新鮮なぬる湯とのんびりできる環境が最高 - 湯岐温泉 山形屋旅館

湯岐温泉 山形屋旅館
温泉の湧き出る場所をそのまま湯船にした、いわゆる足元湧出泉は珍しい貴重な存在だ。なおかつぬるめのお湯となると数は相当限られるが、そのうちのひとつが福島県の湯岐温泉「山形屋旅館」にある。

てなわけで夏の福島旅行の際、ちょうどいい機会だから山形屋旅館で一泊お世話になることにした。昔の湯治宿の風情を残す佇まいは、自分にそんな実体験がないにもかかわらず、どこか懐かしさを覚える。

期待していたお風呂はたしかにすばらしいものだった。いったん浸かるとなかなか出られなくなってしまう心地よさ。あれは気にいる人続出でしょう。

湯岐温泉「山形屋旅館」へのアクセス

駅からの交通手段が鍵となる

湯岐温泉の最寄り駅はJR水郡線・磐城塙。東京方面からだとまず水戸へ出てから水郡線に乗り換える。運行本数に注意。茨城県内止まりの便が大半で、福島県側まで突き抜けてくれる便が少ないのだ。

※2019年台風19号の被害により水郡線は本記事公開時点で一部区間が不通。鉄橋が流されるなどしたため全線復旧の見通しは立っていない。

自分の場合は逆コース。昼のうちに郡山市の月光温泉クアハイムへ立ち寄り入浴した後、安積永盛駅から水戸行きの列車に乗って磐城塙で下車した。駅前にはお笑いマンガ道場でおなじみ富永一朗先生の絵が。
塙駅前の富永一朗画伯の絵
問題はここから。駅から湯岐温泉までは12km・車でも20分かかる。とても歩ける距離じゃない。路線バスは平日のみ、かつ旅行者の行動パターンと全然あわない時間帯に1本あるだけだから使えない。

幸いなことに当館は事前に予約しておけば送迎してもらえる(迎え=磐城塙駅15時6分の列車前提/送り=旅館10時発)。あーよかった。

途中で不動滝を見られます

迎えの車に乗り込むと町の中心部を外れてどんどん山の中へ入っていった。だんだん人家がまばらになると同時に高度も上がっていく。旅館のある場所は標高500mだそうな。

15分くらい走ったところで一時停止して不動滝という滝を見せてくれた。
不動滝
落差は小さいがなかなか見栄えのする姿である。湯岐温泉に連泊で湯治に来たらここまで散歩しに来るといいですよ、とのこと。

なお、旅館に近い側の約2kmの区間は道幅がかなり狭くなり、一部はすれ違い困難なレベル。車で行く際は注意が必要だ。


いかにもな湯治宿の風情

レトロ感たっぷりの館内

旅館に到着してチェックイン。山の中の秘湯にも和モダンの洒落たつくりであったり、あるいはアンティークな古民家風を強調した宿はあるけど、ここは演出抜きで自然体のまんまレトロで素朴な湯治宿だ。

案内された部屋は2階の6畳間。部屋の隅に布団一式が積んであってセルフで敷く。いきなり布団でゴロンと昼寝してもいいわけだ。
山形屋旅館の6畳和室
トイレ・洗面はなし。廊下の先に共同のがある。男女共用っぽいトイレは男性小用×2と和式個室×1と洋式個室×1。冷蔵庫も部屋ごとにはなく廊下に共用のがあるパターンだったと思う。

WiFiがあるのは便利

金庫もなくて昔ながらの貴重品袋に入れてフロントで預かってもらう方式。個人的に不都合は感じない。空調はエアコンがあるからばっちり。当時はやや蒸し暑かったものの気になるほどではなかったので使用せず。

全般に清潔に管理されており十分に快適だ。夏だから虫が出るかなと思ったら全然見なかった。窓を開けなかったのが功を奏した面もあるだろう。壁越しに隣室の音が漏れてきたりするが、むやみに騒がれることもなく(そういう客層じゃないし)夜にはピタッと静かになった。

携帯の電波は微妙。つながっても速度が出ない。WiFiが提供されているのでそちらを頼るとよい。あとガラス窓越しに外の景色を撮影したのがこれ。赤い矢印で「岩風呂←」の看板のある小屋がお風呂場である。
山形屋旅館 窓からの眺め

やさしいぬる湯の足元湧出泉がたまらない

共同浴場にもなっている岩風呂

上に書いた通り、山形屋旅館のメインの風呂は別棟になる。正確には一般開放された共同浴場であって、当館に宿泊すると無料で自由に利用することができる。
山形屋旅館 岩風呂
そして混浴なのである(9時~10時、14時~15時、21時~22時は女性専用時間帯)。夕方と翌朝の2回行ってみた限りでは他に誰もいなくて実質貸切状態で利用することができたのはラッキーだったか。

小屋に入ると分析書が貼ってあって「単純温泉、低張性、アルカリ性、温泉」と書かれていた。浴室に隣接する細長い空間が脱衣所になっており、透明なガラス戸を通して浴室内が見える。うん、誰もいない。よしよし。

岩の割れ目から湧き出る源泉

洗い場は1名分でカランの蛇口がなくてシャワーのみ。ボディソープやシャンプーはひと通り揃っている。

その隣に1名サイズの加温槽。最後の上がり湯として利用するものと思われ、しかし自分はとくに必要としなかったので一切入ることがなかった。

加温槽の一端からチョロチョロとあふれ出したお湯の流れ込む先が4名サイズの主浴槽だ。基本的にはタイル張りで奥の一面だけは岩がむき出しになっている。この岩の割れ目から源泉が湧き出ており、よく見ると小さなあぶくがプクプクと浮き上がってくる箇所が目に付いた。

また岩の中央部の底にパイプの開口部らしきものが見える。そこからもお湯が出てきているのかな。加温層から流れ込んでくるお湯は大した量じゃないので、まあ足元湧出源泉100%かけ流しと言ってよかろう。

いくらでも入っていられる極楽の湯

無色透明の清澄なお湯に浸かってみるとぬるめ。ぬる湯と呼んでよいかどうかは微妙なところだが長湯可能な温度。加えてやさしいマイルドな感触だからいくらでも浸かっていられる。温泉らしい温泉の匂いもするし、大変結構ですな。

岩には手すりが取り付けてある。転倒防止用? よくわからんな…で、誰もいないので邪道かもしれない使い方をしてみた。手すりに頭を乗せて岩にぎりぎり背が触れない程度まで体を斜めにした半寝湯スタイル。おお、こりゃええわ。

大変に心地よくて、気がつくと出るに出られなくなっている。やっべぇー(ニヤニヤ)。誰か来たら出ようと思って40~50分、結局誰も来ないので自主的にあがった。

少し違ったテイストを楽しめる貸切風呂

夕食後と翌朝チェックアウト前の10分間には貸切風呂の方へ行ってみた。こちらは冒頭写真左の青屋根の建物内にある。空いていれば中に入って鍵をかけて利用可能、ふさがっていればホワイトボードに部屋番号を記入しておくと、前の人が出たタイミングでお呼びがかかる。

貸切風呂にはカランが一つ。2名サイズの普通の浴槽に岩などはない。かわりにホースが突っ込んであって、そこから源泉を投入していた。

意外なことに岩風呂のお湯とは少し差異がある。まず一段とぬるい。自分はぬる湯派なのでこっちの温度が好みだ(ぬるすぎると感じる方は加温タイマーをセットして温めることもできる)。そして温泉らしい匂いが強まって微タマゴ臭として意識される。

さらにヌルヌル感がより強い。とくにホースの口へ手の平をしばし差し出してから両手をこすり合わせると…おお、すごいヌルヌルする。なるほど、これはこれでいいですね。大きさや見た目は岩風呂に譲るとしてもお湯そのものは貸切風呂の方を好む人もいそうだ。


ご当地感あふれるハイレベルな食事

自慢の常陸牛と日本酒に酔いしれた夕食

山形屋旅館の食事は朝夕とも部屋出し。夕食は奮発して常陸牛プランにした。スターティングメンバーがこれ。
山形屋旅館 常陸牛プランの夕食
地元の食材を生かしたメニューはどれもこれもうまい。山の中でも刺身がうまいのは、ひと山越えたら小名浜漁港を擁するいわき市という地理的な優位性か。もちろん牛肉もうまい。年を取ると牛肉絶対主義でなくなるんだけど、さすがにこれはうまい。塩+コショウ、わさび+醤油、自家製タレの3通りの味付けで楽しめる。

あとから茶碗蒸し・鮎塩焼き・天ぷらが出てきた。最後に地元米のご飯、味噌汁、デザートで締め。

お酒についても書かないわけにはいかない。日本酒の品揃えが自慢らしいから、若女将おすすめの「国権」という銘柄を注文。…いやびっくりした。いささかお値段の張る大吟醸とはいえ、おそろしくフルーティー。そしてくどくない。

ふだん日本酒飲まないし何かを語れる立場じゃないにしても、破格のうまさ。聞けば福島の日本酒は7年連続日本一を取ったというではないか。すごい世界があったもんだ。

朝食もおいしくいただきました

朝食はシンプルながら質量ともに十分。焼き魚はサンマだった。サンマは不漁で高値だから今年口にするのはこれっきりかも…。
山形屋旅館 朝食
そういえば朝夕ともご飯はお櫃にも見える容器にたくさん入って出されていた。別途の茶碗によそうのかと思ったら、それがそのまま大きな茶碗だったっぽい。いま思い返すととても食べ切れない量だった気がするけど、取り憑かれたように残さず食べ切ってたな。ふだんならあり得ないことだ。


湯岐温泉・山形屋旅館。ホッと和らいだ気持ちになれる、いいところだった。しかしせっかくのんびりまったりした雰囲気の温泉地なのに1泊だとちょっと慌ただしいね。もし可能なら周遊旅行でなく湯治のつもりで連泊してみてほしい。あの温泉に入って部屋でだらだら過ごしてうまい食事と日本酒の日々。たまりませんな。