かねてより「いつか手を広げなければ」と思っていた西日本の温泉へ、夏の終わりにようやく訪れる機会があった。その1泊目は由布院温泉。
昼に立ち寄り入浴を1箇所と、宿泊先の旅館のお風呂、この2つで由布院温泉は完結する予定だった。しかし旅のメンバーと話すうちに「あと1つ行ってみようか」という流れになったのである。
そうして選んだのが共同湯の「下ん湯」。旅館の夕食を終えた後に歩いて行ってみた。もとより観光客向けではなく、金鱗湖のほとりにひっそりと佇む、地元民の集う小さな施設だと承知の上だったが、実際その通りだった。
由布院の夜は早い。湯の坪街道沿いのお店はもうすべて閉まっており、人の姿はまったくない。あたりはシーンと静まり返っている。ただし車が通り過ぎる頻度は案外多かった気がする。
ここで問題発生。履き慣れない下駄を履いたせいで鼻緒ずれを起こしてしまった。足の人差し指の皮膚がすりむけて痛い。これはやばい。温泉の力でなんとか治らないだろうか。痛みをこらえながら下ん湯までの約10分が長く感じられた。
到着直前に下ん湯とは別の共同湯を発見。「一般の人は入れない」だか「旅館の客は入れない」だかと書いてある。建物と雰囲気がかなりディープな印象だ。後日の調べによると堂本の湯というらしいが、とりあえずスルーして下ん湯へ。
ゴクリ…では参ろうか。扉の前に立つポールに料金200円を投入し、扉を開けていざ入場。
正直いって誰もいないのではないかと思っていた。地元の皆さんもとっくに、ひとっ風呂浴びて晩ごはんも終わって、NHKを見ながらチコちゃんに叱られている頃だろうと。現実は違った。数名の方がいた。粗相のないように慎重に行動する。
下ん湯は昔ながらの風情を残す素朴な湯小屋で、脱衣室なんてものはない。内湯浴槽の脇の壁沿いに設けられた棚が脱衣コーナーだ。別の壁には分析書が貼ってあり、「単純温泉、弱アルカリ性、低張性、高温泉」とあった。
内湯といっても四方の壁のうち一方が大きく開いており、半露天みたいなものだ。そして開いた側のすぐ外に露天浴槽が隣接している。だから屋内側にあるのが内湯、一応外にあるのが露天、という程度の違い。
自由に加水できなくもない感じだったが、よそ者がご当地ルールを破るのは極力避けたい。出たり入ったりを繰り返しながらの入浴となった。温度以外の特徴は無色透明・無臭・泡付きなし・湯の花もなかったはず。
露天でも眺望があるわけではないし夜だからなおさらね。視覚面よりも、地元客同士の会話とか虫の音とか、聴覚面で情緒が感じられる場所だった。
熱いから鼻緒ずれの傷がなおさらしみる。でも頑張ってお湯につけていたらだいぶ落ち着いてきた。さすが温泉の力。うんそうだ、そうだそうに違いない。
最後に少しだけ内湯へ入ってみた。5~6名規模のサイズ。熱めだけど露天よりも若干ぬるくて入りやすかった。見ると結構な勢いで加水されていたからそのおかげか。下ん湯に洗い場はなく、地元客は内湯の脇の床にぺたんと座り込んで、持ち込みの石鹸で洗ってから内湯をすくって流していた。まあそうなるね。
それはさておき、モダンでおしゃれな旅館や温泉施設が少なくない由布院で、もし昔ながらの雰囲気を色濃く残すレトロな温泉を望むなら、地元の方の邪魔にならないよう配慮しつつ下ん湯にトライしてみてもいいだろう。行くなら夜や早朝のほうが静かに楽しめると思う。
電柱を地中化できればもっといい感じになるのになあ。でも同行メンバーによると、海外からきた客にとって電柱と電線は日本特有のエキゾチックアイテムなんだそうだ。じゃあしょうがないね。見たところ観光客の過半が韓国系であった。
湯の坪街道の終点へ着く前に一本南の川端の通りへ移動しておき、さらに奥へ奥へと進むと、由布院御三家で知られる高級旅館・亀の井別荘をかすめて金鱗湖へ出る。
はっきりいって湖というより池の広さ。もともと「岳ん下ん池」と呼ばれていたという立て札もあるし、金鱗湖とは愛称であって本来的には池なんだろう。コイヤフナが泳ぎ、ガチョウっぽいのもいる。
由布院には温泉目当てで来たから、観光はこのあたりをサクッと見ただけで終わってしまったけど、自分はそれでいいと思っている。
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昼に立ち寄り入浴を1箇所と、宿泊先の旅館のお風呂、この2つで由布院温泉は完結する予定だった。しかし旅のメンバーと話すうちに「あと1つ行ってみようか」という流れになったのである。
そうして選んだのが共同湯の「下ん湯」。旅館の夕食を終えた後に歩いて行ってみた。もとより観光客向けではなく、金鱗湖のほとりにひっそりと佇む、地元民の集う小さな施設だと承知の上だったが、実際その通りだった。
由布院温泉・下ん湯への道
由布院を代表する観光スポットといえば金鱗湖。下ん湯はその金鱗湖のすぐそばにある。我々は宿泊先の御宿なか屋で夕食を終えた後、浴衣姿に下駄の格好で、すっかり暗くなった湯の坪街道を歩き出した。由布院の夜は早い。湯の坪街道沿いのお店はもうすべて閉まっており、人の姿はまったくない。あたりはシーンと静まり返っている。ただし車が通り過ぎる頻度は案外多かった気がする。
ここで問題発生。履き慣れない下駄を履いたせいで鼻緒ずれを起こしてしまった。足の人差し指の皮膚がすりむけて痛い。これはやばい。温泉の力でなんとか治らないだろうか。痛みをこらえながら下ん湯までの約10分が長く感じられた。
到着直前に下ん湯とは別の共同湯を発見。「一般の人は入れない」だか「旅館の客は入れない」だかと書いてある。建物と雰囲気がかなりディープな印象だ。後日の調べによると堂本の湯というらしいが、とりあえずスルーして下ん湯へ。
夜の下ん湯を体験
小ぢんまりとした素朴なお風呂場
暗闇の中で電球の光に照らされた下ん湯の扉が現れた。相変わらずあたりは静寂に包まれ、旅行の浮かれ気分とは対照的なムードが支配していた。ゴクリ…では参ろうか。扉の前に立つポールに料金200円を投入し、扉を開けていざ入場。
正直いって誰もいないのではないかと思っていた。地元の皆さんもとっくに、ひとっ風呂浴びて晩ごはんも終わって、NHKを見ながらチコちゃんに叱られている頃だろうと。現実は違った。数名の方がいた。粗相のないように慎重に行動する。
下ん湯は昔ながらの風情を残す素朴な湯小屋で、脱衣室なんてものはない。内湯浴槽の脇の壁沿いに設けられた棚が脱衣コーナーだ。別の壁には分析書が貼ってあり、「単純温泉、弱アルカリ性、低張性、高温泉」とあった。
内湯といっても四方の壁のうち一方が大きく開いており、半露天みたいなものだ。そして開いた側のすぐ外に露天浴槽が隣接している。だから屋内側にあるのが内湯、一応外にあるのが露天、という程度の違い。
熱めの露天風呂で傷を癒やす
限られた時間でメリハリを付けるためにいきなり露天風呂へ。10名規模のサイズだが横に細長く、全員が横並びで入る形になろう。肝心のお湯は…あちい。ぬる湯好きにはちと厳しい熱さだ。自由に加水できなくもない感じだったが、よそ者がご当地ルールを破るのは極力避けたい。出たり入ったりを繰り返しながらの入浴となった。温度以外の特徴は無色透明・無臭・泡付きなし・湯の花もなかったはず。
露天でも眺望があるわけではないし夜だからなおさらね。視覚面よりも、地元客同士の会話とか虫の音とか、聴覚面で情緒が感じられる場所だった。
熱いから鼻緒ずれの傷がなおさらしみる。でも頑張ってお湯につけていたらだいぶ落ち着いてきた。さすが温泉の力。うんそうだ、そうだそうに違いない。
最後に少しだけ内湯へ入ってみた。5~6名規模のサイズ。熱めだけど露天よりも若干ぬるくて入りやすかった。見ると結構な勢いで加水されていたからそのおかげか。下ん湯に洗い場はなく、地元客は内湯の脇の床にぺたんと座り込んで、持ち込みの石鹸で洗ってから内湯をすくって流していた。まあそうなるね。
ある意味でオープンな共同湯
あえて触れなかったが下ん湯は混浴である。体験した印象だと御婦人が入るには相当な度胸がいる。目隠しされた脱衣所があるわけじゃないし、この手の共同湯にタオル巻きで入っていいはずもなく、しかもつねに誰か男性がいると思ったほうがいい。露天側は植え込みのすぐ向こうが観光客の行き交う湖畔通りだし。それはさておき、モダンでおしゃれな旅館や温泉施設が少なくない由布院で、もし昔ながらの雰囲気を色濃く残すレトロな温泉を望むなら、地元の方の邪魔にならないよう配慮しつつ下ん湯にトライしてみてもいいだろう。行くなら夜や早朝のほうが静かに楽しめると思う。
おまけ:湯の坪街道と金鱗湖の観光
由布院と言えば湯の坪街道と金鱗湖。JR由布院駅から10分弱の白滝橋が湯の坪街道の起点。道の両脇にお土産やスイーツの店が立ち並ぶ。正面に見える由布岳がカッコいい。電柱を地中化できればもっといい感じになるのになあ。でも同行メンバーによると、海外からきた客にとって電柱と電線は日本特有のエキゾチックアイテムなんだそうだ。じゃあしょうがないね。見たところ観光客の過半が韓国系であった。
湯の坪街道の終点へ着く前に一本南の川端の通りへ移動しておき、さらに奥へ奥へと進むと、由布院御三家で知られる高級旅館・亀の井別荘をかすめて金鱗湖へ出る。
はっきりいって湖というより池の広さ。もともと「岳ん下ん池」と呼ばれていたという立て札もあるし、金鱗湖とは愛称であって本来的には池なんだろう。コイヤフナが泳ぎ、ガチョウっぽいのもいる。
由布院には温泉目当てで来たから、観光はこのあたりをサクッと見ただけで終わってしまったけど、自分はそれでいいと思っている。
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