寅次郎よ永遠に。「男はつらいよ」第44~48作+特別編

柴又駅
1年以上にわたって続けられた「男はつらいよ」シリーズ全作鑑賞プロジェクト。48作+特別編1作をついにコンプリートした。短期間に集中して観られればよかったんだけど、いろいろあってそうもいかず、いやー長かった。

車寅次郎というキャラクターを生み出し、動かし、人気者のポジションを保ち続けたのは奇跡というほかない。渥美清が演じたというのがまた、これ以上ないめぐり合わせであった。

リアルタイムで観られなかったのは残念といえば残念だが、当時の精神年齢だと関心を持たなかったのは、まあ無理もないかなと。作品が今の時代背景に合わないのはやむを得ないとしても、今後もなんとか新しいファンを獲得して生き残ってもらいたい。自分がそうだったように、ちょっとしたきっかけて急にハマることもあるから。

44~48作目+特別編の特徴

衰えは隠せず

満男編に入ったあたりから薄々感じてはいたことだが、寅さんに活気がない。役者の高齢化云々のレベルじゃない。肝心の寅さんは、ここぞという時にちょろっと出てきて、なんか深イイことを言う役回りが精一杯。

とくに47作目のオープニングがやばかった。主題歌を歌う声にまったく張りがなくて弱々しく、「大丈夫か?」と心配になった。2番の歌詞を歌えてないし。本編最終の48作目も同様。

渥美清の体調面が相当厳しい中での撮影だったことがうかがわれ、涙ちょちょぎれる。

一筋の光明が見えるラスト

そんな中でも48作目は「今までと違う何か」が感じられる、ちょっと救いのある結末だった。スタッフ陣はあくまで続編があるのを前提として動いていたはずだから、寅さんが結婚するとか、すべての伏線を回収してオチをつけるとか、そういうことはしていないけど、“これで終わりかもしれない”の予感からひと捻りしたのではないか。

いつもならはっきりとアタックすることなく失恋するか、逆に相手からOKサインが出るや逃げていた寅さんが、腹をくくったかのように勝負に出たのである。

長いシリーズを観てきた者だけがわかる「あー、よかったねー」のカタルシスがあった。雲が切れてぱーっと晴れたかのような気分。寅さんを追い続けた観客の側もあれで救われた。もう何も言うことはない。

だいぶ現代に近づいた寅さんの世界

最終盤の作品群は90年代だから、インターネットと携帯電話が大衆化していないくらいで、画面に映る文化風俗にそれほど違和感はない。隣のタコ社長の工場もなんだか電子化された風のモダンな内装になってたな。

Windows95じゃないっぽいけど、社会人になった満男の職場にはパソコンが導入されているのがわかる。当時だとPC98かな。それとも単なるワープロか。満男がそれを使ってメール、もとい手紙の文面を打ち込んでました。

しかし、あるシーンの「定年が55歳から60歳になって…」というセリフにはびびった。55歳?! 磯野家の波平さんじゃあるまいし、当時だって55歳ならまだ全然老け込んでなかったぞ。現在じゃ定年60歳を超えて65歳どころか70歳、いや75歳になっても不思議じゃないからね。どうしてこうなった。

寅次郎温泉めぐり

今回の範囲だと寅さんが訪れたとはっきりわかる温泉は少ない。一つめはあるラストに出てきた下呂温泉。これにはびっくり。だって自分が数ヶ月前に行ってたんだもの。
下呂温泉街
こんな感じの見覚えありまくりの景色がバンバン出てくるのでテンション上がってしまった。そうかい、あそこに寅さんいたのかい。

二つめは別作品のラストに出てきた雲仙温泉。ここは有名どころでもあるし、自分が長崎県の温泉を目指す時には行くことになるだろう。いつのことになるか知らんが。

なお、特別編のラストで草津へ行かないかと誘われていたけど、草津そのものは画面に登場しない。

あとは寅さんが柴又の皆さんに送った手紙の文面に「宮崎は温泉は少ないがいいところだ…」と書いてあった。やっぱりみんな思うことは同じだね。宮崎の温泉を目指す場合に、どこに行けばいいのかは悩みの種である。


各作品を軽く紹介

簡単なコメントとともに。

No.44:男はつらいよ 寅次郎の告白
マドンナは前々作から引き続き泉。就職問題に悩んで鳥取へ傷心旅行に出た泉を追う満男。さらに偶然鳥取に来ていた寅さんも合流してすったもんだ。寅さんのお相手となる準マドンナは旅館の女将。ふたりはその昔、結構いい仲だったようだ。その頃の恋が再燃するかと思わせて、逃げパターンで終了。満男よ、「正月は泉が来るから友達と遊ぶ約束を入れない」ということを、早く学習しような。

No.45:男はつらいよ 寅次郎の青春
マドンナは引き続き泉。舞台を宮崎・油津に変えつつ、例によって泉・満男・寅さんの揃い踏み。準マドンナの美容師といい感じになるや、やっぱりの逃げパターンで去ろうとする寅さんを評して満男の放った言葉があまりに鋭い。「伯父さんは楽しいだけで奥行きがないから」だと。さすがの寅さんも「そうかもしんない」と認めちゃってた。今作で満男と泉はいったん別れてしまうのだが、満男はあきらめていない。

No.46:男はつらいよ 寅次郎の縁談
久々に寅さんのお相手がマドンナ。武士の娘…じゃないや店舗経営者とでもいおうか。さる出来事で家を飛び出し、瀬戸内の小島に流れ着いた満男を連れ戻しに来た寅さんだったが、マドンナに入れ込んでそっちのけ。満男は満男で看護師の娘とよろしくやってるし。もういいじゃん、泉は忘れて、もうこの娘でいいじゃんと思ってしまった…。柴又くるまやの前を釣りバカのハマちゃんが通りかかるシーンにはびっくり。あと、さくらの家がまた変わってました。

No.47:男はつらいよ 拝啓車寅次郎様
マドンナは鎌倉在住の主婦。旅先の滋賀県長浜で寅さんと出会う。もうちょっと絡んでくるかと思ったらわりとあっさり去っていった。一方、満男も長浜で新しい恋の予感(泉はどうした)。祭りのシーンでは、自分が2年前に長浜に行った時の思い出と重なりそうな光景もあって、おおっ?!となった。近くの須賀谷温泉に泊まったんだけど、寅さんも須賀谷温泉に行ってたのかな。

No.48:男はつらいよ 紅の花
マドンナは4度目登場のリリー。準マドンナが泉。寅さんサイドも満男サイドも、決定的ではないけど一定の決着をつける回となっている。奄美・加計呂麻島の浜辺のシーンがクライマックス。いやーたまらん。そして柴又に戻ってからのタクシーのシーンは、なんも言えねー。たまらん。実際には未完のシリーズだけど、なんだかフィナーレに相応しい余韻がある。寅次郎よ永遠に。お疲れ様でした。

No.49:男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別編
ほぼほぼ第25作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」そのままである。最初と最後に満男の独白シーンが加わったのと、他のリリー四部作からもいくつかシーンの引用がある。No.48を観た後だと寅さんの声の張りが違う。若いねー。主題歌を歌うのはなんと八代亜紀。キーを変えて哀切たっぷりに歌い上げるのがたまらん。それは歌詞が示す車寅次郎の「男のつらさ」という物語レイヤーを飛び越えて、現実レイヤーにおける渥美清への挽歌のように聞こえる。

お時間あれば見ておくんなせえ。自分はちょっと休憩。2周目に突入することは当面ないと思うが…。


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