長野県と新潟県にまたがる秘境・秋山郷。鳥甲山と苗場山に挟まれた中津川沿いの地域に平家の落人伝説が残る集落が点在する。戸隠・野沢温泉への夏のグループ旅行にて、「秋山郷へも行ってみたい」との追加要望を受けて、この秘境をたずねることになったのである。
何箇所かある温泉地の中から選んだ宿泊先は、車で行ける最奥地点の切明温泉「切明リバーサイドハウス」。河原に温泉が湧くのを実感できる土地だ。
しかしそこは秘境、楽にたどり着かせてはもらえない。泣きたくなるような国道ならぬ酷道を延々と走らねばならない。いやーまいった。あそこまで苦労して、一晩泊まってすぐとんぼ返りなんて、なんか悔しいな。仕方ないけども。
もうひとつは十日町や飯山から国道117号で津南町まで行き、国道405号を南下するルート。我々は前泊地の野沢温泉・さかや旅館を出発して途中寄り道をしながらこちらのルートを進んだ。
この国道405号てのがえらい酷道だった。少なくとも自分の運転では絶対に乗り切れない。運転歴の長いメンバーにドライバー役を交代してもらうしかなかった。
そこで谷側を恐れて山側にへばりついて走ると、今度は路肩付近に転がる小さな落石を踏んづけてタイヤをパンクさせる危険がある。こんな道で立ち往生したらどうやってレスキューすんの?…想像したくもない事態だ。
それでいて対向車がそこそこ来る。たまにある待避所をうまく使うか、技術と度胸でクリアするか、もう泣きたくなるレベルの連続。や゛ーめ゛ーて゛ー。
その代わりと言っちゃなんだが、渓谷や鳥甲山の景観がすばらしい。ところどころむき出し感のある山肌が迫力満点。下の写真は帰りの車中から撮ったものだけど感動を全然伝え切れていないな。
道の途中にはたまに開けたところがあって、小赤沢温泉とか屋敷温泉とか、いくつかの温泉名が見られた。そんな国道をひたすら奥へ奥へ、最後にたどり着いたのが切明温泉であった。もし微妙な分かれ道で迷ったら当宿の看板が示すほうを選択すべし。
車で行けるのはここまで。切明から先の国道409号は登山道になってしまう。山を越えて群馬県側に入った野反湖あたりからまた車道が復活するようだ。なんとまあ。こりゃとんでもない秘境だわ。
最後に雑魚側林道へ続く橋の手前を折れて、急な下り坂&急カーブをクリアすると、ついに切明リバーサイドハウスへ到着。お疲れさーん。
さっそくチェックイン。おや、猫がいるぞ…と思ったら人形だった。よくできている。ちなみに本物の猫もいる。朝の風呂場近くで人形と似たやつに出会ったけどスマホを持ってなくて撮れなかった。
我ら一行が案内された部屋は2階の12畳和室。道中の疲れか、部屋に入るなりめいめいが好き勝手な場所でくつろぎ始めちゃって、いいアングルの写真を撮れなかった。
洗面・トイレ付き。ひと通りのものはあって快適性に問題はない。窓の外には河原が見える。風が気持ちよかろうと窓を開け放ちたくなるも、「開けないでください。多量の虫が侵入してきます」との注意書きあり。やめておこう。
自分のスマホは圏外。ただしフロントにWiFiの案内が掲示されている(チェックアウトの時に気づいた…とほほ)。各部屋でWiFiがOKかどうかは不明。ロビー付近のみってところは多いからね。
あと、部屋の灯りはリモコン方式だった。寝る前に消灯しようとしたらリモコンがきかない…。電気関連に強いメンバーによれば電池が切れそうだからじゃないかとのこと。手動の普通のスイッチがどこにも見当たらなくて「これじゃ消灯できない」と焦ったところ、部屋の外側にスイッチがあった。ちょっと変わったつくりだった。
この小屋のドアを開けたら虫の侵入を防ぐために速攻で閉めなければならない。下手するとアブや蜂が入ってくるからな。飛んで小屋に入る夏の虫。壁の分析書には「カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。
ここには洗い場がない。十二分にかけ湯をしていざ入湯。
お湯の見た目は無色透明。肌に目立つ泡付きがあるわけではないが、湯の中には細かい泡っぽいものがたくさん見える。なんだろう、湯の花とかじゃないよなー。湯の花に関しては、細長い茶色の昆布みたいなものが漂っているのがわかる。
お湯をすくって鼻を近づけると、この泉質にありがちな独特の匂いを感知した。温度は適温で入りやすい。いいですねー。川は近いがリバービューというほどの眺望はない。でも気持ちのよい、いい露天風呂だった。入ったのは夕方の1回だけで、夜や朝はサンダルの様子から、誰かが利用中だったので遠慮した。やっぱり人気あるね。
浴室内にカランは7つ。奥に5名規模の浴槽。宿の規模からしてサイズは十分だろう。お湯の特徴は露天風呂とだいたい同じ。やっぱり適温で入りやすい。泡みたいなものと湯の花は少なくて目立たなかった。
独占状態になることが多く、ゆっくり長く入っていられるのはよい。窓の下半分はすりガラスになっていて、湯につかると外が見えないのは残念だが、逆に向こうから中が丸見えになっちゃうからしょうがないね(窓の外は一応の立入禁止エリアとなっている河原)。
景色はともかくお湯そのものは、秘境の荒々しさを感じさせるというよりは、ホッとする系の落ち着く温泉だ。
派手さはないけど秋山郷の雰囲気にあっているからこれでよい。この地でマグロだのステーキだのは無粋ってもんだ。大人向けの味だからファミリーで来たらお子様がどう反応するかという気はするが、個人的には文句なし・満足。
そして写真の見た目以上に量が多い。あやうく途中でギブアップするレベル。山菜だからとなめちゃいけないね。ここまでお腹が苦しくなるとは思っても見なかった。なかなかやってくれますな。
野沢温泉でも出された、じゃがいものなますが結構いける。最初はシャキシャキした歯ごたえで後からじゃがいもの風味がやって来る。これいいかも。
“私これいらない”的な他者のおかずを引き受けていたら本当にお腹が苦しくなってきた。朝からパンパンですよ。でも後述の通り、昼もしっかり食べてしまったが。
まあいい。今回だけでも十分すぎるほどに強烈な印象を刻みつけられた。そう簡単に忘れることはないだろう。
余談になるが、帰りは塩沢石打へ出て関越道を利用した。インター入る前に1箇所だけ観光+昼食をという話になり、「それならワタクシにあてがあります」と、思い出の雲洞庵とお米が自慢の食事処・鹿小屋へ一行を案内したのであった。これで3回目のリピート。あのへんに行くとつい寄ってしまうな。
看板に従って林の中の道へ。しばらく行くと河原に出る。
写真右の大岩のあたり、積んだ石で囲いを作っているように見えないだろうか。過去に誰かが作った露天風呂の跡だ。近くへ寄っていくとこんな感じ。すでに川の水がだいぶ混じって冷めきっていた。
ほかにも川のあちこちでプクプクと湧き上がる様子が見えるし、それっぽい水たまりに指を入れると生ぬるい。先の大岩を越えた向こうにも石で円形に囲んだ残骸らしき箇所が。
我々は見ただけですぐ帰ったが、もし入湯体験するなら宿などでスコップを調達すべし。素手では厳しい。また周囲は脱衣所もなにもないから、そのつもりでどうぞ。
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何箇所かある温泉地の中から選んだ宿泊先は、車で行ける最奥地点の切明温泉「切明リバーサイドハウス」。河原に温泉が湧くのを実感できる土地だ。
しかしそこは秘境、楽にたどり着かせてはもらえない。泣きたくなるような国道ならぬ酷道を延々と走らねばならない。いやーまいった。あそこまで苦労して、一晩泊まってすぐとんぼ返りなんて、なんか悔しいな。仕方ないけども。
切明リバーサイドハウスへのアクセス
秘境へ向かう酷道
切明リバーサイドハウスへの道は2通りある。ひとつは志賀高原から奥志賀公園線という林道を行き、途中で分岐する雑魚川林道を進むルート。今回は通らなかったのでどんな状態かは不明だが、まあ狭くて大変な道だと思う。もうひとつは十日町や飯山から国道117号で津南町まで行き、国道405号を南下するルート。我々は前泊地の野沢温泉・さかや旅館を出発して途中寄り道をしながらこちらのルートを進んだ。
この国道405号てのがえらい酷道だった。少なくとも自分の運転では絶対に乗り切れない。運転歴の長いメンバーにドライバー役を交代してもらうしかなかった。
容赦ない難所続き
なにしろ秋山郷の看板が出てきたあたりから急に道が狭くなる。1.5車線あったりなかったり。カーブは急だし傾斜もきつい。中津川渓谷の断崖絶壁にへばりつくように作られた道路は、ガードレールがないような箇所もあり、うっかりすると深い谷底へさよなら、って感じ。そこで谷側を恐れて山側にへばりついて走ると、今度は路肩付近に転がる小さな落石を踏んづけてタイヤをパンクさせる危険がある。こんな道で立ち往生したらどうやってレスキューすんの?…想像したくもない事態だ。
それでいて対向車がそこそこ来る。たまにある待避所をうまく使うか、技術と度胸でクリアするか、もう泣きたくなるレベルの連続。や゛ーめ゛ーて゛ー。
すんごいところへ来ちゃったなあ…
道路の状態で言えば、前の月に行った米沢の姥湯温泉に比べたらまだましかもしれないが、難しい区間が25kmほども続くという距離の長さが堪える。アドレナリンどばどばの時間が60分続くと思ったほうがいい。その代わりと言っちゃなんだが、渓谷や鳥甲山の景観がすばらしい。ところどころむき出し感のある山肌が迫力満点。下の写真は帰りの車中から撮ったものだけど感動を全然伝え切れていないな。
道の途中にはたまに開けたところがあって、小赤沢温泉とか屋敷温泉とか、いくつかの温泉名が見られた。そんな国道をひたすら奥へ奥へ、最後にたどり着いたのが切明温泉であった。もし微妙な分かれ道で迷ったら当宿の看板が示すほうを選択すべし。
車で行けるのはここまで。切明から先の国道409号は登山道になってしまう。山を越えて群馬県側に入った野反湖あたりからまた車道が復活するようだ。なんとまあ。こりゃとんでもない秘境だわ。
最後に雑魚側林道へ続く橋の手前を折れて、急な下り坂&急カーブをクリアすると、ついに切明リバーサイドハウスへ到着。お疲れさーん。
山の洋館風な宿
河原のそばにある部屋
車を降りると、山奥の川沿いらしく羽のある虫がいっぱい飛んでいた。とんぼとか蜂とか。そんな環境に佇む当宿の建物は洋風で、ちょっといいロッジのような雰囲気もある。さっそくチェックイン。おや、猫がいるぞ…と思ったら人形だった。よくできている。ちなみに本物の猫もいる。朝の風呂場近くで人形と似たやつに出会ったけどスマホを持ってなくて撮れなかった。
我ら一行が案内された部屋は2階の12畳和室。道中の疲れか、部屋に入るなりめいめいが好き勝手な場所でくつろぎ始めちゃって、いいアングルの写真を撮れなかった。
洗面・トイレ付き。ひと通りのものはあって快適性に問題はない。窓の外には河原が見える。風が気持ちよかろうと窓を開け放ちたくなるも、「開けないでください。多量の虫が侵入してきます」との注意書きあり。やめておこう。
携帯は圏外覚悟で
外へ散歩に出た際に撮ったものだが窓から見える景色は下のような感じ。自分のスマホは圏外。ただしフロントにWiFiの案内が掲示されている(チェックアウトの時に気づいた…とほほ)。各部屋でWiFiがOKかどうかは不明。ロビー付近のみってところは多いからね。
あと、部屋の灯りはリモコン方式だった。寝る前に消灯しようとしたらリモコンがきかない…。電気関連に強いメンバーによれば電池が切れそうだからじゃないかとのこと。手動の普通のスイッチがどこにも見当たらなくて「これじゃ消灯できない」と焦ったところ、部屋の外側にスイッチがあった。ちょっと変わったつくりだった。
リバーサイドな秘湯を楽しもう
露天風呂の脱衣所は出入りに注意
切明リバーサイドハウスの大浴場は1階の奥にある。男女別の内湯と混浴の露天風呂がひとつ。まず最初に露天風呂へ。いったんサンダルに履き替えて屋外へ出たら20歩ほどですぐ露天風呂の入口があり、浴槽を突っ切った奥に脱衣所の小屋があった。この小屋のドアを開けたら虫の侵入を防ぐために速攻で閉めなければならない。下手するとアブや蜂が入ってくるからな。飛んで小屋に入る夏の虫。壁の分析書には「カルシウム・ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」とあった。
ここには洗い場がない。十二分にかけ湯をしていざ入湯。
ただの透明なお湯ではない、気持ちの良い露天風呂
8~10名規模の円形の岩風呂の中央には大きな岩が配され、お湯につかれる領域がドーナツ状になっている。注意すべきは、出入口に近いほうが急激に浅くなっていることだ。浴槽内で深さの変化を考えずに足を運んでいると、想定外の着地点にバランスを乱してすっ転びそうになるから(ていうか、すっ転んだ者が約1名)気をつけよう。お湯の見た目は無色透明。肌に目立つ泡付きがあるわけではないが、湯の中には細かい泡っぽいものがたくさん見える。なんだろう、湯の花とかじゃないよなー。湯の花に関しては、細長い茶色の昆布みたいなものが漂っているのがわかる。
お湯をすくって鼻を近づけると、この泉質にありがちな独特の匂いを感知した。温度は適温で入りやすい。いいですねー。川は近いがリバービューというほどの眺望はない。でも気持ちのよい、いい露天風呂だった。入ったのは夕方の1回だけで、夜や朝はサンダルの様子から、誰かが利用中だったので遠慮した。やっぱり人気あるね。
小ぎれいでゆっくりできる内湯
夜と翌朝は内湯へ。秘湯といっても小ぎれいなつくりである。脱衣所で分析書を確認すると露天のほうだけ加温しているみたい。でも基本的に100%源泉かけ流し。浴室内にカランは7つ。奥に5名規模の浴槽。宿の規模からしてサイズは十分だろう。お湯の特徴は露天風呂とだいたい同じ。やっぱり適温で入りやすい。泡みたいなものと湯の花は少なくて目立たなかった。
独占状態になることが多く、ゆっくり長く入っていられるのはよい。窓の下半分はすりガラスになっていて、湯につかると外が見えないのは残念だが、逆に向こうから中が丸見えになっちゃうからしょうがないね(窓の外は一応の立入禁止エリアとなっている河原)。
景色はともかくお湯そのものは、秘境の荒々しさを感じさせるというよりは、ホッとする系の落ち着く温泉だ。
十分すぎるほど十分なお食事
大人向けの味がたっぷりの夕食
切明リバーサイドハウスの食事は朝夕とも1階食堂で。夕食は山菜を中心に、ヤマメ、馬刺し、そば、豚鍋など。葉っぱの天ぷらってのも趣がある。もちろん最後にご飯がつく。派手さはないけど秋山郷の雰囲気にあっているからこれでよい。この地でマグロだのステーキだのは無粋ってもんだ。大人向けの味だからファミリーで来たらお子様がどう反応するかという気はするが、個人的には文句なし・満足。
そして写真の見た目以上に量が多い。あやうく途中でギブアップするレベル。山菜だからとなめちゃいけないね。ここまでお腹が苦しくなるとは思っても見なかった。なかなかやってくれますな。
朝もたっぷりでお腹いっぱい
朝食も品数豊富。小鉢だからと馬鹿にはできず、すぐお腹いっぱいになる。ふき味噌っていうの? ちょっと苦味のあるやつ、ご飯にあうね。野沢温泉でも出された、じゃがいものなますが結構いける。最初はシャキシャキした歯ごたえで後からじゃがいもの風味がやって来る。これいいかも。
“私これいらない”的な他者のおかずを引き受けていたら本当にお腹が苦しくなってきた。朝からパンパンですよ。でも後述の通り、昼もしっかり食べてしまったが。
強烈な印象を残して
冷静に考えれば、秋山郷内ではろくに観光もせず、夕方来て泊まって朝帰っただけだから、なかなか来られないこの秘境を十分堪能したとは言えないかもしれない。もっとあちこち見てまわるべきだったか。でも車でスムーズに移動できる自信がない。まあいい。今回だけでも十分すぎるほどに強烈な印象を刻みつけられた。そう簡単に忘れることはないだろう。
余談になるが、帰りは塩沢石打へ出て関越道を利用した。インター入る前に1箇所だけ観光+昼食をという話になり、「それならワタクシにあてがあります」と、思い出の雲洞庵とお米が自慢の食事処・鹿小屋へ一行を案内したのであった。これで3回目のリピート。あのへんに行くとつい寄ってしまうな。
おまけ:露天風呂を自作する「河原の湯」
切明に手掘りの露天風呂を楽しめる「河原の湯」という野湯がある。当宿から歩いて数分。まずは吊り橋を渡る。看板に従って林の中の道へ。しばらく行くと河原に出る。
写真右の大岩のあたり、積んだ石で囲いを作っているように見えないだろうか。過去に誰かが作った露天風呂の跡だ。近くへ寄っていくとこんな感じ。すでに川の水がだいぶ混じって冷めきっていた。
ほかにも川のあちこちでプクプクと湧き上がる様子が見えるし、それっぽい水たまりに指を入れると生ぬるい。先の大岩を越えた向こうにも石で円形に囲んだ残骸らしき箇所が。
我々は見ただけですぐ帰ったが、もし入湯体験するなら宿などでスコップを調達すべし。素手では厳しい。また周囲は脱衣所もなにもないから、そのつもりでどうぞ。
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