有名な乳頭温泉郷の手前にある水沢温泉は、実際のところ、それほど知られているわけではない。とくに遠方からの客ほど水沢温泉をスルーして乳頭温泉を目指してしまう。
そんな水沢温泉の中心街から外れたところに一軒だけポツンとあるのが、「秋田と岩手の温泉ビッグネーム探訪」2湯目・駒ヶ岳温泉。梅雨直前に実行した一人旅の1泊目の宿だ。
正直ビッグネームとはいえないのだろう。しかし、かの絶大な人気を誇る乳頭・鶴の湯温泉の系列であり、実力は確かだ。本当は誰にも教えたくない絶好の穴場宿なのである。
田沢湖駅から羽後交通バスの乳頭温泉行きに乗って約20分、休養センター前で下車、そこから10分くらい歩くことになる。田沢湖方向へ少し戻ってから分岐するダート道を延々進まなければならない。事前にお願いしておけば、宿の車で送迎してもらえるから、素直に頼むのがよい。
送迎のワゴン車には「鶴の湯」の文字が入っており、系列内で運用をやりくりしているんだなと思わせる。翌日帰りにバス停で降ろしてもらった際、このワゴン車が駒ヶ岳温泉と反対の鶴の湯方向へ走り去っていったのは、さもありなん。
入口の札によれば、どうやら駒ケ岳温泉内で「十割そば処 そば五郎」というそば屋を運営していたようだが、現在は営業休止中。代わりに(?)、田沢湖駅前の物産店「市(いち)」内に同じ名前の店が出ている。そっちが本家なのかな(想像ですが)。
通された部屋は2階のトイレ・洗面付き6畳和室。新しくてきれいな部屋だ。手前がトイレ・洗面・クローゼット・金庫のあるフローリング風で、そこから1段上がって6畳間。奥に広縁。空の冷蔵庫つき。
歴史や情緒があっても鄙び過ぎはちょっと…という方や、共同トイレはちょっと…という方にもおすすめできる、安心のスペックだ。なおトイレなしで若干安めの部屋もある。
広縁のテーブルには「日本源泉湯宿を守る会」の冊子が置かれ、駒ヶ岳温泉のページに折り目が付けてあった。源泉に自信ありってことかと期待が膨らむ。家から読書用の本を持参していたが、結局この冊子ばかり読んでいたなあ。
大浴場の脱衣所で分析書をチェックすると「含硫黄-カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉(硫化水素型)」とあった。
おいおいおい…鉄・二酸化炭素・ラドン系を除くたいがいの成分があるじゃないか。ラーメンやパソコンでいう“全部入り”みたいなもんか。こいつは効きそうだ。
客室数に比して十分大きな内湯の浴槽に入る。ドボドボと掛け流されるお湯は青白い半透明でやや熱め。手にすくって鼻を近づけると、かすかにタマゴ臭~木材系アブラ臭へ変化する弱い匂いがする。湯の花は少ない。
自分はぬるめが好きなのでその点を補正すると、客観的には熱すぎることもなく、ドギツい特徴や刺激もなく、しかし相応の「普通のお湯とは違う」特別感にあふれ、万人が満足できる泉質だと思う。
浴槽の底には湯の花が沈殿して薄い層をなしており、移動すると足跡がついた。雪の積もり始めみたい。
目の前には沢の流れ。対岸は森の木々だけだから目隠しの柵もなく、開放感たっぷり。岩風呂に注がれる青白い硫黄泉の掛け流し、沢の水、森の緑。舞台装置は完璧だ。独占できたのがなお最高。
小屋を抜けた先に3名規模の露天の岩風呂があった。大浴場の露天風呂をそのまま小さくした感じ。お湯も同じく初回が熱めで翌朝がぬるめだった。羽虫はまったく浮いてなかった。それと洗い場なし。
翌朝は左の小屋へ行ってみた。こちらは木の浴槽だった。あとはまあ一緒。お好みでどうぞ。
一般の日帰り客がいない、比較的静かで空いてる夜の時間帯に、かの鶴の湯を体験できるメリットは大きい。鶴の湯ほどの人気宿になると宿泊の予約を入れるのも難しいからね。おいしすぎるサービスだ。
希望者はチェックイン時にその旨伝える。20時にフロント集合→20時20分に鶴の湯到着→21時20分出発→21時40分帰着のスケジュールで1時間の入浴時間が与えられる。鶴の湯体験記は別記事にて。
それだけじゃない。途中でアツアツの茶碗蒸し(比内地鶏の餡かけ)や紅鱒の柚庵焼き、山の芋鍋も出てくる。山の芋鍋は山形名物の芋煮とは違う。山芋をすりつぶして団子のように丸めたのが入る。つみれの山芋バージョンだ。
こいつがふわっと柔らかく、最後はワイルドな風味が鼻を抜けてクセになる味。ぺろりと鍋を空にしたら「まあ、全部きれいにあけていただいて」と感心されてしまった。いやー、残すなんてとんでもない。
最後にあきたこまちと熊笹のシャーベットでもうお腹パンパン。
この旅でタクシーに乗ることがあったのだが、運ちゃんも駒ヶ岳温泉は(地元だから日帰りで)よく利用すると言っていた。乳頭もいいけど駒ヶ岳温泉で十分というくらいのいいお湯ですよ、とのこと。
「いい宿ですよね。乳頭温泉の陰に隠れちゃって知られてないのがもったいないですね」と話を振ると、「いやー、そうなんだけど、あんまり注目されたくないという気持ちもあるんだよねー」と複雑な心境のご様子。その気持ち、よくわかります。
【この旅行に関する他の記事】
そんな水沢温泉の中心街から外れたところに一軒だけポツンとあるのが、「秋田と岩手の温泉ビッグネーム探訪」2湯目・駒ヶ岳温泉。梅雨直前に実行した一人旅の1泊目の宿だ。
正直ビッグネームとはいえないのだろう。しかし、かの絶大な人気を誇る乳頭・鶴の湯温泉の系列であり、実力は確かだ。本当は誰にも教えたくない絶好の穴場宿なのである。
駒ヶ岳温泉へのアクセス
水沢温泉の奥地を目指す
秋田・岩手の両県にまたがってそびえる秋田駒ケ岳。その秋田側の懐に位置するのが駒ヶ岳温泉。鉄道利用の場合はまず秋田新幹線で田沢湖駅まで行く。田沢湖駅から羽後交通バスの乳頭温泉行きに乗って約20分、休養センター前で下車、そこから10分くらい歩くことになる。田沢湖方向へ少し戻ってから分岐するダート道を延々進まなければならない。事前にお願いしておけば、宿の車で送迎してもらえるから、素直に頼むのがよい。
送迎のワゴン車には「鶴の湯」の文字が入っており、系列内で運用をやりくりしているんだなと思わせる。翌日帰りにバス停で降ろしてもらった際、このワゴン車が駒ヶ岳温泉と反対の鶴の湯方向へ走り去っていったのは、さもありなん。
秘湯ムード漂う森の一軒宿
ダート道の終点は、沢の手前の林を切り開いて整地した区画になっており、そこに駒ヶ岳温泉があった。本館の左手には新しめの湯小屋が見える。周囲に他の旅館や民家のたぐいはなく、森の中の一軒宿といえる佇まいだ。秘湯感は十分。入口の札によれば、どうやら駒ケ岳温泉内で「十割そば処 そば五郎」というそば屋を運営していたようだが、現在は営業休止中。代わりに(?)、田沢湖駅前の物産店「市(いち)」内に同じ名前の店が出ている。そっちが本家なのかな(想像ですが)。
静かで落ち着く小規模宿
新しくてモダンな設備
さあチェックイン。館内はわりと新しくてモダンな作り。全9室という小規模なのでゆっくり静かにすごせそうだ。しかもこの日(平日)は自分を含めて客が2組だけだとか。商売的には難儀なことだが個人的には好都合だ。いいねー。通された部屋は2階のトイレ・洗面付き6畳和室。新しくてきれいな部屋だ。手前がトイレ・洗面・クローゼット・金庫のあるフローリング風で、そこから1段上がって6畳間。奥に広縁。空の冷蔵庫つき。
歴史や情緒があっても鄙び過ぎはちょっと…という方や、共同トイレはちょっと…という方にもおすすめできる、安心のスペックだ。なおトイレなしで若干安めの部屋もある。
風情ある沢沿いの部屋
窓から下をのぞくと沢が流れている。季節柄、虫が入ってこないように窓を締め切っているから、水の音は気にならない。窓際であえて耳をすませばサラサラとザーザーの中間くらいの音をかすかに感じる程度。広縁のテーブルには「日本源泉湯宿を守る会」の冊子が置かれ、駒ヶ岳温泉のページに折り目が付けてあった。源泉に自信ありってことかと期待が膨らむ。家から読書用の本を持参していたが、結局この冊子ばかり読んでいたなあ。
ハイレベルの源泉掛け流し温泉がすごい
成分豊富なお湯
さっそく風呂を体験しに行った。駒ヶ岳温泉には男女別の大浴場と2つの貸切露天風呂がある。日帰り客は大浴場のみ、宿泊客だけが貸切風呂を利用できる。日帰り客を計算に入れても、おそらくどの浴槽も独占状態だろう。やったぜ。大浴場の脱衣所で分析書をチェックすると「含硫黄-カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物泉(硫化水素型)」とあった。
おいおいおい…鉄・二酸化炭素・ラドン系を除くたいがいの成分があるじゃないか。ラーメンやパソコンでいう“全部入り”みたいなもんか。こいつは効きそうだ。
硫黄泉らしさを堪能できる内湯
大浴場の浴室は新しめの清潔感と同時に、壁や柱に使う木材に昔ながらの雰囲気をうまく持たせてあってよい。洗い場のカランは4つ以上あったはず。客室数に比して十分大きな内湯の浴槽に入る。ドボドボと掛け流されるお湯は青白い半透明でやや熱め。手にすくって鼻を近づけると、かすかにタマゴ臭~木材系アブラ臭へ変化する弱い匂いがする。湯の花は少ない。
自分はぬるめが好きなのでその点を補正すると、客観的には熱すぎることもなく、ドギツい特徴や刺激もなく、しかし相応の「普通のお湯とは違う」特別感にあふれ、万人が満足できる泉質だと思う。
自然環境と開放感たっぷりの露天風呂
続いて奥の露天風呂へ。6~7名は余裕でいける岩風呂。湯の花とともに羽虫が浮いているのは季節柄仕方がない。基本的に内湯と同じ浴感だ。初回は内湯以上に熱く感じたため長湯は難しかったが、翌朝の2回目のときは結構ぬるくて、じっくり入れた。浴槽の底には湯の花が沈殿して薄い層をなしており、移動すると足跡がついた。雪の積もり始めみたい。
目の前には沢の流れ。対岸は森の木々だけだから目隠しの柵もなく、開放感たっぷり。岩風呂に注がれる青白い硫黄泉の掛け流し、沢の水、森の緑。舞台装置は完璧だ。独占できたのがなお最高。
この規模の宿では珍しい貸切露天風呂
貸切風呂へも行ってみた。大浴場へ続く廊下の途中から外へ出て数メートル先に2つの小さい小屋が並んでいる。右の小屋に入ると中は脱衣所になっていた。小屋の扉を中から施錠すると、本館側にあるランプが点灯して貸切中とわかる仕組み。小屋を抜けた先に3名規模の露天の岩風呂があった。大浴場の露天風呂をそのまま小さくした感じ。お湯も同じく初回が熱めで翌朝がぬるめだった。羽虫はまったく浮いてなかった。それと洗い場なし。
翌朝は左の小屋へ行ってみた。こちらは木の浴槽だった。あとはまあ一緒。お好みでどうぞ。
おいしすぎる! 鶴の湯ナイトツアー
駒ヶ岳温泉は、温泉人気ランキングの上位を毎度にぎわす乳頭・鶴の湯温泉の系列宿であり、その一大特典が「鶴の湯ナイトツアー」だ(無料)。一般の日帰り客がいない、比較的静かで空いてる夜の時間帯に、かの鶴の湯を体験できるメリットは大きい。鶴の湯ほどの人気宿になると宿泊の予約を入れるのも難しいからね。おいしすぎるサービスだ。
希望者はチェックイン時にその旨伝える。20時にフロント集合→20時20分に鶴の湯到着→21時20分出発→21時40分帰着のスケジュールで1時間の入浴時間が与えられる。鶴の湯体験記は別記事にて。
秋田の味覚をたっぷり楽しめる食事
山の芋鍋が絶品
駒ヶ岳温泉の食事は朝夕とも1階の食事処(元そば五郎?)で。夕食は18時・18時半・19時から選べる。中年にはうれしい山菜を生かしたメニューに加え、前菜に比内地鶏のローストは付くし、刺身は岩魚、八幡平ポークの陶板焼きなど、結構すごいラインナップ。それだけじゃない。途中でアツアツの茶碗蒸し(比内地鶏の餡かけ)や紅鱒の柚庵焼き、山の芋鍋も出てくる。山の芋鍋は山形名物の芋煮とは違う。山芋をすりつぶして団子のように丸めたのが入る。つみれの山芋バージョンだ。
こいつがふわっと柔らかく、最後はワイルドな風味が鼻を抜けてクセになる味。ぺろりと鍋を空にしたら「まあ、全部きれいにあけていただいて」と感心されてしまった。いやー、残すなんてとんでもない。
そば五郎の忘れ形見
それだけじゃない。そば五郎の忘れ形見(?)・十割そばも出てくる。十割でもそんなにボロボロすることもなくツルっとすすれた。江戸っ子ならそばは喉越しだとか、そんな御託は今宵は関係ないぜ。噛んで噛んで甘みを楽しんだ。最後にあきたこまちと熊笹のシャーベットでもうお腹パンパン。
あっさりめの朝食
朝は7時・7時半・8時から選択。メニューは控えめあっさりの和風皿盛り。卵は納豆用の生卵であった。窓際の席だったので外の新緑を眺めながらまったりとすごす。紅葉する類の葉っぱに見えたから、秋はさぞかし絶景になるのでは。地元民も認める穴場宿
駒ヶ岳温泉はすんごい穴場宿ではなかろうか。1万円クラスとは思えない良質のハードと過剰に陥らずほどよいサービス。温泉の良さ・静かな小規模宿・一人泊が普通にOKという自分にとってのストライクど真ん中の要素がまた素晴らしい。この旅でタクシーに乗ることがあったのだが、運ちゃんも駒ヶ岳温泉は(地元だから日帰りで)よく利用すると言っていた。乳頭もいいけど駒ヶ岳温泉で十分というくらいのいいお湯ですよ、とのこと。
「いい宿ですよね。乳頭温泉の陰に隠れちゃって知られてないのがもったいないですね」と話を振ると、「いやー、そうなんだけど、あんまり注目されたくないという気持ちもあるんだよねー」と複雑な心境のご様子。その気持ち、よくわかります。
【この旅行に関する他の記事】