岩手県・国見温泉。秋田駒ケ岳の岩手側の登山口であり、とっても不思議な緑色のお湯で知られる温泉地でもある。車がないと行きづらい場所なのだが、この摩訶不思議なお湯をぜひ体験してみたくて、思い切ってタクシーを使って訪問した。
2017年前半の最後を飾る一人旅「秋田と岩手の温泉ビッグネーム探訪」の中でも、ある意味クライマックスとなるのが5湯目・国見温泉の石塚旅館である。梅雨入り間近を思わせる厚い雨雲の中の温泉宿は、強い印象を残す神秘体験となった。
もしご存じなければ、石塚旅館のホームページへ行くか、ネットで「国見温泉」を検索してみていただきたい。この世のものとは思えぬ鮮やかなライムグリーンのお湯にびっくり仰天するはずだ。しかも色だけのキワモノでは決してなく、たしかな効能を求めて湯治客が訪れるほどの良泉だという。
ああ、ミステリアスな緑の温泉をこの目で見てみたい・入ってみたい…しかし課題があった。期間限定営業に加えて、鉄道とバスだけでは行けないのである。
今回は長距離に目をつむって駅からタクシーを利用した。自分の場合、行きは田沢湖駅から、帰りは雫石駅までタクシーに乗って、どちらも30分ちょいの7000円オーバーだった。往復で1万5千円と思っておけばよい。
免許を持ってて運転に抵抗がなければレンタカーを借りる手もある。ツワモノなら秋田側の田沢湖エリアの宿に前泊して(そちらは鉄道+バスで行ける)、秋田駒ヶ岳を登山で越えて岩手側へ下りるという技もあるけど。帰りはどうすんだろ。
仕方ないですね。冬季休業期間を乗り越えて宿を開いて下さるだけでもありがたい話。自分にとっては世界七不思議に匹敵する秘湯だから、行ける機運のときに何としても行きたかったのだ。
チェックインの時、女将さんが「今日は日帰りのお客さんで混んでますけど、4時になったら空いてきますから」と言ってたので、しばらく部屋で休むことにした。
泊まった部屋は東館2階・旅館部の6畳和室+洗面所+トイレ。テレビ・金庫あり。ピカピカに新しいわけではないけど古くもなく十分快適にすごせる。携帯の電波が入らないのは承知の上。別に困らない。
前日泊まった駒ヶ岳温泉には「日本源泉湯宿を守る会」の冊子が置いてあったけど、こちらに置いてあるのは「日本秘湯を守る会」の冊子だ。もちろん石塚旅館が掲載されている。こいつを読んでいたら4時になった。
まず洗い場のある薬師の湯へ。1階の西館寄りから脱衣所へ入ると早くも独特の硫黄臭がしてきた。おらワクワクしてきたぞ。分析書には「含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩泉」とあった。しかしこの字面からあのお湯は想像できまい。
多少年季の入った浴室には3つほどのカランと6~7名規模の石造り浴槽。一番奥の湯口から源泉がドボドボと注がれていた。お湯は本当に伝え聞いた通りの見事なライムグリーン。メロンソーダをもっと黄緑寄りにしたような色で浴槽の底がぎりぎり見えるくらいの透明度だった。どうしてこんな色になるのか全く不思議だ。
先客が1名いたが、まもなく出ていったため、ほぼ独占となったのは嬉しい誤算。さて参ろうか…お湯に入るとぬるめの適温。感触自体はわりと普通。いろんな角度から眺めてみてもやっぱり緑は緑。おもしれー。
見た目がジュースっぽいので口に含んでみたくなる。でも「驚きのまずさ」と紹介されているから用心してほんの微量だけ。硫黄香が目立つ。含んだ量が少なすぎて「まずっ! ぺっ」となるには至らなかったが、たしかにうまいものじゃない。
1.タマゴ
↓
2.腐ったタマゴ
↓
3.焼け焦げたタイヤ
↓
ウッとのけぞる。
タイヤ臭がRPGのラスボス第3形態のごとくおそろしく強い。鼻に来た瞬間ウッとなってそれ以上は嗅いでいられない。しかし中毒性がありそうで、人によっては癖になってしまうかも。反対にだめな人は、浴室内に匂いがこもるとめまいがしてくると思われ、入るときは窓を軽く開けておきましょう。
残念なことに(?)タイヤは初見のときだけしか感じられなかった。夜と翌朝にも薬師の湯に入ったのだが、そのときは第2段階までしかいかなかった。ラスボス不在だとそれはそれで寂しいね。
天候のせいなのか、一番人気と思われた露天風呂は誰もいない。けっきょく夕方と朝に利用してずっと独占だった。よっしゃあ。
露天の浴槽は5名規模で横長の長方形をした石風呂。ヘリには白い析出物がびっしり付いていて、どころどころ小規模ながら千枚田状の模様を作っていた。
お湯は他と一緒だけど深さのせいか底は見えない。その見えない底には湯の花が沈殿して分厚い層を作っており、まるで砂浜の上にいるような足裏の感触だった。こりゃまた強烈な印象だ。
温泉は一人静かに入りたい方だけど、孤独感はともかく、自然の中に無防備に放り出された感が結構くる。ここへ夜入るには勇気が要るなあ。万が一熊が出たら怖いしね(今回は妙に熊にビビってしまう旅だった)。
なお、国見温泉のお湯は鉄分と反応して黒くなるという特徴があるそうだ。そういえば、何度めかの入浴の際に指先の一部が黒くなって、こすっても落ちないことがあった。どこかで触った鉄の粉が指に付着したのだろうか。
夕食は地元で仕入れた山のものが中心のメニュー。いやあ、こういうのがありがたいですな。年を取って嗜好の変化もあるし、なにしろふだんが外食中心で、牛丼だのカレーだのラーメンだの、定食系にしても某社Oブランドの弁当や職場の社員食堂的なもの、そんなのばっかりなんだから。
鍋はたしか豚肉と野菜の陶板焼き風だったかな。赤身(ニジマス?)の刺身は漬けになっていたのに間違って醤油つけちゃった。小さいタケノコは皮をむいて酢味噌でいただく2本と煮物に1本。この季節、熊と競り合って命がけで取ってきた根曲がり竹ではなかろうか。
どれも素朴な味わいで自然の恵みって感じで大変結構。月の輪という地酒とともに楽しんだ。食事中、いろんな鳥のさえずりが聞こえてきて風流だなあと感嘆したが、どうやらBGMだった気がしなくもない。
朝の食後に山の湧き水コーヒーを飲んでみた(200円)。駒ケ岳の天然の湧水でいれたコーヒーだ。角が取れて飲みやすい味。ぜひブラックで試していただきたい。
なお、部屋の洗面所の蛇口から出る水も同じ湧き水であり、そのまま飲用できるので、風呂上がりの水分補給に最適だ。自販機で水とかお茶とか買う必要ねっす。
天気が良ければ駒ケ岳登山口まで散策したり、山々の景観を楽しめたりしたのだろうが、今回の濃いガスに覆われたコンディションもまた良し、だ。衝撃の結末で名高いSFホラー映画「ミスト」の世界に入り込んだかのようだった。
ミステリアスな温泉にはミステリアスな霧がよく似合う。
【この旅行に関する他の記事】
2017年前半の最後を飾る一人旅「秋田と岩手の温泉ビッグネーム探訪」の中でも、ある意味クライマックスとなるのが5湯目・国見温泉の石塚旅館である。梅雨入り間近を思わせる厚い雨雲の中の温泉宿は、強い印象を残す神秘体験となった。
国見温泉へのアクセス
鉄道・バスでは到達できない国見温泉
日本にあまたある温泉の中でも非常に稀有な特徴を持つ国見温泉は、温泉ファンの間ではもちろんのこと、たまにテレビで紹介されたりするから、一般にも結構知られていると思う。もしご存じなければ、石塚旅館のホームページへ行くか、ネットで「国見温泉」を検索してみていただきたい。この世のものとは思えぬ鮮やかなライムグリーンのお湯にびっくり仰天するはずだ。しかも色だけのキワモノでは決してなく、たしかな効能を求めて湯治客が訪れるほどの良泉だという。
ああ、ミステリアスな緑の温泉をこの目で見てみたい・入ってみたい…しかし課題があった。期間限定営業に加えて、鉄道とバスだけでは行けないのである。
タクシーかレンタカーで行くしかない
一応の最寄り駅はJR田沢湖線・赤渕だが、停車する列車が極端に少ないため、現実的には秋田新幹線が停まる田沢湖もしくは雫石の両駅が最寄りとなる。いずれにせよ駅から国見温泉へ行くバスはない(雫石駅から途中まで=道の駅「雫石あねっこ」まで行く事前予約制のコミュニティバスはあるけど、どうかな~)。今回は長距離に目をつむって駅からタクシーを利用した。自分の場合、行きは田沢湖駅から、帰りは雫石駅までタクシーに乗って、どちらも30分ちょいの7000円オーバーだった。往復で1万5千円と思っておけばよい。
免許を持ってて運転に抵抗がなければレンタカーを借りる手もある。ツワモノなら秋田側の田沢湖エリアの宿に前泊して(そちらは鉄道+バスで行ける)、秋田駒ヶ岳を登山で越えて岩手側へ下りるという技もあるけど。帰りはどうすんだろ。
それでも行く価値あり
宿の車による送迎はないのか?って、そんなの駅まで遠すぎるし、とくに今年は人手不足や施設の老朽化で余裕がなく、都合により送迎はごめんなさい状態だ(宿ブログを読むといろいろ大変そう…)。仕方ないですね。冬季休業期間を乗り越えて宿を開いて下さるだけでもありがたい話。自分にとっては世界七不思議に匹敵する秘湯だから、行ける機運のときに何としても行きたかったのだ。
山の秘湯宿らしい石塚旅館
快適にすごせる旅館部の部屋
土砂降りの中、タクシーが国見温泉・石塚旅館の前に着いた。思ったより大きいロッジ風の建物の前にはたくさんの車がとまっていた。この天候でも大勢の人が訪れているようだ。さすが人気スポット。チェックインの時、女将さんが「今日は日帰りのお客さんで混んでますけど、4時になったら空いてきますから」と言ってたので、しばらく部屋で休むことにした。
泊まった部屋は東館2階・旅館部の6畳和室+洗面所+トイレ。テレビ・金庫あり。ピカピカに新しいわけではないけど古くもなく十分快適にすごせる。携帯の電波が入らないのは承知の上。別に困らない。
思えば高地へ来たもんだ
窓の外は雨、というか雲の中に入っているようで視界が全然きかない。下の写真よりもっと霧が濃いときもあった。ここ国見温泉は標高850メートルにあるからね。気温は麓より4~5℃ほど低い計算になる。なので初夏とはいえ浴衣の上に着るフリース地のベストが置いてあった。前日泊まった駒ヶ岳温泉には「日本源泉湯宿を守る会」の冊子が置いてあったけど、こちらに置いてあるのは「日本秘湯を守る会」の冊子だ。もちろん石塚旅館が掲載されている。こいつを読んでいたら4時になった。
強烈な色と匂いにクラクラ! 薬師の湯
鮮やかなライムグリーンに感激
石塚旅館には薬師の湯と名付けられた男女別の大きい内湯と、もう一つの小さい男女別内湯と、混浴露天風呂がある。ほかに女性用露天があったかも。まず洗い場のある薬師の湯へ。1階の西館寄りから脱衣所へ入ると早くも独特の硫黄臭がしてきた。おらワクワクしてきたぞ。分析書には「含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩泉」とあった。しかしこの字面からあのお湯は想像できまい。
多少年季の入った浴室には3つほどのカランと6~7名規模の石造り浴槽。一番奥の湯口から源泉がドボドボと注がれていた。お湯は本当に伝え聞いた通りの見事なライムグリーン。メロンソーダをもっと黄緑寄りにしたような色で浴槽の底がぎりぎり見えるくらいの透明度だった。どうしてこんな色になるのか全く不思議だ。
美しい見た目・クセのある匂い・まずい味
湯の表面には油膜のようなものと湯の花が浮いて漂っている。浴室内は素直なタマゴ臭をひとひねりしたような何とも言えない匂いが立ち込めていた。そこらの硫黄泉をただ緑色にしたのと決してイコールではない、強烈な個性だ。先客が1名いたが、まもなく出ていったため、ほぼ独占となったのは嬉しい誤算。さて参ろうか…お湯に入るとぬるめの適温。感触自体はわりと普通。いろんな角度から眺めてみてもやっぱり緑は緑。おもしれー。
見た目がジュースっぽいので口に含んでみたくなる。でも「驚きのまずさ」と紹介されているから用心してほんの微量だけ。硫黄香が目立つ。含んだ量が少なすぎて「まずっ! ぺっ」となるには至らなかったが、たしかにうまいものじゃない。
3段階に変化する刺激臭
次に匂い。手ですくって鼻を近づけると…うわっ! これは強烈! 匂いが3段階に変化し、しかも刺激がだんだん強烈になる。1.タマゴ
↓
2.腐ったタマゴ
↓
3.焼け焦げたタイヤ
↓
ウッとのけぞる。
タイヤ臭がRPGのラスボス第3形態のごとくおそろしく強い。鼻に来た瞬間ウッとなってそれ以上は嗅いでいられない。しかし中毒性がありそうで、人によっては癖になってしまうかも。反対にだめな人は、浴室内に匂いがこもるとめまいがしてくると思われ、入るときは窓を軽く開けておきましょう。
残念なことに(?)タイヤは初見のときだけしか感じられなかった。夜と翌朝にも薬師の湯に入ったのだが、そのときは第2段階までしかいかなかった。ラスボス不在だとそれはそれで寂しいね。
激熱すぎる内湯(小)は即撤退
続いて本館正面すぐの小さい内湯へ移動。基本スペックは薬師の湯と同じ。ただし熱い。熱すぎる。足先をつけただけでギブアップ終了。いろいろと豪快な露天風呂
湯の花が堆積する深めの浴槽
小さい内湯の奥のドアから外へ出られる。裸のまま腰にタオルを巻き、サンダルを履いて20メートルくらい行くと混浴露天風呂がある。ご婦人の場合、小内湯手前の別の出口から服を着たまま外へ出て、露天風呂併設の脱衣所を利用することになるだろう。そこも男女共用だけど。天候のせいなのか、一番人気と思われた露天風呂は誰もいない。けっきょく夕方と朝に利用してずっと独占だった。よっしゃあ。
露天の浴槽は5名規模で横長の長方形をした石風呂。ヘリには白い析出物がびっしり付いていて、どころどころ小規模ながら千枚田状の模様を作っていた。
お湯は他と一緒だけど深さのせいか底は見えない。その見えない底には湯の花が沈殿して分厚い層を作っており、まるで砂浜の上にいるような足裏の感触だった。こりゃまた強烈な印象だ。
イントゥ・ザ・ワイルド
こうして山の中腹でぽつんと一人、やや熱めのライムグリーンの温泉に体を沈める図となった。周囲に集落と呼べるものはなく、旅館の建物からやや離れた位置にある露天風呂は、どちらかというと野湯に近い雰囲気。温泉は一人静かに入りたい方だけど、孤独感はともかく、自然の中に無防備に放り出された感が結構くる。ここへ夜入るには勇気が要るなあ。万が一熊が出たら怖いしね(今回は妙に熊にビビってしまう旅だった)。
なお、国見温泉のお湯は鉄分と反応して黒くなるという特徴があるそうだ。そういえば、何度めかの入浴の際に指先の一部が黒くなって、こすっても落ちないことがあった。どこかで触った鉄の粉が指に付着したのだろうか。
素朴な味わいの石塚旅館の食事
季節を象徴する根曲がり竹
石塚旅館は夕食が18時、朝食が7時半と決まっており、時間がくると館内放送が流れるから1階の食堂へ行き、部屋に応じて決められた席につく。夕食は地元で仕入れた山のものが中心のメニュー。いやあ、こういうのがありがたいですな。年を取って嗜好の変化もあるし、なにしろふだんが外食中心で、牛丼だのカレーだのラーメンだの、定食系にしても某社Oブランドの弁当や職場の社員食堂的なもの、そんなのばっかりなんだから。
鍋はたしか豚肉と野菜の陶板焼き風だったかな。赤身(ニジマス?)の刺身は漬けになっていたのに間違って醤油つけちゃった。小さいタケノコは皮をむいて酢味噌でいただく2本と煮物に1本。この季節、熊と競り合って命がけで取ってきた根曲がり竹ではなかろうか。
どれも素朴な味わいで自然の恵みって感じで大変結構。月の輪という地酒とともに楽しんだ。食事中、いろんな鳥のさえずりが聞こえてきて風流だなあと感嘆したが、どうやらBGMだった気がしなくもない。
山の湧き水コーヒーもおすすめ
朝はシンプルな和定食。卵の中身は温泉玉子だったと思う。朝の食後に山の湧き水コーヒーを飲んでみた(200円)。駒ケ岳の天然の湧水でいれたコーヒーだ。角が取れて飲みやすい味。ぜひブラックで試していただきたい。
なお、部屋の洗面所の蛇口から出る水も同じ湧き水であり、そのまま飲用できるので、風呂上がりの水分補給に最適だ。自販機で水とかお茶とか買う必要ねっす。
ミステリアスな雰囲気に大満足
念願の国見温泉・石塚旅館に泊まることができて大変満足だ。あのお湯はとにかくすごいの一言。あれがまた効能豊かというんだから自然の神秘は奥が深い。天気が良ければ駒ケ岳登山口まで散策したり、山々の景観を楽しめたりしたのだろうが、今回の濃いガスに覆われたコンディションもまた良し、だ。衝撃の結末で名高いSFホラー映画「ミスト」の世界に入り込んだかのようだった。
ミステリアスな温泉にはミステリアスな霧がよく似合う。
【この旅行に関する他の記事】
- 新玉川温泉 日帰り入浴記 - 日本一のピリピリ酸性湯を体験
- 本当は教えたくない! 鶴の湯系列の穴場宿 - 水沢温泉郷 駒ヶ岳温泉
- 乳白色の露天風呂はまさに秘湯の雄 - 乳頭温泉郷 鶴の湯温泉
- ワイルド&マイルド。ブナの森の癒やし湯 - 乳頭温泉郷 蟹場温泉
- この中だけで温泉めぐりができる「明るい湯治場」 - 大沢温泉
- モダンと鄙びが融合した白猿伝説の湯宿 - 鉛温泉 藤三旅館
- 花巻で宮沢賢治記念館をエクストリーム訪問したこと