大地のロマンがあふれる琥珀色の極楽 - トータス温泉

トータス温泉
甲府周辺は気軽に立ち寄れる日帰り温泉施設・温泉銭湯が充実している。うらやましい限り。とくにネット上でいろいろ調べていくと、総じて口コミ評価が高かったり、多くの方が訪問記を書いているような、定番的な施設がいくつか浮上してくる。

そのうちのひとつが「トータス温泉」だ。トータス。もう名前からして気になってしょうがない。なんなんだトータス。

だが単なるイロモノと侮ると真価を見誤る。これがまた結構なお湯なのだ。もし熱めが好きならば内風呂へ、ぬるめが好きならば露天風呂へ入ってみるがよい。琥珀色の極楽を味わえるはずだ。

トータス温泉へのアクセス

年末年始ダイヤで消えたバス便

トータス温泉への訪問はまさに運命的な導きによる。

暮れの甲府一人旅の2日目、どこかへ立ち寄り湯してから帰るつもりだった。当初の計画では、温泉ファンの間で名高いフカサワ温泉・玉川温泉を考えていた。そこで昭和通りを南下する路線バスに乗るため、前泊したホテル談露館をチェックアウトして、甲府駅南口までやって来た。

ところがバス停に張り紙が…「年末年始ダイヤのため減便いたします」…なにィィィ?! ちょうど乗りたかった便が間引かれとるやん! 次の便は何時間も後じゃねーか、どうすんだこれ。

落ち着け、素数を数えて落ち着くんだ。…タクシーに頼らずともまだ手はある。イオンモール甲府昭和行きのシャトルバスなら30分毎に出ており、少なくとも玉川温泉であればイオンモールから徒歩15~20分で行けるはず。

急な心変わりでトータス温泉へ

でもなあ…なんだか急に興ざめしてきたのである。かわりに、名前と評判が気になりつつも断腸の思いで(大げさ)候補から外したトータス温泉のことを、ふと思い出した。あそこならJR身延線の駅から徒歩圏だ。身延線もうすぐ出るんじゃないか。

すぐではなかったが30分以内に発車するとわかったので、これも何かの縁だと、急きょ行き先をトータス温泉に変更した。フカサワ・玉川は甲府昭和をテーマにした別の旅を組んで行くことにしよう。いつのことになるか知らんが。

東京方面から来た人が身延線に乗る際は注意が必要だ。同線はJR東海の路線である。つまりSuicaが使えない。Suicaで甲府駅に入場すると下車駅で大変面倒なことになるから、甲府駅では行き先までの切符を買って入場すべし。

しかも甲府駅の券売機は台数が限られるうえ、前に並んだマイペースな御一統さんが和気あいあいと掛け合いに興じながら、切符を買いに来たのかご歓談しに来たのかよくわからない体で券売機を占拠する間、じりじりと焦らされることは必定。やりすぎなくらいに早めの行動を心がけたい。

甲斐住吉駅から徒歩10分

そんなこんなで身延線に10分ほど乗車してトータス温泉の最寄り駅・甲斐住吉までやって来た。スマホのナビによれば、駅前の道を南下して国道20号を横断。ここまでは難しくない。

横断したらもう少し南下して、中小河原バス停があるところで細い道へ右折する。この細い道を見落としやすいのと、右折してからただ前を見て歩いてもトータス温泉に気づかないのが難点。

国道358号(平和通り)という大きい道にぶつかって振り返ったら、こんなのや
こんな看板を見つけてようやく気づいた次第。振り返らないと気づきません。
甲斐住吉駅から南下して国道20号を横断した後は、すぐ右折して20号沿いに進み、まもなく現れる立体交差地点で平和通りへ左折する方が迷わないと思う。


良質の金の湯をかけ流しするトータス温泉

独特の垂れ幕がお出迎え

トータス温泉の入口には、でかでかと文字の書かれた垂れ幕がデーンと張り出している。山梨の温泉施設では毎度おなじみ、O短大T名誉教授のありがたいお言葉。

専門用語のような造語のような横文字よりも「源泉かけ流し」「金の湯」というワードの方に期待が膨らむ。甲府盆地によく見られるモール泉的な褐色系の温泉なんだろう。しかも源泉かけ流し。小ぢんまりした銭湯風の施設なのにやってくれるぜ。

入館するなり何倍にも拡大した分析書のパネルが掲げてあった。「ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。自販機で500円の券を買い、下足箱の鍵と共に受付に渡すと、引き換えにロッカーの鍵が付いた腕輪をくれる。

脱衣所で腕輪の番号に対応したロッカーに服をしまう。ひとりの常連らしきおじいさんは床に脱ぎ捨てたままにしていたが…。身体に不自由なところがあるのかもしれないね。やむなし、やまなし。

ものすごい湯気に霞む浴室

開館直後の時間にしては浴室内にそこそこ人がいる。ただ正確な人数はわからない。湯気もうもうで、一寸先は真っ白、ろくに見えないのだ。人の気配はそこかしこにあるが、まあ混雑というレベルではなさそうで一安心。

見えにくい中を頑張って確認してみるとカランは10台。シャワーのつくりがちょっと変わってる。まずホースが短い。頭の上まで持ってくるのが精一杯の長さ。トータスだけに亀の首ってことか。スッポンの首くらいの長さは欲しいね。

そしてシャワーの持ち手のところにボタンが付いている。普通にお湯が出る状態にしてボタンを押すとお湯が止まり、再度押すとまたお湯が出てくる。元栓に手を伸ばさないですむようにする工夫がいいね。

2段階の温度で提供される内湯

内湯の浴槽は2つ。2名規模の高温風呂と4名規模の中温風呂。どちらも琥珀色のお湯がかけ流しになっている。温度調整の加水はされているようだが高温の方はさすがに熱い。43℃オーバーのような感じで自分にはちと厳しかった。やけどしそうな激熱ではないけどね。

高温風呂からあふれた湯の一部は中温風呂へ流れ込んでいる。中温風呂の方は適温の範疇のやや熱め。自分の好みではないが一般受けする温度だと思われる。一部がジャグジー風になっていて泡がボコボコしてた。

さすが金の湯を謳う色は見た目に美しい。まるでウイスキーの中に入っているようだ。風邪でバカになってしまった鼻では役に立たないだろうと思いつつ、お湯をすくって鼻を近づけると、モール臭をボヤーッと感じることができた。

温度の好みを除けば、温まりがよく、じんわり効いてくる感じでいいお湯だと思う。もし自分ちの近所にあったらさぞかし人気を呼ぶだろう。

ぬるめの露天風呂が極楽

続いて露天風呂へ。L字型をした岩風呂は決して小さくないはずなのだが、その形状のためにキャパは4~5名がいいところじゃないだろうか。町中にあるから当然目隠しの塀で囲まれ眺望はない。あと奥の方がジャグジー風になっていて泡がボコボコしてた。

お湯の見た目は内湯と同じで温度だけがぬるめ。不感温度まではいかないけど、それに近いくらいぬるい。自分の好みにジャストミートだった。こりゃいいや。しばらく出られなくなるパターン。

白くて細かい湯の花が漂っているようにも見えるがはっきりしない。ジャグジーやら何やらで湯船のお湯が激しくかき回されているためだ。泡付きが見られないのもそのためかもしれない。

まあそれにしても露天風呂の気持ちよさはたまりませんな。目を閉じて浸かっていたら眠ってしまいそうである。1時間でもいたくなる極楽だったが、スケジュールの都合で15分ほどしかいられなかった。ああ残念。

ちなみに露天風呂にもT名誉教授のお言葉が掲げてあったと思う。地球の体液とガイアが重要キーワードだ。


気軽に立ち寄れる本格温泉

ユニークな名前が印象的なトータス温泉。経営会社の名前に由来するとの情報がある。だがお湯の良さも負けず劣らず印象的であった。時間が許せばもっと長く滞在していたに違いない。

鉄道でも車でも気軽に行ける場所だから、甲府へお立ち寄りの際は湯めぐり候補に入れてみてはいかがだろう。大規模で現代的なスーパー銭湯というより、町の庶民的な温泉銭湯のつもりでどうぞ。