長野県青木村にある田沢温泉はぬる湯の名湯として知られている。ここはネットの口コミで褒められていることが多いし、自分がもともとぬる湯好きだし、いつか行ってみたいと思わせる、気になる温泉地であった。
このたび春のグループ旅行で念願の田沢温泉を訪れる機会を得た。宿泊先は「富士屋」。枝分かれしながら入り組んだ廊下がのびる、雰囲気ある木造の館内はちょっとワクワク感がある。2本の源泉を引いた大浴場もなかなかのもの。
行った時点で桜はほぼ終わっていたが、のどかな山里の緑を眺め、夜の露天風呂では星を見ながらのんびりできて、収穫は十分にあった。
ただし終点の青木バスターミナルから田沢温泉までが遠い。村営バスがあるけど本数や運転日に注意が必要であまりあてにはできない。さもなくば30分以上歩くことになる。一応、宿へ事前にお願いしておけばバスターミナルまでの送迎をしてくれるみたい。
車の場合は関越道と上信越道を利用すれば上田まではそれほど大変じゃない。上田から青木村まで比較的整備された国道143号で30分。あとは温泉の看板にしたがって国道を外れた道を5分くらいで着く。
我ら一行は車だったが、前泊地の下諏訪温泉・旅館おくむらからのアプローチだった。その場合は中山道経由や松本~鹿教湯温泉経由のルートが候補になるけど、我々は岡谷・松本を観光しつつ、長野道麻績ICから山越えして青木村に入った。
駐車場の奥の高台には散らずにギリギリ踏みとどまっている満開の桜が見えた。このあたりでも桜が残っていたのはそれくらい。来るのが一足遅かったというか、今年は桜が早すぎる。
旅館は本館と新館からなり、我々が予約したのは新館の方(風呂や食堂まで遠いという理由で少し安い)。チェックインを済ませてまず本館の廊下を行く。昭和の温泉旅館っぽい懐かしい雰囲気がいいね。途中には「ピンポン室」の札がかかったガラス戸が。でもその向こうは単に屋外だったけど。
大浴場を横に折れて少し上り、枝分かれした廊下の一方を行くとまた少し上る。ここから新館なのかな。くねくね曲がる廊下や枝分かれに高低差、上の階へ続く階段もそこかしこにあり、初見だと迷路みたいで迷いそう。
広縁に取り付けられているのは窓というよりガラス戸。おかげで視界がパーッと開けて結構なり。のどかな山の景色や先ほどの桜がちらりと見える。天気もいいし清々しい気分になるね。
男湯にはすでに2名の先客がいた。その程度なら全然混み合ってる感じじゃない。内湯の浴室には4名分の洗い場と5~6名規模のタイル張りのメイン浴槽と2名規模のサブ浴槽。新しくはないけど古すぎずボロくもなく普通。
メイン浴槽につかってみた。お湯は無色透明。事前のリサーチ通りにぬるめだった。好みに合っていて大変よろしい。ただし、ぬる湯マニアが想像するような、36℃の不感温度とか30℃台前半というわけではない。40℃を切るくらいだと思う。
お湯に鼻を近づけるとかなりはっきりしたタマゴ臭がする。さすがの硫黄泉。ついつい気になって何度も嗅いでしまった。泡付きはないものの、なんとなくお湯が体にまとわりつく感触もある。こいつは結構なお点前だ。
夕方・夜・早朝と3回入って早朝だけやけに熱かった。その種明かしは後ほど。
サブ浴槽も基本的にはメインと同じ。隣り合っていてお湯の行き来があるし。ただしサブの方はぶくぶくとあぶくが立っていた。つまりはジャグジーね。
うーむ、熱い。熱いぞ。田沢温泉なのに熱い。しかも浴槽内に激しくお湯を噴き出す口があるみたいで、お湯の中でかなりの勢いの噴流が生じていた。こいつはかけ流しではなく循環だろう。見た目は内湯と同じく無色透明だけど匂いはないし、まとわりつきもなく水みたいにさらっとしているし、このときの第一印象のせいでずいぶん侮ってしまった。
印象が変わったのは早朝に入ったとき。このときばかりはぬるい。内湯のほうがむしろ熱くて露天がぬるい。こりゃーええわ。しかもよく見ると湯の花っぽい微粒子や糸くず状のものがフワフワ漂っている。やればできる子だった。
露天の寝湯区画は夜がすばらしく、お湯につかって寝転がりながら絶好の星見風呂を堪能した。星座のことは詳しくないけど、あれが北斗七星か、とか適当に想像しつつ。欲を言えば脇の照明灯の光が邪魔だったけど、それがないと足元が危ないからね。これ以上は望むまい。
加えて朝の露天風呂はどこからともなくホーホケキョの声が聞こえてきた。西川のりおのダミ声ではなく本物の澄んだ鳴き声だ。風流ですのう。
やがて信州サーモン年輪巻の白濁スープとお造りが出てきた。お造りは信州大王イワナと信州サーモンと桜刺し。信州自慢の食材の競演。そうこなくちゃ。
やがて温泉蒸しが完成。和牛パイ包みと蓬万頭も登場。万頭の中身はもちろんアンコじゃない。ひき肉的なものだったっけかな。
さらに天ぷらのタワーがどーん。これでとどめを刺された。あとご飯をちょろっと食べたらもうお腹パンパン。以上がスタンダードコース。十分すぎるほどだ。
朝食の後は談話室のソファで優雅にコーヒーをいただく。新聞や青木村のパンフレットに混じって、温泉協会的な団体が作った、薄いけどいかめしい温泉冊子が置いてあるのが印象に残った。
唯一注意すべきは、あの構造だと客室は相当な数に上るはずだから、もし本気で満室になるようなことがあれば、風呂も食堂も明らかにキャパオーバーだし、どうするんだろう。秋で紅葉で松茸で…の季節は最高に違いないけど客の入りがヤバそうな気もする。そこだけは悩ましいね。
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このたび春のグループ旅行で念願の田沢温泉を訪れる機会を得た。宿泊先は「富士屋」。枝分かれしながら入り組んだ廊下がのびる、雰囲気ある木造の館内はちょっとワクワク感がある。2本の源泉を引いた大浴場もなかなかのもの。
行った時点で桜はほぼ終わっていたが、のどかな山里の緑を眺め、夜の露天風呂では星を見ながらのんびりできて、収穫は十分にあった。
田沢温泉・富士屋へのアクセス
東京方面から田沢温泉へ行くには上田を経由するのがよい。鉄道旅なら上田までは新幹線であっという間、そこから路線バスが出ている。ただし終点の青木バスターミナルから田沢温泉までが遠い。村営バスがあるけど本数や運転日に注意が必要であまりあてにはできない。さもなくば30分以上歩くことになる。一応、宿へ事前にお願いしておけばバスターミナルまでの送迎をしてくれるみたい。
車の場合は関越道と上信越道を利用すれば上田まではそれほど大変じゃない。上田から青木村まで比較的整備された国道143号で30分。あとは温泉の看板にしたがって国道を外れた道を5分くらいで着く。
我ら一行は車だったが、前泊地の下諏訪温泉・旅館おくむらからのアプローチだった。その場合は中山道経由や松本~鹿教湯温泉経由のルートが候補になるけど、我々は岡谷・松本を観光しつつ、長野道麻績ICから山越えして青木村に入った。
静かな温泉街に佇む昭和レトロな旅館
迷路のような館内
富士屋は田沢温泉街の入口に位置しており、そこから先は急に石畳の狭い道になる。運転慣れしていない人が車で入っていくのは骨が折れるだろう。幸い富士屋は道が細くなる直前に駐車場があるから大丈夫。駐車場の奥の高台には散らずにギリギリ踏みとどまっている満開の桜が見えた。このあたりでも桜が残っていたのはそれくらい。来るのが一足遅かったというか、今年は桜が早すぎる。
旅館は本館と新館からなり、我々が予約したのは新館の方(風呂や食堂まで遠いという理由で少し安い)。チェックインを済ませてまず本館の廊下を行く。昭和の温泉旅館っぽい懐かしい雰囲気がいいね。途中には「ピンポン室」の札がかかったガラス戸が。でもその向こうは単に屋外だったけど。
大浴場を横に折れて少し上り、枝分かれした廊下の一方を行くとまた少し上る。ここから新館なのかな。くねくね曲がる廊下や枝分かれに高低差、上の階へ続く階段もそこかしこにあり、初見だと迷路みたいで迷いそう。
懐かしくもモダンな和室
案内された部屋は8畳和室+広縁。レトロ感がありつつも洗面台やトイレはモダンな設備に更新されており、金庫もあればWiFiも完備され何の支障もない。別途精算のドリンクが入れられた冷蔵庫あり。広縁に取り付けられているのは窓というよりガラス戸。おかげで視界がパーッと開けて結構なり。のどかな山の景色や先ほどの桜がちらりと見える。天気もいいし清々しい気分になるね。
2種類の源泉を提供する富士屋のお風呂
ぬるめで好感触の内湯
さっそく大浴場へ行ってみた。男湯の近くの壁に分析書が貼ってあり、どうやら内湯と露天風呂で違う源泉を引いているようだ。内湯は「アルカリ性単純硫黄泉」で露天風呂は「アルカリ性単純温泉」とあった。どちらも「低張性、アルカリ性、温泉」とのこと。男湯にはすでに2名の先客がいた。その程度なら全然混み合ってる感じじゃない。内湯の浴室には4名分の洗い場と5~6名規模のタイル張りのメイン浴槽と2名規模のサブ浴槽。新しくはないけど古すぎずボロくもなく普通。
メイン浴槽につかってみた。お湯は無色透明。事前のリサーチ通りにぬるめだった。好みに合っていて大変よろしい。ただし、ぬる湯マニアが想像するような、36℃の不感温度とか30℃台前半というわけではない。40℃を切るくらいだと思う。
お湯に鼻を近づけるとかなりはっきりしたタマゴ臭がする。さすがの硫黄泉。ついつい気になって何度も嗅いでしまった。泡付きはないものの、なんとなくお湯が体にまとわりつく感触もある。こいつは結構なお点前だ。
有乳湯源泉のたしかな実力
湯口に取り付けられた札には「有乳湯(うちゆ)の源泉をかけ流しています」的なことが書かれてあった。源泉名である有乳湯は、近所の共同浴場の名前でもある。子宝の湯として知られる、この有乳湯の浴感が大変すばらしいと各方面から称賛され、田沢温泉の名を高めているといえる。実際入ってみるとたしかに納得だ。夕方・夜・早朝と3回入って早朝だけやけに熱かった。その種明かしは後ほど。
サブ浴槽も基本的にはメインと同じ。隣り合っていてお湯の行き来があるし。ただしサブの方はぶくぶくとあぶくが立っていた。つまりはジャグジーね。
露天風呂は「やればできる子」
脱衣所や内湯から露天風呂の方へ出ていくことができる。露天の岩風呂は大きくくびれた箇所を境に奥の寝湯区画と手前の一般区画に分かれる。まずは一般区画に入ってみた。うーむ、熱い。熱いぞ。田沢温泉なのに熱い。しかも浴槽内に激しくお湯を噴き出す口があるみたいで、お湯の中でかなりの勢いの噴流が生じていた。こいつはかけ流しではなく循環だろう。見た目は内湯と同じく無色透明だけど匂いはないし、まとわりつきもなく水みたいにさらっとしているし、このときの第一印象のせいでずいぶん侮ってしまった。
印象が変わったのは早朝に入ったとき。このときばかりはぬるい。内湯のほうがむしろ熱くて露天がぬるい。こりゃーええわ。しかもよく見ると湯の花っぽい微粒子や糸くず状のものがフワフワ漂っている。やればできる子だった。
富士屋の風呂のひみつ
温度については、部屋の冊子に書いてあったのだが、夜11時から朝6時までは加温をやめる、逆に言うと朝6時から夜11時までは加温していることが判明した。加温が始まったばかりの早朝に風呂へ行った際、内湯は加温を頑張りすぎてたから熱く、露天はまだモタモタしていたから夜間にすっかりぬるくなった状態が残っていたのだろう。露天の寝湯区画は夜がすばらしく、お湯につかって寝転がりながら絶好の星見風呂を堪能した。星座のことは詳しくないけど、あれが北斗七星か、とか適当に想像しつつ。欲を言えば脇の照明灯の光が邪魔だったけど、それがないと足元が危ないからね。これ以上は望むまい。
加えて朝の露天風呂はどこからともなくホーホケキョの声が聞こえてきた。西川のりおのダミ声ではなく本物の澄んだ鳴き声だ。風流ですのう。
食事も頑張ってます
信州らしい献立が並ぶ夕食
富士屋の食事は夕食が別室(個室)、朝食が本館食堂に集合。夕食のスターティングメンバーがこれ。蕗味噌焼きに使われる信州大王イワナってのは初めてだ。やがて信州サーモン年輪巻の白濁スープとお造りが出てきた。お造りは信州大王イワナと信州サーモンと桜刺し。信州自慢の食材の競演。そうこなくちゃ。
やがて温泉蒸しが完成。和牛パイ包みと蓬万頭も登場。万頭の中身はもちろんアンコじゃない。ひき肉的なものだったっけかな。
さらに天ぷらのタワーがどーん。これでとどめを刺された。あとご飯をちょろっと食べたらもうお腹パンパン。以上がスタンダードコース。十分すぎるほどだ。
賑やか小鉢の朝食
朝食は7時半。頼めば後ろへずらせるのかはわからない。メニューはたくさんの小鉢からなる賑やかな感じのもの。茶碗蒸しのように見える器の中身は温泉玉子だった。セルフで牛乳あり。朝食の後は談話室のソファで優雅にコーヒーをいただく。新聞や青木村のパンフレットに混じって、温泉協会的な団体が作った、薄いけどいかめしい温泉冊子が置いてあるのが印象に残った。
お得感ある田沢温泉
田沢温泉街や富士屋の雰囲気は個人的には好みだ。内湯は硫黄感がしっかりあってぬるめだしね。誰もが知る超有名温泉地や東京近県の相場と比べれば料金にもお得感がある。いいんじゃないでしょうか。唯一注意すべきは、あの構造だと客室は相当な数に上るはずだから、もし本気で満室になるようなことがあれば、風呂も食堂も明らかにキャパオーバーだし、どうするんだろう。秋で紅葉で松茸で…の季節は最高に違いないけど客の入りがヤバそうな気もする。そこだけは悩ましいね。
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