浸かってみるとたしかにぬるい。ぬる湯党としては願ったり叶ったり。長湯できるし、こりゃあいいや。ただしイレギュラーな時間帯だったおかげかもしれない。客が集まる頃にはもっと高めの温度にチューニングしている可能性がある。実際いろいろ検索してみると「ちょっと熱め」との口コミが多い。

金気臭がすごいお湯

お湯の見た目は黄土色に白と緑が混ざったような、渋いうぐいす色にも見える濁り系。浴槽の底はほとんど見えない。石を組んで作られた湯口からなかなかの量が常時投入され、一方で縁からオーバーフローしている、源泉かけ流し。

ただし湯船の中央の底からお湯を勢いよく噴き出しているところを見ると、循環してそうな雰囲気もあり。でもそんなのを気にさせないくらいの特徴がある。金気臭がすごいのだ。

お湯をすくって鼻を近づけるとすぐにわかる。うわあ鉄くせえ。なんじゃこりゃあ(←喜んでいる)。金気臭のする濁り湯でぬるい、大変結構ですな。それを独り占めですからね。

コンパクトながら温泉感十分な露天風呂

浴室奥から外へ出ると4名規模の露天風呂がある。雨の日に屋根付きはありがたい。光の当たり具合のせいか、こちらのお湯は黄色が勝った完全な黄土色で、やはり濁りは強い。

温度計は37℃を切っていた。たしかに内湯よりも一段とぬるい。居場所によっては若干ヒヤッとするお湯の塊が体の表面を撫でていくこともある。最強じゃん。岩風呂として組まれた各岩の表面には、温泉成分の赤サビ色がすっかりこびりついているし、温泉気分が盛り上がること間違いなし。

残念ながらコンクリの壁に囲われて眺望はないものの、殺風景にならないよう、壁の前に岩や木を配して庭園風に仕上げてある。

訪問したタイミングの計らいによる低めの温度込みで、このお湯は大変結構ですな。ぬるいながらも含まれる成分によるものか、温まりはむしろ良い。内湯と露天を行ったり来たりしつつ1時間弱の入浴を楽しんだ。


浦佐に良泉てじまや在り

滞在中に雨脚が強まったり弱まったりと、やっぱり変化が早い。そうして帰る頃には強く降ってきた。やべえ。傘は差したくないぞ。ロビーから見える中庭をうらめしく眺めながら状況が改善するのを待つ。
てじまやの中庭
いよいよ乗りたい列車の時間が迫ってきた。もうあかん。仕方ない、出発するか…あきらめて外へ出ると、意外と雨は弱かった。よっしゃ、いけるぞ、強行突破ぁ!

相変わらず田んぼの向こうに越後三山は見えなかったが、かわりに虹が見えた。ほう、これはこれは。
虹の出現
サ~ムウェア~♪ オ~バザレインボ~♪ 虹の彼方にはいつか夢みた国があるという。それは今から向かう温泉宿のことだろうか。そして此方の浦佐には良泉てじまや。気分はすっかり“お湯の魔法使い”だ。