紅葉シーズンの混雑+下り坂の天気という避けたい条件にもかかわらず、ビビッときて急きょ決めた南会津への一人旅。宿泊先は湯野上温泉の民宿すずき屋だ。
湯野上温泉それ自体が険しい渓谷の崖沿いだったり、すぐ目の前を列車が走っていたりと面白いところなのだが、当宿も砂風呂を備えていたり民宿とは思えぬスケールの大浴場だったりという面白い個性がある。
好天の夜に星を見ながらすずき屋の露天風呂に入れたら最高だったろうなあ。
そんな行楽シーズン真っ只中のある日、各地の温泉宿が一分の隙もないほどの満室祭りだった週末に、下郷町・湯野上温泉の宿でポコンと1室空きが出たのをたまたまネットで見つけたのである。
こいつは天運だ。あれこれ考えてる場合じゃない。速攻で予約を入れ、爆速で計画を立案した。ついでに秒速で1億円を稼ぎたかったけど、残念ながらその才能はなかった模様。
とはいえ道中5~6時間もかけるのは辛すぎる。観光する時間も確保もしたいし。ということで途中まで有料の東武特急を使い4時間弱で湯野上温泉駅に着いた。山里の鄙び感のある駅だ。
それから国道に沿って徒歩15分ほどで民宿すずき屋に到着。宿の前の細い道路のすぐ向こうに線路が走っている。その向こうには渓谷の切り立った崖と川が見えた。おお絶景なり。なんというロケーション。
案内された部屋は1階の6畳和室。トイレ・洗面なし。最初から布団が敷いてあった。年数なりに古びたところはあれど、きちんと手入れされており問題なし。電灯がリモコン式の現代風のやつだった。あとWiFi完備。
障子を開けると窓の向こうは正面玄関前の駐車場だった。車や人の出入りがあるから滞在中はずっと障子を閉めたままにしていた。部屋からの景観は求めてないし、出入りの際の音や声も朝夕の一時期だけだから、ノープロブレム。
音といえば線路が近いため列車の通過ごとにガタンゴトンという響きが伝わってくる(揺れはしない)。そんな頻繁ではないとはいえ、こういう音をうるさく感じる人は厳しいかもしれない。ノスタルジーを感じる自分のような人なら大丈夫。
早すぎたチェックインのアドバンテージを生かして真っ先に露天風呂へ行った。洗い場のカランは一つで浴槽は…ひ、広い! 民宿っていうレベルじゃねーぞ。正方形に近い石組みの浴槽は15名以上が余裕で入れそう。
それじゃ独占させてもらいますよ。無色透明のお湯はぬるめ寄りの適温でずっとつかっていられる系。巨大な湯船に源泉がかけ流しで投入されているのが何ともぜいたくだ。
お湯につかった状態で山が見える。立ち上がって視線を落とすと線路が見える。ときおり列車の通過にともなうガタンゴトンを聞きながら、だだっ広い中でひとり温泉。最高ですなー。
ただ満室御礼のときに長湯ははばかられる。そろそろ次の客が来ているかもしれない。名残惜しいが30分で切り上げた。
見上げれば満天の星…じゃないのが残念だ。晴れていればたくさん星が見えるのかな。そうなったら最高だが。
そういや今まで、夜に露天風呂に入るシチュエーションは全部雨か曇天じゃなかったか? 「星、ダメ、ゼッタイ」みたいな自然さんの仕打ちにトホホ感を禁じ得ない。
浴室内は、うわ、湯気モーモー。こりゃいかん。窓を勝手に開けていいのかもわからないのでこのままいくぜ。
洗い場は4名分。角の欠けた四角形のような岩風呂風の浴槽はやはり民宿じゃないレベルの広さ。10人は余裕。芋洗いなら20人いける。奥の方は泡がぶくぶくしているジャグジーエリアになっていた。
入ると、あちい! 熱めというかはっきり熱い。体感的に43℃オーバーだねこれは。お湯は基本的に露天と同じ。ただとにかく熱い。休み休み入っていたが長湯は無理だ。いやでも温まるし、わりと短時間で切り上げた。ここは最初と最後に他の客1名と居合わせた以外はずっと独占状態だった。
浴槽の形を反映してか、湯口から湯尻へ向かって熱め~ぬるめへと、はっきりと明らかな変化が感じられ、好みで居場所を決めるようになっている。このときは湯口の近くでも適温の範疇であった。これだったらじっくりいける。場所をちょこちょこ変えながら楽しませてもらった。
なお、朝は5時台に目が覚めてしまい、誰もいないうちに入ってしまおうと風呂へ行ったのだが、ほとんど同時に他の客1名がやって来たのは予想外。おそるべし温泉客。
夕食は郷土料理を中心にした山の幸。目を引くものとしては、竹串にささった「しんごろう」。米をおはぎのような感じに仕立てて串に刺し、味噌を塗って軽く焼いたもの。五平餅は知っていたがしんごろうは初めてだ。
それと鮎の塩焼き。骨まで全部食べられる。しんごろうと鮎は広間の中央の囲炉裏に刺さっている串を抜いて持ってくる。熱々というわけではないが気分を盛り上げる演出だ。もちろんうまい。
馬刺しもふだん食べないからありがたみがある。固形燃料で加熱するのはエゴマ豚のしゃぶしゃぶとキノコ類。他に「こづゆ」という具だくさんの汁物が出てきた。
最後の手打ちそばまでひたすら食べ進んでお腹いっぱい。苦しくてご飯がちょっとしか入らなかったのが残念なほど。旅情感をも味わえる郷土料理という意味も含めて満足度は高い。
自慢の砂風呂を自分は体験できなかったので、もし機会があれば試してみていただきたい。
さて、チェックアウトの後、前夜から降り続く雨の中を駅まで歩いていった。途中で川の対岸に崖崩れの現場を発見。
…やべえよ、やべえよ。以前からなのか昨日今日のことなのか。美しいだけではない渓谷の厳しい一面を垣間見た気がしたのである。
湯野上温泉それ自体が険しい渓谷の崖沿いだったり、すぐ目の前を列車が走っていたりと面白いところなのだが、当宿も砂風呂を備えていたり民宿とは思えぬスケールの大浴場だったりという面白い個性がある。
好天の夜に星を見ながらすずき屋の露天風呂に入れたら最高だったろうなあ。
湯野上温泉「民宿すずき屋」へのアクセス
天運に導かれし宿
今秋はグループ旅行の合間に一人旅を入れるというやりくりが続く。隔週でどこか遠くへ出かける勢いになってしまっていた。やりすぎなのはわかってるけど、ここまできたら2017年はやれるだけやってやるぜ。そんな行楽シーズン真っ只中のある日、各地の温泉宿が一分の隙もないほどの満室祭りだった週末に、下郷町・湯野上温泉の宿でポコンと1室空きが出たのをたまたまネットで見つけたのである。
こいつは天運だ。あれこれ考えてる場合じゃない。速攻で予約を入れ、爆速で計画を立案した。ついでに秒速で1億円を稼ぎたかったけど、残念ながらその才能はなかった模様。
私鉄を乗り継いで湯野上温泉へ
湯野上温泉の最寄り駅は会津鉄道・湯野上温泉。東京から鉄道利用で最も速く行く一般論は、東北新幹線で郡山へ行き、会津若松へ出てから南下するルートになる。しかし出費は抑えたい。そこで東武鬼怒川線→野岩鉄道→会津鉄道を乗り継ぐルートで行った。とはいえ道中5~6時間もかけるのは辛すぎる。観光する時間も確保もしたいし。ということで途中まで有料の東武特急を使い4時間弱で湯野上温泉駅に着いた。山里の鄙び感のある駅だ。
絶景が目の前に
まず近隣の観光スポットである大内宿と塔のへつりを観光した後、ふたたび当駅へ戻ってきた。駅の近くには夫婦岩という見どころがあるからチェックしよう。それから国道に沿って徒歩15分ほどで民宿すずき屋に到着。宿の前の細い道路のすぐ向こうに線路が走っている。その向こうには渓谷の切り立った崖と川が見えた。おお絶景なり。なんというロケーション。
鉄ちゃん大喜びの部屋
チェックインが早すぎたため宿の旦那があたふたしてた。申し訳ない。天気が心配で早め早めの行動にならざるを得なかったのだ。おかげでこの日はどうにか降られる前に到着できた。案内された部屋は1階の6畳和室。トイレ・洗面なし。最初から布団が敷いてあった。年数なりに古びたところはあれど、きちんと手入れされており問題なし。電灯がリモコン式の現代風のやつだった。あとWiFi完備。
障子を開けると窓の向こうは正面玄関前の駐車場だった。車や人の出入りがあるから滞在中はずっと障子を閉めたままにしていた。部屋からの景観は求めてないし、出入りの際の音や声も朝夕の一時期だけだから、ノープロブレム。
音といえば線路が近いため列車の通過ごとにガタンゴトンという響きが伝わってくる(揺れはしない)。そんな頻繁ではないとはいえ、こういう音をうるさく感じる人は厳しいかもしれない。ノスタルジーを感じる自分のような人なら大丈夫。
これはすごい。広くて貸切露天もある風呂
入れなかったが興味深い砂風呂あり
すずき屋には珍しいことに砂風呂がある。事前予約制で1500円とのこと。試してみたい気持ちもありつつ、スケジュールに不確定要素が多かったので今回は見送った。広い広い源泉かけ流し露天風呂を独占
1階の男女別内湯とは別に、貸切の露天風呂が屋上3階にある。予約不要で、上り階段のところに下げられた札が「空き」になっていれば引っくり返して「貸切中」にし、脱衣所の内側から鍵をかける方式。早すぎたチェックインのアドバンテージを生かして真っ先に露天風呂へ行った。洗い場のカランは一つで浴槽は…ひ、広い! 民宿っていうレベルじゃねーぞ。正方形に近い石組みの浴槽は15名以上が余裕で入れそう。
それじゃ独占させてもらいますよ。無色透明のお湯はぬるめ寄りの適温でずっとつかっていられる系。巨大な湯船に源泉がかけ流しで投入されているのが何ともぜいたくだ。
鉄ちゃん大喜びの露天風呂
湯口のそばへ移動すると投入されたばかりの熱めのお湯が体に当たる。あちい。熱めを好む方は湯口の近くがいいだろう。匂いの面で強い主張はないけど単純温泉でよく感じる風味はあった。お湯につかった状態で山が見える。立ち上がって視線を落とすと線路が見える。ときおり列車の通過にともなうガタンゴトンを聞きながら、だだっ広い中でひとり温泉。最高ですなー。
ただ満室御礼のときに長湯ははばかられる。そろそろ次の客が来ているかもしれない。名残惜しいが30分で切り上げた。
夜の露天風呂もまた良し
夜遅くにも露天風呂へ来てみた。降り始めた雨をものともせず入る。あーやっぱりいいわー。会津の錦秋といえどもまだ縮み上がる寒さじゃない。ややぬるめの温度が心地よい。見上げれば満天の星…じゃないのが残念だ。晴れていればたくさん星が見えるのかな。そうなったら最高だが。
そういや今まで、夜に露天風呂に入るシチュエーションは全部雨か曇天じゃなかったか? 「星、ダメ、ゼッタイ」みたいな自然さんの仕打ちにトホホ感を禁じ得ない。
熱くて湯気モーモーの庄屋風呂
夕方に1階の内湯へも行ってみた。このときは庄屋風呂と名付けられた方が男湯。脱衣所の分析書にはたしか「単純温泉、低張性、弱アルカリ性、高温泉」と書いてあったと思う。浴室内は、うわ、湯気モーモー。こりゃいかん。窓を勝手に開けていいのかもわからないのでこのままいくぜ。
洗い場は4名分。角の欠けた四角形のような岩風呂風の浴槽はやはり民宿じゃないレベルの広さ。10人は余裕。芋洗いなら20人いける。奥の方は泡がぶくぶくしているジャグジーエリアになっていた。
入ると、あちい! 熱めというかはっきり熱い。体感的に43℃オーバーだねこれは。お湯は基本的に露天と同じ。ただとにかく熱い。休み休み入っていたが長湯は無理だ。いやでも温まるし、わりと短時間で切り上げた。ここは最初と最後に他の客1名と居合わせた以外はずっと独占状態だった。
湯温の変化を楽しめる竜宮風呂
翌朝は男女入れ替わった方の内湯・竜宮風呂へ。こちらも洗い場は4名分。浴槽はタイル張りで横長の長方形。横に並んで10人はいけるけど扁平だから無理に詰め込んでも20人はきつそう。浴槽の形を反映してか、湯口から湯尻へ向かって熱め~ぬるめへと、はっきりと明らかな変化が感じられ、好みで居場所を決めるようになっている。このときは湯口の近くでも適温の範疇であった。これだったらじっくりいける。場所をちょこちょこ変えながら楽しませてもらった。
なお、朝は5時台に目が覚めてしまい、誰もいないうちに入ってしまおうと風呂へ行ったのだが、ほとんど同時に他の客1名がやって来たのは予想外。おそるべし温泉客。
郷土料理で盛り上がる食事
初めて食べた「しんごろう」と「こづゆ」
すずき屋の食事は朝夕とも1階の大広間で。夕食は準備ができたら呼びに来るんだっけ? 朝食は7時半以降に適当に行くんだっけ? …自分はシステムをちゃんと理解していない気がするので現地で確認されたい。夕食は郷土料理を中心にした山の幸。目を引くものとしては、竹串にささった「しんごろう」。米をおはぎのような感じに仕立てて串に刺し、味噌を塗って軽く焼いたもの。五平餅は知っていたがしんごろうは初めてだ。
それと鮎の塩焼き。骨まで全部食べられる。しんごろうと鮎は広間の中央の囲炉裏に刺さっている串を抜いて持ってくる。熱々というわけではないが気分を盛り上げる演出だ。もちろんうまい。
馬刺しもふだん食べないからありがたみがある。固形燃料で加熱するのはエゴマ豚のしゃぶしゃぶとキノコ類。他に「こづゆ」という具だくさんの汁物が出てきた。
最後の手打ちそばまでひたすら食べ進んでお腹いっぱい。苦しくてご飯がちょっとしか入らなかったのが残念なほど。旅情感をも味わえる郷土料理という意味も含めて満足度は高い。
朝はオーソドックスな和定食
朝食は鮭の和定食だった。写真は撮り忘れた。豪華とはいえないが朝はこれで十分。民宿を超えたスケール
すずき屋は民宿というイメージを打ち破るスケールの風呂にびっくりする。とくに貸切露天風呂が目玉だ。昼はもちろん、夜も天気次第でかなり楽しめるだろう。部屋の豪華さやきめ細かいサービスにこだわらないのであれば、1万円を切る料金であの風呂と食事はとても良心的ではないかと思う。自慢の砂風呂を自分は体験できなかったので、もし機会があれば試してみていただきたい。
さて、チェックアウトの後、前夜から降り続く雨の中を駅まで歩いていった。途中で川の対岸に崖崩れの現場を発見。
…やべえよ、やべえよ。以前からなのか昨日今日のことなのか。美しいだけではない渓谷の厳しい一面を垣間見た気がしたのである。