いわゆる足元湧出泉だ。強い酸性硫黄泉を湧き出したばかりの新鮮な状態で味わえる。この珍しいお湯を2016年秋の蔵王訪問のときに体験してみた。熱めのお湯だし、じっくり長湯するわけにはいかなかったが、たとえ短時間でも入浴する価値はあった。
【本記事は2017年1月に公開した内容を再構成したものです】
蔵王温泉へのアクセス
想定外の新幹線トラブル
蔵王温泉の玄関口はJR山形駅になる。東京方面からだと山形新幹線つばさを利用することになるだろう。自分もつばさに乗って行った。だが一つ罠があった。ミニ新幹線だと線路に踏切が残っており、当時「踏切内に人が立ち入ったため遅延」という事態が発生したのである。10分程度遅れて山形に着いたと思う。
もともと蔵王温泉行きバスの乗り継ぎに15分しか余裕がなかったため、そのうち10分を遅延で食われて、かなり焦る羽目になった。ぎりぎり間に合ったが。
バスで山の中腹へ
バスの前半は平坦な市街地を進む。後半は田園風景となり、山裾に取り付いてからはくねくね山道をひたすら上がっていく。窓の外に目をやると山形市街がもうはるか下界に遠ざかっていた。35分で終点の蔵王温泉バスターミナルに到着。まずロープウェイで鳥兜山頂まで往復した後、硫黄香る石畳の温泉街を歩いてみた。
蔵王温泉の3つの共同湯
「かわらや」の伏線として先に共同湯について触れておく。蔵王温泉には3箇所の共同湯がある。温泉街の入口寄りにあるのが下湯。木造のいかにも銭湯然とした建物だからすぐわかる。入口付近に温泉を溜めた石の器と足湯がある。
温泉街の一番奥にあるのが上湯。酢川温泉神社へ続く長い長い急階段が始まるちょっと手前にある。下湯よりも小さい印象。
上湯の少し手前から脇道に入った、あまり目立たない路地裏にあるのが川原湯。ここが足元湧出泉なのだ。浴槽の底にすのこが敷いてあって、その奥から源泉がぼこぼこ湧いてくる。当初はここを訪れるつもりだった。
鮮度が命、すのこの湯 かわらや
再建されたかわらや
川原湯の隣でありながら、もっと目につきやすい好立地にあるのが「すのこの湯 かわらや」。名前は似ているが一般の営業施設。事前調査により川原湯と同様の特徴を持つことは知っていて、見えた瞬間なぜだか気が変わり、こちらへ入ることに決めた。もともと旅館だったが火事で消失、その後日帰り施設として再建したのだそうだ。いまかわらやのホームページを見たら朝食付き宿泊プランがあるみたい。休憩用個室のオーバーナイト利用ってことなのかな。
受付で料金を支払う(450円)。タオルは別料金なので持参すべし。いくらか忘れたが自分は買ってしまったので、せめて使い倒すべく「かわらや号」と名付けて、その後の温泉旅行のお供にしている(洗濯しても硫黄臭が残ってるのがすごい)。荷物は受付で預かってくれた。
透明は新鮮さの証
受付から右に折れた廊下の奥に男湯があった。脱衣所・浴室ともそれほど広くない。キャパは4~5人といったところ。浴室は幅が狭くて細長く、浴槽も同様。一番奥の扉の向こうが洗い場2つの別室となっている。どれどれ入ってみるか…底にはやはりすのこが敷いてある。その下から源泉が湧き出してるわけだ。熱めのお湯は白濁してなくて、青みがかって透き通っている。硫黄泉は空気に触れて酸化すると白く濁るのであって、湧出直後は透明だそうだ。だから足元湧出のここは濁ってない。なるほどね。
はっきりしたタマゴ臭はある。熱さは感じるけれど酸の刺激は感じない。熱さとごっちゃになってるだけかもしれないが。いずれにせよ長くつかるのは難しいので、粘る場合もこまめな小休止を挟みながらになるだろう。
足元湧出泉を粋に味わう
貧乏根性で「最低40分滞在しないともったいない」みたいな気持ちでいたけど、それだけの動機で無理をしてもしょうがない。何事も適量がある。途中でグループ客が入ってきて手狭感が出てきたところで、ここらが潮時とあがった。結局20分ないくらいだろうか。普段と比べたら行水レベル。思い立ってぱっと入り、新鮮なネタを味わい、ぱっと出るのが江戸っ子の寿司みたいだなと思った。それもまた粋で良し。まあ自分は江戸っ子じゃないし回転しない寿司屋に入ることもないんだけどね。
蔵王は足元湧出泉が2箇所もあるし、大露天風呂というスケールの大きな有名施設もあるし、もちろん各宿の風呂も本格派だし、奥が深いな。
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