愛知県の温泉に行こうと思って宿を探した時に、「ちょうどいいな」と目に留まったのが湯谷温泉だった。なにせ温泉の名前そのまんまの鉄道駅があるし、駅前がすぐ温泉街だというから、鉄道一人旅にはちょうどいい。
しかしインターネットの予約サイトで気軽に検索できる範囲だと、湯谷温泉に一人泊の条件でヒットする旅館はほぼない。唯一、「湯の風HAZU」という旅館をよく見かけるから、一人旅ならそこが定番なんだろう。
ところが、たまたま検索したタイミングで姉妹館「はづ別館」がヒットした。訳あり部屋とのことだが料金は低めに抑えられている。しかも“おひとりさま”OK。これはまたとないチャンスなのかもしれないな、と思って、はづ別館の方に泊まることにした。
実際のところ、温泉良し・料理良し・部屋だって訳ありどころか全然いい感じじゃないの。山あいの静かな雰囲気も好みだし、すっかり気に入った。
自分の場合は豊橋からいったん蒲郡方面へ出て、ラグーナテンボスにあるラグーナの湯へ立ち寄った後、豊橋まで戻ってコーヒー休憩で時間を調整し、飯田線に乗った。
自分は決して鉄ちゃんではないが、飯田線がその筋の御用達路線であることは知っている。週末だったし、車内は乗り鉄・撮り鉄がぎっしり満載かとおそれていたものの、意外と普通でホッとした。まあそれっぽい乗客もいたが。
湯谷温泉駅では乗客の半分くらいが降りた(といっても10人そこそこ)。結構な人気じゃん…だが、ここは無人駅。駅舎だか駅前旅館だかのような建物はとっくの昔に閉鎖された感をさらけ出していた。
先ほどの乗客達はすでに散り散りになって、駅前の通りは人影もなく、ひたすら静か。川の水音しか聞こえない。混雑の対極にあるのどかな雰囲気は、地元経済の都合を無視していえば、自分の求めていたものである。そんな温泉街にある「はづ別館」は駅から徒歩1分。本当にすぐそこだ。
チェックインすると、ロビーのテーブルでお茶とお菓子をふるまわれた。すぐ隣のお座敷にはひな飾りが。
海外からのお客さんは特に喜びそうね、と思ったら、実際この日も訪れていた。エキゾチック・ジャパン的な売りでインバウンド需要の多い宿なのかもしれない。
広さは8畳。一人なら十分すぎるね。天井はやや低め、古びた感はあれど民芸調の趣きと思えば気にならないし、手入れはしっかり行き届いている。液晶テレビ・金庫・別途精算のビールが入った冷蔵庫あり。暖房はファンヒーター。WiFiあり。
窓の外の景色はこんな感じ。流れる川は宇連川、別名板敷川とも呼ばれ、川底の岩がまさに板を敷き詰めたように見える。いとをかし。また周辺は渓谷の様相を呈しており、鳳来峡という名でも知られている。
いいねえ。川のザーッという音がうるさいという口コミも見かけるが、自分には心地よい。絶景と川音に囲まれたレトロな部屋で何もせずゴロゴロするのは最高だ。温泉旅にハマった初期の頃を思い出し、こういうのを求めていたんだよと、原点に返る気分だった。
夜9時までは露天風呂と内湯を備えた浴場が男湯で、鳳液泉と名付けられた内湯のみの浴場が女湯。夜9時から翌朝チェックアウトの時間まで男女が入れ替わるので、露天風呂狙いの男性は夕方のうちに頑張って入っておきましょう。
もう1フロア下りて男湯の脱衣所へ。壁の分析書には「ナトリウム・カルシウム-塩化物泉、低張性、中性、温泉」とあった。
浸かってみると濃ゆい感触がして大変結構。甘いような木の香のような匂いもあって、なんとなく伊香保の湯を思い出した。
湯船の中央に天井から太い竹筒がぶら下がっていて、筒を通して源泉が投入されているところがユニークだ。こんな源泉かけ流しは初めて見た。(ぬるめが好きなので)温度を除けば何のケチのつけようもない、結構なお点前だった。
川の対岸に見える小路を人が歩いていれば覗かれてしまうだろう。まあ誰も歩いてなかったけど。倒木が道を塞いでいたりするから通行止めになってるかもね。
お湯の特徴はさっきの檜風呂と一緒ながら、ぬるくなっていたのが良かった。こりゃええわー。幸せ気分に浸っていたら、西洋系の顔立ちをした先客と雑談が始まった。つたない英語でなんとか会話したところによると、ヨーロッバ出身で今は東京で仕事しているそうだ。
湯谷温泉によく目を付けたな、と思って訊いたら、インターネットで情報をゲットしたそうだ。まあ自分もそうだからな。リラックスしに来た・温泉サイコ~♪(意訳)と言ってたから、温泉の魅力は万国共通といったところか。
ずっと入っていたかったけど、客の姿がちらほら増えてきたため、適度に場所を譲りあうべきだなと思って、再び内湯に戻って少し浸かってから出た。
たしかに、ややぬるめのコンディションのお湯は入りやすい。こちらも大変結構なお点前である。檜風呂と違って湯口は普通な感じで、浴槽のサイズに見合った量がしっかりと投入されていて好感が持てる。
鳳液泉の夜は5~6名の客と居合わせて人口密度が高かった。朝6時頃は他に1名いるかどうかで独占する時間もあったし、窓の外の真っ暗な空が日の出とともにだんだん明るくなってくる変化を楽しむことができた。
総じていいお湯だった。旅行の計画を立てる時、「愛知県で定評ある温泉ってどこかあったっけ。わかんないや」と不遜なことを考えてしまって、すんませんでした。当宿の温泉ならば誰もが十二分に満足するだろう。
おお、山里の料理ぽくて、いいぞいいぞ。川魚の刺身用に赤醤油と練り辛子入りの土佐醤油が提供されているのが独特であった。さらに揚げ大根餅には生姜醤油が別途付いてくるという調味料最適化の徹底ぶり。
そしてアマゴの朴葉包み焼き。ふだんの偏った食生活を補うかのように一心不乱に食べ進む。
鍋はすき焼きだった。鳳来牛という、4軒の農家でしか飼育されていない希少な4等級以上の牛肉だそうな。自己流で下手くそに作っちゃって、ベストな仕上がりで食べてあげられなかったのは遺憾であるが、脂身のクドさもなく、味噌風味でうまかった。
締めのご飯がまたやばい。絹姫サーモン(鱒)のお茶漬けが、やめられない止まらないの味とさっぱり感で襲いかかってきた。食べてまうやろー。
あと刺身こんにゃくもスッキリした朝の目覚めにふさわしい。これくらいやってくれたらもう十分ですわ。
おそらく直接電話するとか、特定日だけとか、なんらかの条件限定のプランだろうね。自分は普通に旅行予約サイト上の提示料金で泊まった。あなたが料金を決めてと言われても変に悩んじゃうから別にいいけど。
館内にはマスコットの鳥・ぶっぽうそうの置物や絵があちこちに飾られていた。…でもこれ、ミミズク系に見えるんだけど、本当にぶっぽうそうなの?
その正体はコノハズク。鳴き声がブッポウソウと聞こえる。一方、本来のぶっぽうそうと呼ばれる鳥は別にいて、そいつはブッポウソウとは鳴かない。だからはづ別館のマスコットキャラは声がブッポウソウであるコノハズクだ。ああややこしい。
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しかしインターネットの予約サイトで気軽に検索できる範囲だと、湯谷温泉に一人泊の条件でヒットする旅館はほぼない。唯一、「湯の風HAZU」という旅館をよく見かけるから、一人旅ならそこが定番なんだろう。
ところが、たまたま検索したタイミングで姉妹館「はづ別館」がヒットした。訳あり部屋とのことだが料金は低めに抑えられている。しかも“おひとりさま”OK。これはまたとないチャンスなのかもしれないな、と思って、はづ別館の方に泊まることにした。
実際のところ、温泉良し・料理良し・部屋だって訳ありどころか全然いい感じじゃないの。山あいの静かな雰囲気も好みだし、すっかり気に入った。
湯谷温泉「はづ別館」へのアクセス
湯谷温泉の最寄り駅はJR飯田線の湯谷温泉。はい、そのまんまですね。東京方面からだと新幹線で豊橋まで行き、飯田線に乗り換えて約1時間。湯谷温泉まで行く列車は本数が少なく、多くは途中駅止まりだ。豊橋でランチなりコーヒー休憩なり、うまく時間調整されるがよかろう。自分の場合は豊橋からいったん蒲郡方面へ出て、ラグーナテンボスにあるラグーナの湯へ立ち寄った後、豊橋まで戻ってコーヒー休憩で時間を調整し、飯田線に乗った。
自分は決して鉄ちゃんではないが、飯田線がその筋の御用達路線であることは知っている。週末だったし、車内は乗り鉄・撮り鉄がぎっしり満載かとおそれていたものの、意外と普通でホッとした。まあそれっぽい乗客もいたが。
湯谷温泉駅では乗客の半分くらいが降りた(といっても10人そこそこ)。結構な人気じゃん…だが、ここは無人駅。駅舎だか駅前旅館だかのような建物はとっくの昔に閉鎖された感をさらけ出していた。
先ほどの乗客達はすでに散り散りになって、駅前の通りは人影もなく、ひたすら静か。川の水音しか聞こえない。混雑の対極にあるのどかな雰囲気は、地元経済の都合を無視していえば、自分の求めていたものである。そんな温泉街にある「はづ別館」は駅から徒歩1分。本当にすぐそこだ。
情緒ある雰囲気が良い、はづ別館
民芸調の館内
はづ別館の前に立つ。正面玄関のあたりは和洋折衷の大正ロマン風に見える。左右には緑色の壁をした昭和チックな箱型の建物。しかし中に入ると内装は古民家風、ていうか民芸調と言うべきなのかな。とにかく捉えどころのない、面白いテイストだ。チェックインすると、ロビーのテーブルでお茶とお菓子をふるまわれた。すぐ隣のお座敷にはひな飾りが。
海外からのお客さんは特に喜びそうね、と思ったら、実際この日も訪れていた。エキゾチック・ジャパン的な売りでインバウンド需要の多い宿なのかもしれない。
板敷川を望むレトロな部屋
案内された部屋はバス・トイレなしの部屋が並ぶ棟の2階奥。たしか予約サイトでは「山側で眺望なし」と書かれていた気がするが、実際は川側の眺望の良い部屋であった。いい部屋が空いてたから変えてくれたのかもしれない。ナイス。広さは8畳。一人なら十分すぎるね。天井はやや低め、古びた感はあれど民芸調の趣きと思えば気にならないし、手入れはしっかり行き届いている。液晶テレビ・金庫・別途精算のビールが入った冷蔵庫あり。暖房はファンヒーター。WiFiあり。
窓の外の景色はこんな感じ。流れる川は宇連川、別名板敷川とも呼ばれ、川底の岩がまさに板を敷き詰めたように見える。いとをかし。また周辺は渓谷の様相を呈しており、鳳来峡という名でも知られている。
いいねえ。川のザーッという音がうるさいという口コミも見かけるが、自分には心地よい。絶景と川音に囲まれたレトロな部屋で何もせずゴロゴロするのは最高だ。温泉旅にハマった初期の頃を思い出し、こういうのを求めていたんだよと、原点に返る気分だった。
はづ別館のお風呂は文句なし
川近くのフロアにある大浴場
いよいよ風呂です。フロントを1階とするなら、はづ別館の大浴場は地下2階にある。まずフロント前から1フロア下りて食事処のある地下1階へ。そこには湯あがり休憩所もあり、水分補給にゆずみつジュースが提供されている。夜9時までは露天風呂と内湯を備えた浴場が男湯で、鳳液泉と名付けられた内湯のみの浴場が女湯。夜9時から翌朝チェックアウトの時間まで男女が入れ替わるので、露天風呂狙いの男性は夕方のうちに頑張って入っておきましょう。
もう1フロア下りて男湯の脱衣所へ。壁の分析書には「ナトリウム・カルシウム-塩化物泉、低張性、中性、温泉」とあった。
うぐいす色が輝く檜風呂
露天風呂へ行きたい気持ちを抑えて、まずは内湯へ。床がぬるぬる滑るぞ。カランは5つ。川を望む窓際に5~6名サイズの檜風呂があった。誰もいないから独占だ。やや熱めのお湯はうぐいす色に輝き、見事な濁り湯であった。浸かってみると濃ゆい感触がして大変結構。甘いような木の香のような匂いもあって、なんとなく伊香保の湯を思い出した。
湯船の中央に天井から太い竹筒がぶら下がっていて、筒を通して源泉が投入されているところがユニークだ。こんな源泉かけ流しは初めて見た。(ぬるめが好きなので)温度を除けば何のケチのつけようもない、結構なお点前だった。
絶景とぬるめが幸せな露天風呂
続いて露天風呂へ。こちらの浴槽は3名サイズですでに先客が1名。板敷川を目の前にした露天風呂のロケーションはすばらしい。下の写真は1階ロビーから撮ったものだが、これをもっと低い目線で眺めることになる。川の対岸に見える小路を人が歩いていれば覗かれてしまうだろう。まあ誰も歩いてなかったけど。倒木が道を塞いでいたりするから通行止めになってるかもね。
お湯の特徴はさっきの檜風呂と一緒ながら、ぬるくなっていたのが良かった。こりゃええわー。幸せ気分に浸っていたら、西洋系の顔立ちをした先客と雑談が始まった。つたない英語でなんとか会話したところによると、ヨーロッバ出身で今は東京で仕事しているそうだ。
湯谷温泉によく目を付けたな、と思って訊いたら、インターネットで情報をゲットしたそうだ。まあ自分もそうだからな。リラックスしに来た・温泉サイコ~♪(意訳)と言ってたから、温泉の魅力は万国共通といったところか。
ずっと入っていたかったけど、客の姿がちらほら増えてきたため、適度に場所を譲りあうべきだなと思って、再び内湯に戻って少し浸かってから出た。
これが湯谷温泉のクオリティだ…鳳液泉
夜9時過ぎと翌朝には鳳液泉に行ってみた。こちらは内湯のみ。浴室にはカランが6つと6名規模の浴槽。床はぬるぬるしていない。壁には「鳳」「液」「泉」と書かれた3つのタイル(?)が見える。湯谷温泉の源泉名を冠した浴場だけに泉質には自信ありってことか。たしかに、ややぬるめのコンディションのお湯は入りやすい。こちらも大変結構なお点前である。檜風呂と違って湯口は普通な感じで、浴槽のサイズに見合った量がしっかりと投入されていて好感が持てる。
鳳液泉の夜は5~6名の客と居合わせて人口密度が高かった。朝6時頃は他に1名いるかどうかで独占する時間もあったし、窓の外の真っ暗な空が日の出とともにだんだん明るくなってくる変化を楽しむことができた。
総じていいお湯だった。旅行の計画を立てる時、「愛知県で定評ある温泉ってどこかあったっけ。わかんないや」と不遜なことを考えてしまって、すんませんでした。当宿の温泉ならば誰もが十二分に満足するだろう。
お値段以上のナイスな食事
実力派揃いのメニューが並ぶ夕食
はづ別館の食事は朝夕とも地下1階の食事処で。夕食開始は18時か19時を選べる。18時に行ってみると、部屋ごとに決まったテーブル席が用意されていた。スターティングメンバーがこれ。おお、山里の料理ぽくて、いいぞいいぞ。川魚の刺身用に赤醤油と練り辛子入りの土佐醤油が提供されているのが独特であった。さらに揚げ大根餅には生姜醤油が別途付いてくるという調味料最適化の徹底ぶり。
そしてアマゴの朴葉包み焼き。ふだんの偏った食生活を補うかのように一心不乱に食べ進む。
鍋はすき焼きだった。鳳来牛という、4軒の農家でしか飼育されていない希少な4等級以上の牛肉だそうな。自己流で下手くそに作っちゃって、ベストな仕上がりで食べてあげられなかったのは遺憾であるが、脂身のクドさもなく、味噌風味でうまかった。
締めのご飯がまたやばい。絹姫サーモン(鱒)のお茶漬けが、やめられない止まらないの味とさっぱり感で襲いかかってきた。食べてまうやろー。
猪鍋が付く朝食
朝食の開始時間は8時か8時半。こちらもなめちゃいけない。定番風の和定食と見せかけて、汁物が猪鍋なのである。煮立ったら味噌を溶かして入れる。なんとまあ、朝からジビエとはね。滋養ありまくり。あと刺身こんにゃくもスッキリした朝の目覚めにふさわしい。これくらいやってくれたらもう十分ですわ。
宿の価値、認めます
ネットで調べれば情報が出てくるし、湯あがり休憩所のところにも掲示がしてあったのだが、ここには「宿の価値シリーズ」と題して宿泊客が料金を決めるプランもあるらしい。おそらく直接電話するとか、特定日だけとか、なんらかの条件限定のプランだろうね。自分は普通に旅行予約サイト上の提示料金で泊まった。あなたが料金を決めてと言われても変に悩んじゃうから別にいいけど。
館内にはマスコットの鳥・ぶっぽうそうの置物や絵があちこちに飾られていた。…でもこれ、ミミズク系に見えるんだけど、本当にぶっぽうそうなの?
その正体はコノハズク。鳴き声がブッポウソウと聞こえる。一方、本来のぶっぽうそうと呼ばれる鳥は別にいて、そいつはブッポウソウとは鳴かない。だからはづ別館のマスコットキャラは声がブッポウソウであるコノハズクだ。ああややこしい。
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