巨大露天風呂を独占。夢の優良宿 - 船原温泉 山あいの宿うえだ

船原温泉 山あいの宿うえだ
春とともにやって来た天候不順に見舞われながら訪れた中伊豆。今回は車利用のグループ旅行である。ちょっといい宿に泊まって贅沢しちゃいましょう、ということで選んだ1泊目が船原温泉「山あいの宿うえだ」。

良かった。実に良かった。ふだんの我々がこのクラスの宿に泊まることはないので、「こんな世界があったのね」って感じだ。

とくに貸切制によって得られるゴージャスな入浴体験にはびっくらこいた。他にも部屋や料理など、すべてに隙がなく総合的な満足度はかなり高い。たまには贅沢してみるもんですな。

(2022追記)閉館してしまった模様。雰囲気の良い湯宿であったが残念。

船原温泉「山あいの宿うえだ」へのアクセス

秘湯を守る会のスタンプラリーに参戦

行き先を伊豆にしたのは、時期的にほぼ心配ないはずだけど、雪リスクを限りなくゼロにしたかったのが最初のきっかけだった。かわりに雨にやられてしまったが。

宿泊先は「日本秘湯を守る会」(以下、秘湯会)の会員宿から選ぶことにした。前年秋に訪れた貝掛温泉で秘湯会のスタンプ帳を入手していたのだ。秘湯会の宿に泊まるとスタンプ帳に押印してもらえる。3年以内にスタンプを10個集めると、スタンプされた宿の中から“1泊無料ご招待”の特典を手にできる。

※押印の条件として、秘湯会のホームページから予約すべしとか格安プランはNGとか、宿ごとにいろいろ決まりがあるようだから、事前によーく確認されたい。

メンバーといろいろ検討して決めたのが「山あいの宿うえだ」であった。我らにとっては贅沢なハイクラス旅館の部類だが、たまにはいいでしょうということで。

車で行きやすくなった船原温泉

修善寺から西伊豆・土肥へ抜ける国道136号沿いにある船原温泉は、各種道路が整備されて現在はかなりアクセスが良くなっている。東京方面からだと新東名・長泉沼津ICから伊豆縦貫道に入って月ヶ瀬ICで下りる。ここまではほぼ高速道路だけで来られる。

※当時は予備知識がなかったため、伊豆縦貫道の呼び名が伊豆中央道・修善寺道路・天城北道路と変わっていくのに戸惑った。それぞれ無料だったり有料だったりするし。あまり悩まずただ道なりに進むのが吉。

あとは下船原バイパス経由でさくっと到着。いやー便利ですな。実際の我々は伊豆の国市にある「源泉 駒の湯荘」へ立ち寄り入浴した後、修善寺の町並みを車窓から眺めつつ(本当にただ見るだけ)、下道で船原温泉まで移動した。

船原地区で年季の入った団地が見えるあたりに当宿の看板と急な下り坂があるから、そちらへ進入する。団地手前で左に折れて橋を渡ったところが当宿の駐車場だ。橋から見た景色はこんな感じ。近くに歩行者専用の橋もある。
うえだ前の川

ハイクラスな部屋にテンション上がる

おしゃれなだけじゃない、温泉にも自信あり

玄関までのアプローチは庭園風に整備されていい雰囲気を醸し出している。そして玄関がこちら。しゃれてますな。雨の中でしっとりとした風情が感じられる。
うえだ正面玄関
期待を込めてチェックイン。ロビーのテーブルの上には秘湯の本や源泉宿を紹介する本が何冊も積んであった。うえだがその中で紹介されているんだろう。ハイクラスでおしゃれというだけでなく温泉の質もしっかりしているのは大変結構なことだ。

案内されたのは1階の10畳+ウッドデッキテラスの部屋。おおこりゃすごい。身に余るクオリティだ。
うえだの客室

優雅で高貴なお部屋

テラスからは雅な庭が見える。池には錦鯉が泳いでいるし、なんじゃこりゃあ。もうちょっと暖かくて天気が良ければ、椅子に腰掛けて庭を見ながらまったり優雅に過ごすこともできたんだろうけどね。残念。
うえだの優雅なお庭
言うまでもなくシャワートイレ・洗面所・金庫など諸々完備。冷蔵庫には別途精算のドリンクや缶ビールが入っている。ウェルカムお菓子の鮎煎餅がほんのりした甘さでうまい→結局買わなくてすいません。

WiFiについてはよくわからずスマホのテザリングでカバーした。ロビーには英語表記で60分間有効云々なる説明があるけど、同じようなものが由布院の宿にもあったな。訪日客向けのサービスかな。いまだにちゃんと理解していない。


うえだのお風呂はスケールも雰囲気もお湯も特筆もの

貸切風呂が充実している

うえだのお風呂はちょっとすごいよ。

・一般の男湯/女湯(入れ替えあり)
・貸切風呂
・小貸切風呂
・貸切大露天風呂

つまり男/女湯の入れ替えを含めると最大5箇所の浴場を体験できるのだ。しかもそのうちの3つは貸し切りで独占できるってわけ(貸切系はそれぞれが1組につき40分×2回まで利用可)。しかも源泉かけ流し。

贅沢過ぎる広大な露天風呂を独り占め

チェックイン直後に幸い大露天が空いていたので早速行ってみた。本館から一般風呂と貸切風呂が集まる奥へ向かい、そこでサンダルに履き替えて外へ出る。小貸切風呂の建屋を横目に見ながらさらに進んで小さな橋を渡ると大露天風呂に到着。

脱衣所の壁に貼られた分析書には「アルカリ性単純温泉、低張性、アルカリ性、高温泉」とあった。

さあ露天風呂とご対面…ひ、広い! なんじゃこりゃあ。聞いてないよ~(ニヤニヤしながら)。4名分の洗い場まで付いてるじゃないか。ここ全部貸し切りにしちゃって、ええんですかい? 30名くらいいけそうな広々とした岩風呂はただ黙って我々を迎え入れた。

手前に屋根付きの4~5名規模の区画がある。こちらのお湯は熱め。残りのメイン区画は20名は超余裕でいける規模でお湯はぬるめ。そんなところに我ら少人数グループがポツンと浸かっている図は案外シュールだ。スカスカだよ~(ニヤニヤ)。

広さだけじゃない。周囲に見えるのは林と川の流れ。自然の中の露天風呂って感じで秘湯感ばっちり。なんという贅沢な空間。

本格的な源泉かけ流しでまさに無敵

湯口からドボドボと注がれる源泉は熱めだが、なにせ湯船が広いので、適度に冷めて好みのぬる湯加減になっていた。自然の景色を眺めながら、だだっ広い露天風呂に浸かり、ぬる湯を楽しむ。雨天を差し引いても最高ですな。

無色透明のお湯が縁から溢れ出して床の一部にお湯の流れができていた。その点からも源泉投入量の多さがわかる。また配された岩は白い析出物がこびりついていたり若干変色していたりする。温泉の質にこだわる方もきっと満足することだろう。

すっかり魅了された我々は、風呂上がりにフロントで2回目の貸切予約を入れようとしたら、「まだ全部のお客様がご到着されていません。皆様のご希望をひと通り伺うまでお待ち下さい」とのこと。

この公平な姿勢には感銘を受けた。当宿に早い者勝ち・やったもん勝ちみたいなノリは似合わないからね。こういう安心感は大事ですよ。我々も結果的には希望した翌朝の時間帯を押さえることができて八方丸く収まった。

川を望む露天になってる貸切風呂

夕食前と寝る前には貸切風呂へ行ってみた。こちらは入口前のボードに部屋名の書かれたマグネットを貼って意思表示する方式。脱衣所のガラス越しに見えたのは内風呂じゃなくて露天風呂だった。

カランが2つと6~7名規模の浴槽。これだって我々からすれば十分すぎる広さだ。川に向かって視界が開けており、開放感がある。向こうの方に小屋が見えるのは先ほどの大露天風呂だろう(あっちの様子は覗けません、ねんのため)。

夜になると灯りがともって、いい雰囲気になる。大露天風呂の方にも灯りが見える。いいじゃないですか。お湯がやや熱めなのだけが惜しい。ぬる湯派なんで単なる個人の好みですが。

単体でも主役を張れる、飲泉できる一般風呂その1

貸切風呂を出た後に一般の男湯へもはしごした。浴室内にカランは2つ。4~5名規模の内風呂の一端は、寝湯ができるように2つの石の枕を設置して浅く作ってあった。

内湯は湯気がこもる分だけ入室時に温泉らしい匂いがモワッとしてくるのが良い。そして湯船に浸かってみたら適温。ぬるくはない。

他の浴場もそうだったように、お湯の匂いを嗅いでみると、入室時にモワッとしてきたあの匂いがより強く感じられた。単純温泉によくある特徴だけど普通はなんと呼んでいいかわからない種類の匂い。うえだのはその特徴が強めで、「微硫黄臭」という呼称をあてはめたくなる。

さらには奥の扉の向こうに露天風呂があった。4~5名規模の浴槽の縁に寝湯するための木の枕が付いている。外気に触れる分だけお湯はぬるめで結構なり。草木や塀が視界に入らないという意味では、一般風呂の露天が一番見晴らしが良い。

湯口には「たま藤の湯 飲用」との銘板が掲げてあった。ほう、飲めるのか。湯口のお湯を手のひらで受けて飲んでみた。エグみはなく飲みやすい。いやあすごいなあ、この一般浴場だけで主役を張れるレベルだ。

ぬる湯とあつ湯がある一般風呂その2

翌朝の朝食前には男女が入れ替わったもう一方の一般浴場へ。こちらは露天風呂なし。露天エリアへ出る扉は存在するが締め切ってあり、その向こうにあるのは現在の貸切風呂なのだ(もちろん覗けません、ねんのため)。

内風呂は、未使用状態で蓋がしてある3名規模の区画と、4~5名規模のあつ湯区画と、5~6名規模のぬる湯区画に分かれている。カランの数は忘れた。全面ガラスの大きな窓があるから室内は明るく、屋外の雰囲気も感じられる。

印象は薄めだったが決して悪くはない。他の印象が強烈過ぎただけだ。なお残りの小貸切風呂へは行かずじまいだった。あれだけ入浴すればもう十分でしょう。それぞれを濃密に堪能しつつ、かつ全部をまわろうとすると結構大変ですよ。肌はすっかりすべすべ、指先はしわしわだ。


温泉に負けない印象的な食事

どれもこれもレベルの高い夕食

うえだの食事は朝夕とも1階食事処で。部屋ごとに決まったテーブルが割り当てられる。個室ではないもののテーブル同士は距離を取ってあって詰め込み感はない。

夕食開始は18時と18時半から選べる。着席した際のスターティングメンバーがこれ。
うえだの夕食
先付・前菜・お造り、すべてがうまい。やばいっす。牛鍋はすき焼きのように溶いた生卵につけていただく。途中で出てきたサワラの西京焼きをやっつけた時点でお腹が膨れてきたところ、さらに酢の物とノドグロの天ぷらキターーー!
ノドグロの天ぷら
でもおいしいのでまだまだいける。締めの鯛桜海老ご飯の前に出てきた大山地鶏粕煮ってのがまた危険なほどにうまかった。茶碗蒸しのような容器に入っており、鶏肉なのにちょっと噛むだけで白身魚のようにホロホロとくずれる。粕煮との相性もいい。

すいとんが出る朝食

朝食は8時と8時半からの選択。メニューは山あいの宿にふさわしい感じ。
うえだの朝食
鍋物は「湯豆腐かな?」と思ったら、すいとんだった。汁の味がしっかりしていて結構いける。ご飯との合わせ技ですっかり満腹。その日の昼食を抜いたくらいだ。

小ぶりで固めの焼き魚はなんだったか、あんまり見たことないなあと思って、当時はわからなかった。ネット調べによると鮎の一夜干しの開きっぽい。じゃあ頑張れば骨も頭も全部食べられるはず。先入観で背骨と頭を残してしまった。


ただただ感服つかまつる宿

当宿で一度だけ猫ちゃんを見かけた。すり寄っては来ないが人なれしている。
うえだ猫
帰りにはワンちゃんが駐車場まで先導してくれた。こちらも終始マイペースで、俗っぽく媚びてくる素振りを見せないあたり、まさに宿の姿勢を体現している。
うえだ犬
訪れたのは平成だったが、宿の雰囲気は令和=Beautiful Harmonyの語がよく似合う、山あいの宿うえだ。なんという隙のなさ。全方位で大満足だ。

ハイクラスの宿だとこういう体験ができるのか、と資本主義の洗礼を浴びたおじさん。しかし得られた満足感を考えると決して高くはない。

とはいえ現実問題、そうそうリピートするってわけにもいかないけどね。なので、いろんな人におすすめして自分の代わりに行ってもらうとしよう。