自分は決してダムマニアではない。ダムカード集めの趣味はないし、ダムカレーを食べたこともない。しかし旅行先にダムがあって行けそうな条件だとつい立ち寄ってしまう行動パターンができつつあった。特にグループ旅行で車利用の場合には。
秋の新潟県魚沼地域への旅行はまさにその条件が当てはまっていた。結局、魚沼市と南魚沼市で合計3つのダムを見学することになったのである…三国川(さぐりがわ)ダム・黒又川第1ダム・奥只見ダム。
奥只見はよく知られたベタな観光地である一方、三国川と黒又川は「こんなところにダムがあるぞ」とアドリブで行くことを決めたようなものだ。それぞれに趣があり、意外な展開や発見があった。
途中には「五十沢温泉ゆもとかん」なる旅館があって立ち寄り入浴も可能だったが時間的な都合でパス。またいつかね。
やがて遠くに巨大な建造物の一部が見えてくると、ほどなくして道が二股に分かれた。どっち? どっちどっち?…ダム見学には左を行こう。最終的にはどちらも同じ道=ダムによってできた「しゃくなげ湖」を一周する湖岸道路である。
左の道のくねくねカーブの坂を上がっていくと、大型観光バスも止まるような、ダム見学者用の駐車場がある。けっこう観光地化していて、団体客を乗せた観光バスが次々と坂を上がってくるし、わりと人がうろうろしている。
おびただしい数のカメムシとハンミョウに占拠された通路を経て展望台の屋上へ。ダムを見下ろした光景がこれ。三国川ダムは「ロックフィルダム」という種類のダムで、粘土を盛った上に付近で採れた石を積み上げて造られている。
展望台を下りて、しゃくなげ湖方面を撮影。右側に見える人工的な三角状のところが石を採った跡地。
管理職員さん引率のもと、展望台の内部にあるエレベータで地下へ。ダムの内部なんて初めてだ。ドキドキしてきた。
年間を通じて気温が10℃くらいに保たれた地下通路は、説明用の写真がぶら下がっていたりするものの、基本的にはエンジニアリング感満載の無骨なロマンに溢れている。フォールアウトのVaultに潜入したような気分だ(ゲームねたですいません、Vault=一種の地下シェルター)。いいよいいよー。
ある程度進んだところで終点のT字路に到着。ここから先は一般人の立ち入りが禁止となり、かたや下っていく階段、かたや果てしない上り階段。こんなの上りたくねー。
いったんエレベータまで引き返し、別の通路を行くと、「ゲート」と呼ばれる水の流量を調節する装置があった。うわあ、どうみてもVaultです。
ゲートから誘導された水が出ていく水路の始まりが見学の終点。水路はこの先の発電所につながっていて、流れる水は発電に使われるそうだ。三国川ダムの目的は治水・水道水供給・農業その他の用水供給・発電の4つだと聞いた。
湖岸道路を一周して二股分かれの近くまで戻ってきた。ちょっとした公園があったので、最後に三国川ダムの勇姿を目に焼き付けた。
道の駅がある入広瀬の少し先から県道500号へ。沿道の畑が途切れると民家も何もない完全なる山の中。おそらくダム関係者しか通らないであろう。
やがて黒又川第一ダムが姿を見せ始めた。道路が山に沿って細かくカーブしているため、見た目の距離感以上に実際の道のりは遠い。
ダムに着いてみると、観光面は特に整備されておらず、駐車場も管理事務所も案内板もトイレもない。人もいない。とりあえずダム湖を撮影する。
ダムの壁を横から見たところ。この馴染みある形状は「重力式ダム」に分類されるらしい。
そういうわけなので、ダムカード目当ての観光客がポロポロやって来るようだけど、残念ながら期待には添えない。運転に習熟したダム関係者が通る前提の道路はカーブや落石など要注意ポイントだらけだし、さあどうぞ行ってみてねとは言えない。
もっと上流には黒又川第二ダムもあるが、聞いた話だと道はさらに難しく危険になる。行かないほうがいい。基本的に無人で携帯の電波も怪しいから、困ったことが起きても助けてもらえない。運転を誤って湖にドボンしかねない上、そうなっても気づいてもらうことすらできない。行方知れずのまま永遠にダムの底。
ひええええ。我々はもちろんおとなしく引き返した。
とにかくひたすらトンネルが続く。全長22キロのうち18キロがトンネルだという。しかもトンネルの壁が整ってなくてゴツゴツした岩がむき出しになってるような区間もあるし、漏水かなにかで路面が濡れていた。ワイルドすぎる。
40~50分で終点の奥只見ダムに到着。紅葉シーズンの週末だったから駐車待ち渋滞があったら嫌だなと思ったけど、朝10時前なら大丈夫だった。
…違った。あれは奥只見ダムから銀山平というところまで行く、団体ツアー客が大挙して乗るやつだった。我々の乗る奥只見湖周遊コースはこっちの船。全然違うぞ。
とにかく乗り込んで出航。紅葉は始まっていたとはいえ錦秋と呼ぶにはまだ早い。翌週に来た人たちはバッチリだったんだろうなあ。
それでも十分といえば十分。秘境感を醸し出す山々と表面を覆うまだらな紅葉、どこまでも奥がありそうな湖面の取り合わせは見事であった。その中を軽やかに進む船の疾走感が小気味よい。思わずタイタニックごっこを…するわけない。そんな場所もないし。場所があってもしないし。
電力館の建物はこんな感じ。中でダムカードをもらえるようだ。
いろいろな展示がある中で最も人気だったのが、自転車を漕いでどれくらい発電できるかを競う体験コーナー。我こそはと挑戦する客が群がっていて近寄れず。2階へ上がると、ちょっとした展望室のようになっていた。ここからもダムをじっくり観察することができる。双眼鏡あり。
その谷底には川に沿って道が付けられていた。あんなところまで行けるのか。入口らしき場所は見当たらなかったが…いや、ああいう地点まで一般人が行けるダムは見たことないし、関係者専用の作業路だろう。
最後の最後に奥只見ダムの勇姿を。秘境の中に突如現れた巨大ダムという雰囲気がいい(このさい人の多さは無視しよう)。
ダムを直接訪問したわけじゃないからノーカウントにしたが、旅の初日には湯沢町の田代ロープウェーに乗って二居ダムを見下ろしている。1日1箇所ずつ4つのダムを見物したわけだ。しかしこれだけは言える。自分はダムマニアではない。
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秋の新潟県魚沼地域への旅行はまさにその条件が当てはまっていた。結局、魚沼市と南魚沼市で合計3つのダムを見学することになったのである…三国川(さぐりがわ)ダム・黒又川第1ダム・奥只見ダム。
奥只見はよく知られたベタな観光地である一方、三国川と黒又川は「こんなところにダムがあるぞ」とアドリブで行くことを決めたようなものだ。それぞれに趣があり、意外な展開や発見があった。
思わぬ出会いの三国川ダム
観光客でにぎわうロックフィルダム
旅の2日目、日本三大渓谷の一つ・清津峡を見学した後に、次なる絶景スポットを求めて我々は三国川ダムへと車を走らせた。JR六日町駅の手前で魚野川を渡り、坂戸山をぐるっと回り込みながら東進する。途中には「五十沢温泉ゆもとかん」なる旅館があって立ち寄り入浴も可能だったが時間的な都合でパス。またいつかね。
やがて遠くに巨大な建造物の一部が見えてくると、ほどなくして道が二股に分かれた。どっち? どっちどっち?…ダム見学には左を行こう。最終的にはどちらも同じ道=ダムによってできた「しゃくなげ湖」を一周する湖岸道路である。
左の道のくねくねカーブの坂を上がっていくと、大型観光バスも止まるような、ダム見学者用の駐車場がある。けっこう観光地化していて、団体客を乗せた観光バスが次々と坂を上がってくるし、わりと人がうろうろしている。
おびただしい数のカメムシとハンミョウに占拠された通路を経て展望台の屋上へ。ダムを見下ろした光景がこれ。三国川ダムは「ロックフィルダム」という種類のダムで、粘土を盛った上に付近で採れた石を積み上げて造られている。
展望台を下りて、しゃくなげ湖方面を撮影。右側に見える人工的な三角状のところが石を採った跡地。
ダムの内部に潜入!
ちょっとした展示やビデオ上映がある管理事務所の方へ行くと、ちょうど内部見学ツアーが出発するところだった。この機会逃すまじ。ギリギリのすべり込みで集団に混ぜてもらうことができた。管理職員さん引率のもと、展望台の内部にあるエレベータで地下へ。ダムの内部なんて初めてだ。ドキドキしてきた。
年間を通じて気温が10℃くらいに保たれた地下通路は、説明用の写真がぶら下がっていたりするものの、基本的にはエンジニアリング感満載の無骨なロマンに溢れている。フォールアウトのVaultに潜入したような気分だ(ゲームねたですいません、Vault=一種の地下シェルター)。いいよいいよー。
ある程度進んだところで終点のT字路に到着。ここから先は一般人の立ち入りが禁止となり、かたや下っていく階段、かたや果てしない上り階段。こんなの上りたくねー。
いったんエレベータまで引き返し、別の通路を行くと、「ゲート」と呼ばれる水の流量を調節する装置があった。うわあ、どうみてもVaultです。
ゲートから誘導された水が出ていく水路の始まりが見学の終点。水路はこの先の発電所につながっていて、流れる水は発電に使われるそうだ。三国川ダムの目的は治水・水道水供給・農業その他の用水供給・発電の4つだと聞いた。
十字峡という見どころもあり
以上で見学終了。ダムを離れて湖岸道路を先へ進むと、十字峡なる渓谷を望む駐車場がある。そこから渓谷沿いに延びる遊歩道は、残念ながら落石危険で立入禁止になっていたが、駐車場からでもこれくらいの景色は楽しめる。湖岸道路を一周して二股分かれの近くまで戻ってきた。ちょっとした公園があったので、最後に三国川ダムの勇姿を目に焼き付けた。
雨の黒又川第一ダム
山奥の静かな重力式ダム
旅の3日目、大粒の雨が叩きつける中、小出からJR只見線と並走する国道252号を行く。途中の越後広瀬駅は「男はつらいよ 奮闘編」(シリーズ第7作)の冒頭で出てきた、集団就職の旅立ちシーンのロケ地である。だからって立ち寄ったわけじゃないが。道の駅がある入広瀬の少し先から県道500号へ。沿道の畑が途切れると民家も何もない完全なる山の中。おそらくダム関係者しか通らないであろう。
やがて黒又川第一ダムが姿を見せ始めた。道路が山に沿って細かくカーブしているため、見た目の距離感以上に実際の道のりは遠い。
ダムに着いてみると、観光面は特に整備されておらず、駐車場も管理事務所も案内板もトイレもない。人もいない。とりあえずダム湖を撮影する。
ダムの壁を横から見たところ。この馴染みある形状は「重力式ダム」に分類されるらしい。
観光には対応していない
と、その時、声をかけられた。当初は気づかなかったけど、近くにダム関係の方がいたらしい。教えていただいたところによると、このダムはふだんは無人で遠隔操作によって運用されているそうだ。そういうわけなので、ダムカード目当ての観光客がポロポロやって来るようだけど、残念ながら期待には添えない。運転に習熟したダム関係者が通る前提の道路はカーブや落石など要注意ポイントだらけだし、さあどうぞ行ってみてねとは言えない。
もっと上流には黒又川第二ダムもあるが、聞いた話だと道はさらに難しく危険になる。行かないほうがいい。基本的に無人で携帯の電波も怪しいから、困ったことが起きても助けてもらえない。運転を誤って湖にドボンしかねない上、そうなっても気づいてもらうことすらできない。行方知れずのまま永遠にダムの底。
ひええええ。我々はもちろんおとなしく引き返した。
メジャーな観光地の奥只見ダム
ワイルドなトンネルが続くシルバーライン
旅の最終日はすっかり晴れて、まさに奥只見観光日和。栃尾又温泉・宝巌堂をチェックアウトして少しだけ小出方面に戻ってからシルバーラインに入る。シルバーラインはかつての奥只見ダム工事用道路を一般供用した県道だ。二輪車の通行不可。とにかくひたすらトンネルが続く。全長22キロのうち18キロがトンネルだという。しかもトンネルの壁が整ってなくてゴツゴツした岩がむき出しになってるような区間もあるし、漏水かなにかで路面が濡れていた。ワイルドすぎる。
40~50分で終点の奥只見ダムに到着。紅葉シーズンの週末だったから駐車待ち渋滞があったら嫌だなと思ったけど、朝10時前なら大丈夫だった。
奥只見湖の遊覧船で紅葉見学
着いてまず最初に目指したのが奥只見湖の遊覧船のりば。船の後ろ半分がちらっと目に入る。ほう、2階建てにルーフか、けっこう大きいな。箱根の芦ノ湖にあってもおかしくなさそうな。…違った。あれは奥只見ダムから銀山平というところまで行く、団体ツアー客が大挙して乗るやつだった。我々の乗る奥只見湖周遊コースはこっちの船。全然違うぞ。
とにかく乗り込んで出航。紅葉は始まっていたとはいえ錦秋と呼ぶにはまだ早い。翌週に来た人たちはバッチリだったんだろうなあ。
それでも十分といえば十分。秘境感を醸し出す山々と表面を覆うまだらな紅葉、どこまでも奥がありそうな湖面の取り合わせは見事であった。その中を軽やかに進む船の疾走感が小気味よい。思わずタイタニックごっこを…するわけない。そんな場所もないし。場所があってもしないし。
ダムカードをもらえる奥只見電力館
こうして遊覧船は一周30分で終了(春~夏は40分コースになる)。続いて向かったのが奥只見電力館なる資料館。高台に位置するため、ダムを上から目線で見ることができる。このつくりは重力式ダムですな。電力館の建物はこんな感じ。中でダムカードをもらえるようだ。
いろいろな展示がある中で最も人気だったのが、自転車を漕いでどれくらい発電できるかを競う体験コーナー。我こそはと挑戦する客が群がっていて近寄れず。2階へ上がると、ちょっとした展望室のようになっていた。ここからもダムをじっくり観察することができる。双眼鏡あり。
迫力あるダムの落差
電力館を出て、最後にダムの上を歩いてみた。湖側は遊覧船を含めてたくさん見たから渓谷側に比重をおいて鑑賞する。スマホを落っことしそうな恐怖を感じても谷底を撮らずにいられないのが俗人の性。その谷底には川に沿って道が付けられていた。あんなところまで行けるのか。入口らしき場所は見当たらなかったが…いや、ああいう地点まで一般人が行けるダムは見たことないし、関係者専用の作業路だろう。
最後の最後に奥只見ダムの勇姿を。秘境の中に突如現れた巨大ダムという雰囲気がいい(このさい人の多さは無視しよう)。
ダムを直接訪問したわけじゃないからノーカウントにしたが、旅の初日には湯沢町の田代ロープウェーに乗って二居ダムを見下ろしている。1日1箇所ずつ4つのダムを見物したわけだ。しかしこれだけは言える。自分はダムマニアではない。
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