佐賀市の奥座敷的なロケーションにある古湯温泉は近隣の熊の川温泉とともに、ぬる湯の里「ふるくま」としていろいろアピールしている。ぬる湯派のおじさんにはちょうどおあつらえ向きの温泉地ではないか。よし、古湯温泉に泊まろう。
宿はちょうどお手頃な「民宿幸屋(ゆきや)」。お湯はかけ流しだし、食事は部屋食でなかなかのものだという口コミあり。リーズナブルなお値段。そしてもちろん“おひとりさま”歓迎。ばっちりです。
たしかに風呂はぬるくて有明海の恵みはうまい。部屋ではリラックスしてだらだら過ごせる。プチ湯治向きでのんびりできる宿といえよう。
映画「男はつらいよ ぼくの伯父さん」(第42作)のロケ地の一つが古湯温泉だった。主要な舞台は佐賀県小城市だけど、小城のとある家にやって来た寅さんがそこのご隠居様ならびに近所のご老人連中に気に入られて、車に乗せられ古湯温泉に拉致されてしまうシーンがあった。
そんなわけで、もともと名前に心当たりがあるうえ好きなぬる湯とくれば、古湯温泉を訪れる理由としては十分であろう。
佐賀駅から45分ほどで古湯温泉に着く。自分の場合は手前の熊の川温泉前で下車して熊ノ川浴場へ立ち寄り入浴した後、次の便で古湯温泉にやって来た。バス停付近はこんな感じ。
にぎやかというよりは静かな温泉街。規模もそれほど大きくはない。メインの通りを2~3分歩くと幸屋が見つかった。一般家屋に近い、民宿らしい佇まいである。
案内されたのは一番奥の8畳和室。トイレ・洗面なしで共同のを使う。部屋は相応に古くなってきているものの管理状態と清潔感は問題なく十分に快適である。4月にしてはやけに暑い日だったが、開け放して網戸にした窓からは涼しい風が吹き抜けて心地よい。
家屋が密集した一角でもあり、景観は望めない。川とか山はちょっと散歩すればたくさん見られるからまあいいでしょう。あと冷蔵庫・金庫の類はない。
浴衣・タオル・バスタオル・歯ブラシの定番セットはひと通り揃っている。濡れタオルを乾かすための、旅館によくある可動式ハンガーがないぞと思ったら、ドアの脇の壁に固定式のタオル掛けがあった。
暇つぶし面でいうと、テレビにはDVDプレーヤーがつながっていた。ソフトは自分で持ち込むのかな。また玄関のところにコミックが少々。ネット環境についてはWiFiなし。携帯の電波状態はいいからテザリングでカバーできる。
まあ誰もいませんでしたけどね。なので遠慮なく独占させてもらいます。脱衣所に掲げられた分析書には「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、温泉」とあった。
さらには正直に「加温しています」「塩素消毒しています」と書いてあった。ああそうなの。せっかくのぬる湯を加温なしで入ってみたい気もするが、自家源泉ってわけじゃなさそうだし、湯元からの配湯を受けた段階で結構冷めてるのかな。
浴室内にカランは2つ。浴槽は一般家庭のやつよりひと回り大きいくらいの、2名規模のポリバス。室内全体が一般家庭の風呂場をそのまま2~3倍にスケールアップしたような印象。
湯口付近に入ってみたら意外と温かかった。40℃はありそう。ややぬるめの適温のカテゴリーに入れられる。お湯は無色透明で湯の花は見られず。アルカリ泉だから少しヌメリ感がある。
塩素消毒と書いてあったけど、匂いを嗅いでみると塩素臭はせず温泉らしい温泉の匂いが勝っていた。これならいいんじゃないの。お湯はさすがに新鮮で、家庭の一番風呂がそうであるように、腕などに少々の泡が付着するのがわかる。
湯尻の方へ移動すると、はっきりとぬるくなった。おそらく40℃は下回っているんじゃないかな。こっちの方が好みに近いので以降は湯尻専門で。
この規模の浴室へ、もし自分がやって来たときに誰かが使用中だったら、遠慮していったん部屋に戻るだろう。そうして何度様子を見に来ても使用中だったら「いつになったら空くんだよ」とイラッとするだろう。その意味で極端な長湯はいけない。まあ40分以上いましたけど。
夕食後と朝食前にもそれぞれ40分くらいずつ入浴した。他にも投宿客は当然いたが、浴室でかち合うことはなく、結果的には入りたい時に独占で入れる状況だった。かけ流しを独り占めだからある意味ぜいたくな話だ。
ふー、いい湯だった。やっぱりぬるいのはいいね。女将さんは「ぬるいですけど…」と恐縮気味に話していたけど、それがいいんです。もっとぬるくてもいいくらい。
山里とはいえ地理的に有明海(たぶん玄海も)とのつながりが深いから海の幸が充実しているのは嬉しい誤算。メインは有明海で獲れたクツゾコと呼ばれる魚。へー。おじさんは初めて見たな。カレイとは違うのかと思って後日調べたら、なんとシタビラメの一種ではないか。フランス料理でムニエルがどうのこうのいうアレか。
しかもこの時期は子持ちだという。たしかに中に卵を持っていて味付けがちょうどいい具合でうまい。一部の骨以外はほぼ全部食べられる。クツゾコだけでも泊まった甲斐があったってもんだ。
でけえ。これだけでお腹いっぱいになりそう。お酒はそれぞれに特徴があったが、しいて選ぶならフルーティーな宗政。どれもなみなみとついでもらって、まあ飲んだ飲んだ。
すっかりいい気分で最後に佐賀米とデザートで締め。ゆっくりと風呂に入り、ゆっくりと飲みながらご当地物を食べる。やめられませんな。
おからは子供の頃に食べさせられた極端に青臭いやつのトラウマで苦手なんだけど、こいつはうまく味付けしてあって全然いけた。全般的な量も朝はこれくらいでちょうどいい。
あと海苔はこれまた有明海。佐賀は米どころでもあるし、食材には事欠かないな。
宿泊した民宿幸屋は周辺の規模・風格を備えた本格旅館群とは対極にあるけど、アットホームなもてなしと適度な放置感でお気楽に過ごせるのがいい。なんといっても温泉と料理と残した思い出に対するコスパは抜群。お酒込みで1万円でお釣りが来るとは思わなかった。
古湯温泉に連れてかれた寅さんは団体様御一行だったから、きっと昭和チックな団体旅行向けの大規模旅館に入ったんだろうな(その旅館は架空もしくは今はもうないだろう)。でもいつもの一人旅の寅さんだったら幸屋の方が性に合ってたしサマになっていただろう。
そしてぬるい風呂に入ってクツゾコを食べながら酒の飲み比べをしたに違いない、などと想像してみるのであった。
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宿はちょうどお手頃な「民宿幸屋(ゆきや)」。お湯はかけ流しだし、食事は部屋食でなかなかのものだという口コミあり。リーズナブルなお値段。そしてもちろん“おひとりさま”歓迎。ばっちりです。
たしかに風呂はぬるくて有明海の恵みはうまい。部屋ではリラックスしてだらだら過ごせる。プチ湯治向きでのんびりできる宿といえよう。
古湯温泉「民宿幸屋」へのアクセス
寅さんゆかりの古湯温泉
古湯温泉は武雄温泉・嬉野温泉と並ぶ佐賀の温泉としてよく知られているし、個人的には別な方面からその名を記憶することになった。寅さんである。映画「男はつらいよ ぼくの伯父さん」(第42作)のロケ地の一つが古湯温泉だった。主要な舞台は佐賀県小城市だけど、小城のとある家にやって来た寅さんがそこのご隠居様ならびに近所のご老人連中に気に入られて、車に乗せられ古湯温泉に拉致されてしまうシーンがあった。
そんなわけで、もともと名前に心当たりがあるうえ好きなぬる湯とくれば、古湯温泉を訪れる理由としては十分であろう。
静かな温泉街の中心部
公共交通機関で古湯温泉へ行くには佐賀駅バスセンターからバスに乗る。たしか7番乗り場だったかな。停留所の前に佐賀出身の維新十傑・江藤新平を紹介するパネルがあった。前年にNHK大河「西郷どん」を観てたおかげで説明内容を消化しやすかった。佐賀駅から45分ほどで古湯温泉に着く。自分の場合は手前の熊の川温泉前で下車して熊ノ川浴場へ立ち寄り入浴した後、次の便で古湯温泉にやって来た。バス停付近はこんな感じ。
にぎやかというよりは静かな温泉街。規模もそれほど大きくはない。メインの通りを2~3分歩くと幸屋が見つかった。一般家屋に近い、民宿らしい佇まいである。
グローバルな風が通る和風レトロな部屋
ではチェックイン。玄関付近にはさまざまなパンフレットやチラシが置かれ、手書きの張り紙には英文が添えられていた。ここにもインバウンド需要の波が来ているとは。聞いた話だとアジアに限らず、遠く西欧からもお客さんが来るそうな。案内されたのは一番奥の8畳和室。トイレ・洗面なしで共同のを使う。部屋は相応に古くなってきているものの管理状態と清潔感は問題なく十分に快適である。4月にしてはやけに暑い日だったが、開け放して網戸にした窓からは涼しい風が吹き抜けて心地よい。
家屋が密集した一角でもあり、景観は望めない。川とか山はちょっと散歩すればたくさん見られるからまあいいでしょう。あと冷蔵庫・金庫の類はない。
浴衣・タオル・バスタオル・歯ブラシの定番セットはひと通り揃っている。濡れタオルを乾かすための、旅館によくある可動式ハンガーがないぞと思ったら、ドアの脇の壁に固定式のタオル掛けがあった。
暇つぶし面でいうと、テレビにはDVDプレーヤーがつながっていた。ソフトは自分で持ち込むのかな。また玄関のところにコミックが少々。ネット環境についてはWiFiなし。携帯の電波状態はいいからテザリングでカバーできる。
見た目よりすごいんです、幸屋の風呂
民宿らしい小ぢんまりした風呂
さっそく温泉を体験してみよう。風呂場は地階にある。民宿や小規模旅館だと「使用中」の札をかけたり、脱衣所の扉が閉まっていれば誰かが使用中だから遠慮するといった暗黙の貸し切り運用だったりするところもあるが、ここはそういう雰囲気ではなさそうだ。まあ誰もいませんでしたけどね。なので遠慮なく独占させてもらいます。脱衣所に掲げられた分析書には「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、温泉」とあった。
さらには正直に「加温しています」「塩素消毒しています」と書いてあった。ああそうなの。せっかくのぬる湯を加温なしで入ってみたい気もするが、自家源泉ってわけじゃなさそうだし、湯元からの配湯を受けた段階で結構冷めてるのかな。
浴室内にカランは2つ。浴槽は一般家庭のやつよりひと回り大きいくらいの、2名規模のポリバス。室内全体が一般家庭の風呂場をそのまま2~3倍にスケールアップしたような印象。
新鮮な温泉をかけ流し
見た目は家庭風呂で湯使いはかけ流しだから不思議なミスマッチ感覚があって面白い。蛇口から源泉がチョロチョロと投入され、浴槽いっぱいに溜まったあとはオーバーフローして床に排出されている。湯口付近に入ってみたら意外と温かかった。40℃はありそう。ややぬるめの適温のカテゴリーに入れられる。お湯は無色透明で湯の花は見られず。アルカリ泉だから少しヌメリ感がある。
塩素消毒と書いてあったけど、匂いを嗅いでみると塩素臭はせず温泉らしい温泉の匂いが勝っていた。これならいいんじゃないの。お湯はさすがに新鮮で、家庭の一番風呂がそうであるように、腕などに少々の泡が付着するのがわかる。
湯尻の方へ移動すると、はっきりとぬるくなった。おそらく40℃は下回っているんじゃないかな。こっちの方が好みに近いので以降は湯尻専門で。
ぬる湯を独占して大満足
刺激の少ないマイルドでやさしい、しかもぬるい温泉。過去に体験した数々のぬる湯と同様、いくらでも浸かっていられるパターンだったが、大浴場ではないから他のお客さんのことも考えなければならない。この規模の浴室へ、もし自分がやって来たときに誰かが使用中だったら、遠慮していったん部屋に戻るだろう。そうして何度様子を見に来ても使用中だったら「いつになったら空くんだよ」とイラッとするだろう。その意味で極端な長湯はいけない。まあ40分以上いましたけど。
夕食後と朝食前にもそれぞれ40分くらいずつ入浴した。他にも投宿客は当然いたが、浴室でかち合うことはなく、結果的には入りたい時に独占で入れる状況だった。かけ流しを独り占めだからある意味ぜいたくな話だ。
ふー、いい湯だった。やっぱりぬるいのはいいね。女将さんは「ぬるいですけど…」と恐縮気味に話していたけど、それがいいんです。もっとぬるくてもいいくらい。
山里で海の幸を堪能できる食事
これが有明海のクツゾコだ
幸屋の食事は朝夕とも部屋食。夕方は18時、朝は8時を基準に多少の融通はきく。時間になると部屋まで運んできてくれる。夕食のスターティングメンバーがこれ。山里とはいえ地理的に有明海(たぶん玄海も)とのつながりが深いから海の幸が充実しているのは嬉しい誤算。メインは有明海で獲れたクツゾコと呼ばれる魚。へー。おじさんは初めて見たな。カレイとは違うのかと思って後日調べたら、なんとシタビラメの一種ではないか。フランス料理でムニエルがどうのこうのいうアレか。
しかもこの時期は子持ちだという。たしかに中に卵を持っていて味付けがちょうどいい具合でうまい。一部の骨以外はほぼ全部食べられる。クツゾコだけでも泊まった甲斐があったってもんだ。
酒と料理で腹いっぱい
さらに新鮮な刺身は一人分にしては十分な量だし、鍋物の中身はこれまた有明海のアサリ。そして季節にぴったりのたけのこ。言うことなし。で、頼んだ純米酒飲み比べセットと一緒に出てきたのが米ナスの田楽。でけえ。これだけでお腹いっぱいになりそう。お酒はそれぞれに特徴があったが、しいて選ぶならフルーティーな宗政。どれもなみなみとついでもらって、まあ飲んだ飲んだ。
すっかりいい気分で最後に佐賀米とデザートで締め。ゆっくりと風呂に入り、ゆっくりと飲みながらご当地物を食べる。やめられませんな。
いろいろとちょうどいい朝食
朝はオーソドックスな和定食。味噌汁はヒラメのあらが入ってた気がする…ちょっと記憶が怪しい。おからは子供の頃に食べさせられた極端に青臭いやつのトラウマで苦手なんだけど、こいつはうまく味付けしてあって全然いけた。全般的な量も朝はこれくらいでちょうどいい。
あと海苔はこれまた有明海。佐賀は米どころでもあるし、食材には事欠かないな。
風の吹くまま気の向くままの一人旅に最適
念願の古湯温泉を体験できて満足である。斎藤茂吉ゆかりの地でもあるようだし、川沿いを散策すれば癒やされる。宿泊した民宿幸屋は周辺の規模・風格を備えた本格旅館群とは対極にあるけど、アットホームなもてなしと適度な放置感でお気楽に過ごせるのがいい。なんといっても温泉と料理と残した思い出に対するコスパは抜群。お酒込みで1万円でお釣りが来るとは思わなかった。
古湯温泉に連れてかれた寅さんは団体様御一行だったから、きっと昭和チックな団体旅行向けの大規模旅館に入ったんだろうな(その旅館は架空もしくは今はもうないだろう)。でもいつもの一人旅の寅さんだったら幸屋の方が性に合ってたしサマになっていただろう。
そしてぬるい風呂に入ってクツゾコを食べながら酒の飲み比べをしたに違いない、などと想像してみるのであった。
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