有乳湯と書いて“うちゆ”と読む。そんな名前の共同浴場が長野県青木村の田沢温泉にあった。地元民が通う小さな浴場だから露天風呂はなく、内湯が一つのみ。うん、たしかに名前の通りだ。
事前のリサーチにより、ここは自分好みで大いに期待できると思われた。源泉かけ流し、ぬるめ、タマゴ臭、そして豊富な泡付き。こいつはパーフェクト。ロボコン100点って感じ(なんのこっちゃ)。
お湯のあまりのすばらしさゆえに人気が高く、実際行ったときも結構な混み具合だったのが唯一の難点か。まあ自分こそがヨソからやって来て混雑に一層拍車をかけている張本人なわけだが。
富士屋にはもちろん温泉大浴場があり、なかなかのものだけど、朝9時になると清掃のため閉まってしまう。朝食を終えてからチェックアウト前に最後の入浴を楽しもうと思ってもできないわけだ。
そこに配慮してなのかどうか、富士屋では「朝9時以降に有乳湯へ行かれる方はフロントにお申し付けください。入浴券をお渡します」と案内が書かれていた。この便宜をありがたく受けることにしたのである。
フロントで有乳湯へ行く旨を告げ、入浴券を受け取った。宿の浴衣を着たまま行ってもかまわないとのことなので、浴衣にサンダル姿でぶらりと有乳湯へ向かう。細い石畳の道を1~2分。
そしてあっという間に有乳湯に着いた。唐破風の屋根がついたレトロ感あふれるデザインながら年代物ではなくまだ新しい感じがする。どうやら2000年に建て替えられたばかりらしい。
車で乗り付ける場合、入口前の駐車スペースは数台分しかない。裏側にはもう少し広い駐車場があるようだ。でも狭い石畳道をここまで来るのがひと苦労って気がする。200メートルほど手前になるが、普通の車道が石畳に変わる直前のところに無料駐車場があるから、そこに止められるならそれが一番無難な気がする。
観光施設でない共同浴場には珍しく足湯コーナーが設けてあった。手を差し入れると、うん、ぬるい。
脱衣所に入ったら一瞬ちょっと引いてしまった。あらかじめ予想していたとはいえ人が多い。脱衣カゴもほぼ埋まっている。こりゃ大丈夫かなあ。しかしここまで来たらもう後には引けない。突入するのみ。いくぞ。
浴室内もやっぱり人が多い。5名分の洗い場は、誰かが離れれば待ちかねたようにすぐ別の誰かが着くといった様子で、つねに満員御礼。ならばと丁寧にかけ湯をして湯船にゴー。たまたま湯口から一番離れたところに我々一同分の空きがあったのは幸運だった。
無色透明のお湯に特徴は見当たらない、かと思えば、よく見ると細かい気泡が乱舞していた。体の表面にも泡がどんどん付いてくるではないか。お湯の中で腕や足を少し動かすだけで、払われた無数の泡が浮かび上がってきて、ぷちぷちパチパチと弾けたようになる。アワアワ。
近頃は人工炭酸泉を備えた入浴施設が珍しくないおかげで、体中にびっしり泡が付着する光景を見たからって腰を抜かすことはないけれども、天然温泉でこのレベルは相当なものだ(こちらのは二酸化炭素の泡ではないと思われるが)。お湯が新鮮な証拠でもあるし、うれしくなってしまう。
我々は湯船から人が出るたびに少しずつ詰めていって徐々に湯口へ近づいていった。近づくにつれて心なしか泡付きも増している気がする。そうして、時おり誰かが立ち上がっては湯口の前で中腰になり、勢いよく投入される源泉をごくごくと飲むのだった。いかにも効きそうだもんね。子宝の湯とも呼ばれるくらいだし。
脱衣所で服を着ているときも後から後から人がやって来る。すんごいな。ずっとこんな調子なのかね。「今日は混んでるなー」という地元のおじさん達の会話が耳に入ったから、この日の朝は特に混んでいたのかもしれない。
田沢温泉自体はいい具合に鄙びた、人通りの少ない静かな里だ。でもここ有乳湯がある限り、すっかり寂れてしまうことはないだろう、そう思わせるに十分な共同浴場だった。
拝観料300円を払って中に入ると目の前にあるのが観音堂。十一面観音像が安置されている。
観音堂の脇から三重塔を見上げる。このアングルがなかなかいい。
正面から。見返りの塔と呼ばれる美しさだそうだ。なるほどたしかに。こんな急坂の果てのところによく建てたもんだ。
アマチュアカメラマンぽい一人のおじさんが三脚を立ててパシャパシャ撮りまくっていた。あの位置からだといい絵が撮れるのに違いない。真似して同じようなアングルから撮ってみた。
クマンバチが多いのは気になったけど、お見事でした。ここの三重塔はいい。ぜひお立ち寄りを。
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事前のリサーチにより、ここは自分好みで大いに期待できると思われた。源泉かけ流し、ぬるめ、タマゴ臭、そして豊富な泡付き。こいつはパーフェクト。ロボコン100点って感じ(なんのこっちゃ)。
お湯のあまりのすばらしさゆえに人気が高く、実際行ったときも結構な混み具合だったのが唯一の難点か。まあ自分こそがヨソからやって来て混雑に一層拍車をかけている張本人なわけだが。
田沢温泉・有乳湯への道
朝風呂として行ってみる
今回の春のグループ旅行では信州方面を攻めることになった。滞在地の一つが田沢温泉で、富士屋という旅館に泊まった。田沢温泉は上田と松本の中間のやや上田寄りにある。我々は車で長野道の麻績ICまで行ってから山越えするという、西方からのアプローチとなったが、普通に直行するなら上田経由をおすすめする。富士屋にはもちろん温泉大浴場があり、なかなかのものだけど、朝9時になると清掃のため閉まってしまう。朝食を終えてからチェックアウト前に最後の入浴を楽しもうと思ってもできないわけだ。
そこに配慮してなのかどうか、富士屋では「朝9時以降に有乳湯へ行かれる方はフロントにお申し付けください。入浴券をお渡します」と案内が書かれていた。この便宜をありがたく受けることにしたのである。
フロントで有乳湯へ行く旨を告げ、入浴券を受け取った。宿の浴衣を着たまま行ってもかまわないとのことなので、浴衣にサンダル姿でぶらりと有乳湯へ向かう。細い石畳の道を1~2分。
温泉街の石畳をぶらぶら歩く
途中には「ますや旅館」という、千と千尋風味の年季を感じさせる木造建築があった。すごい貫禄。そしてあっという間に有乳湯に着いた。唐破風の屋根がついたレトロ感あふれるデザインながら年代物ではなくまだ新しい感じがする。どうやら2000年に建て替えられたばかりらしい。
車で乗り付ける場合、入口前の駐車スペースは数台分しかない。裏側にはもう少し広い駐車場があるようだ。でも狭い石畳道をここまで来るのがひと苦労って気がする。200メートルほど手前になるが、普通の車道が石畳に変わる直前のところに無料駐車場があるから、そこに止められるならそれが一番無難な気がする。
観光施設でない共同浴場には珍しく足湯コーナーが設けてあった。手を差し入れると、うん、ぬるい。
次々と人を引き寄せる魅惑の有乳湯
予想通りに大混雑
受付で入浴券を渡して男湯へ進む。通常は大人200円。銭湯と考えても安いし、さらには良泉のかけ流しだからなあ、すこぶるお得じゃないの。壁の分析書には「単純硫黄泉、低張性、アルカリ性、温泉」とあった。脱衣所に入ったら一瞬ちょっと引いてしまった。あらかじめ予想していたとはいえ人が多い。脱衣カゴもほぼ埋まっている。こりゃ大丈夫かなあ。しかしここまで来たらもう後には引けない。突入するのみ。いくぞ。
浴室内もやっぱり人が多い。5名分の洗い場は、誰かが離れれば待ちかねたようにすぐ別の誰かが着くといった様子で、つねに満員御礼。ならばと丁寧にかけ湯をして湯船にゴー。たまたま湯口から一番離れたところに我々一同分の空きがあったのは幸運だった。
泡だらけのぬる湯が最高
ふぅいー。いい感触だ。どこからか「やわらかいお湯ですねー」という声が聞こえてきた。噂を聞いてやって来た観光客だろう。自分も同じ感想であります。体温と同じ不感温度まではいかずとも、ほどよいぬるさがあって心地よくリラックスを誘う。無色透明のお湯に特徴は見当たらない、かと思えば、よく見ると細かい気泡が乱舞していた。体の表面にも泡がどんどん付いてくるではないか。お湯の中で腕や足を少し動かすだけで、払われた無数の泡が浮かび上がってきて、ぷちぷちパチパチと弾けたようになる。アワアワ。
近頃は人工炭酸泉を備えた入浴施設が珍しくないおかげで、体中にびっしり泡が付着する光景を見たからって腰を抜かすことはないけれども、天然温泉でこのレベルは相当なものだ(こちらのは二酸化炭素の泡ではないと思われるが)。お湯が新鮮な証拠でもあるし、うれしくなってしまう。
タマゴ臭にニンマリ
お湯の匂いを嗅いでみる。かなりはっきりしたタマゴ臭がした。この硫黄感がたまらない。うーん、すばらしい。そりゃみんな入りに来て朝から混雑するわ。8名規模の湯船には頻繁に出入りがありつつ、つねに8名がいる状態。なぜだか「動的平衡」という科学用語が浮かんできた。我々は湯船から人が出るたびに少しずつ詰めていって徐々に湯口へ近づいていった。近づくにつれて心なしか泡付きも増している気がする。そうして、時おり誰かが立ち上がっては湯口の前で中腰になり、勢いよく投入される源泉をごくごくと飲むのだった。いかにも効きそうだもんね。子宝の湯とも呼ばれるくらいだし。
田沢温泉の大黒柱
ぬるめの湯はいつまでも入っていられそうだったが、この状況でずっと場所を占め続けるのもなんだし、宿に戻ってチェックアウトしなきゃならないし、適当なところで切り上げた。いやー結構なお湯でございました。脱衣所で服を着ているときも後から後から人がやって来る。すんごいな。ずっとこんな調子なのかね。「今日は混んでるなー」という地元のおじさん達の会話が耳に入ったから、この日の朝は特に混んでいたのかもしれない。
田沢温泉自体はいい具合に鄙びた、人通りの少ない静かな里だ。でもここ有乳湯がある限り、すっかり寂れてしまうことはないだろう、そう思わせるに十分な共同浴場だった。
おまけ:国宝・大法寺三重塔をたずねて
帰りに青木村の誇る国宝・大法寺三重塔へ寄ってみた。駐車場のところにある白~ピンク~赤の鮮やかな花に目を奪われる。はなもも? よくわからんが。拝観料300円を払って中に入ると目の前にあるのが観音堂。十一面観音像が安置されている。
観音堂の脇から三重塔を見上げる。このアングルがなかなかいい。
正面から。見返りの塔と呼ばれる美しさだそうだ。なるほどたしかに。こんな急坂の果てのところによく建てたもんだ。
アマチュアカメラマンぽい一人のおじさんが三脚を立ててパシャパシャ撮りまくっていた。あの位置からだといい絵が撮れるのに違いない。真似して同じようなアングルから撮ってみた。
クマンバチが多いのは気になったけど、お見事でした。ここの三重塔はいい。ぜひお立ち寄りを。
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